
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #104
ジアドがこれまで成してきた殺人のすべてに、意味などまったくない。
ひとかけらもない。
同様に、殺さないことにも理由はない。一切ない。何らかの欲求や衝動や必要性に駆られて行動するという機序をそもそも持っていないのだから。
ゆえに、同じ人物を二度にわたって殺さないでいることにも、これといって特別な事情など何もない。
ただコイントスを二度繰り返して、二度とも表が出たという、ただそれだけのことでしかない。
「テメーは……!」
愕然とした少年の声に特に反応を返すことなく、ジアドは乙陸式機動牢獄の胸郭に抜き手を繰り出す。罪業ファンデルワールス装甲を何の抵抗もなく破砕・貫通し、内部の心臓を掴み取り、黒炎で灰も残さず焼き尽くした。
なにやら狼狽した声が上がるが、特に聞く耳持たず次の一人を殺す。時系列が錯綜し、視点は目まぐるしく切り替わり、ある瞬間に殺した者が、次の瞬間には生きている。駆け寄って殺す。罪業場弾体を受け、傷一つ負わぬまま殺す。逃げ惑うものを殺す。子供たちに銃口を向けようとしたものを殺す。命乞いをしたものを殺す。何もしてなくても殺す。ただ単に殺す。
殺す。殺す。殺す。
最後の一人をこの世から抹消し――ジアドはぼんやりと行動を止めた。そこにいる子供たちの無事を確認することもしなかった。特に興味もなかったから。
「お、おい、アンタ……」
声をかけられる。
「助けて、くれるのか……?」
「お腹がすきました。お腹がすきました」
返事ではない。要求でもない。ただお腹がすいたという意味しか持たない発言であり、常人ならば当然のように「食べ物をよこせと言っているのだな」と発言の裏を読むところだが、当のジアドにそのような意図はなかった。
「わ、わかったよ、あとでジャーキーでも何でもやるから、だから、ダリュを……医療院まで運んでやってくれないか……」
何か言っている。
振り向くと、どこかで見覚えのあるような火傷の少年がそこにいた。
その後ろには、五人の幼児と、縊り殺された小さな死体がひとつ。
「おい聞いてんのか! 俺じゃダリュを抱えて走り回れねえんだよ! 頼むよ……!」
その声色から、連鎖的に記憶が去来する。
――ジアド、ジアド、ジ・ア・ド・くぅん!! こないだ君にジャーキー奢ってくれた気骨のある少年がいたじゃないか。エッ? ゼグくんというのだけどネ、エッ? 聞いてるかい? 彼がけっこう困っているみたいなんだ。ちょっと行って、話を聞いてあげたまえ。それからは、ンフフフ、君の思うままに動いてみるといい。保証するよ、それこそが君の求道の標となるんだ。エッ? 聞いてるかい? こっち向いてくれないかい? お?
とりあえず、そうすることにした。クロロディスは今のところジアドの現状をこの上なく正確に言い当てた唯一の人間であり、また手段はまったくの不明だが、遠く離れた場所で起こっていることを正確に言い当てることができる存在だ。その発言に、ジアドは重きを置いていた。
ジアドは、骨折の痛みのあまり気絶したと思しき幼い子供のもとへと歩み寄った。
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