
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #105
メタルセルに覆われたこの世界において、鉄バクテリアを除く微生物はほとんど絶滅している。寝室や台所など、有機物が特別多く付着する場所を除けば、感染症のリスクはほぼ無視できる。
ゆえにジアドは、この場で少年を処置することにした。
皮膚を突き破って飛び出た大腿骨の上下を掴み、雑に伸ばして切っ先を内部に戻すと、パズルのピースを噛み合わせるように折れた骨同士を組み合わせ――患部を黒炎の罪業場で軽く炙った。
それだけで数か月の時間が接合部で流れ、骨同士は癒着した。骨の破断面が付けた内出血のせいで青黒くなっていたが、ともかく治療完了だ。
次に、ぐったりと横たわる少女を観察する。
「これは駄目ですね。もう死んでいます」
「ジュジュ……クソがッ!!」
すすり泣く子供たちを尻目に、ジアドは治療した少年を抱え上げた。
「あなたたちはまだ狙われています。どこか行く当てでも?」
「なんで狙われてるってわかんだよ?」
「知り合いに聞いたので。どうしますか?」
「……ジジィと、合流しねえと……」
「ではこっちですね。行きましょう」
「ま、待てよ!! なんなんだよ!! 知り合いって誰だよ!! いや、それより、ジュジュをこのままにしておけねえよ……!」
「あぁ、弔いたいのですか」
なぜそうなのかは特に理解するつもりもないが、自分以外の人間は身内の死体を尊ぶものであることを把握はしていた。
信仰なき〈栄光〉セフィラにおいては、遺族が遺体を特別なソイレント加工施設に委ね、生産された食品を皆で食すことで弔いとする。自分が死しても、心を繋いだ者たちの糧となることが慰めになるというわけだ。
「諦めてください。〈美〉セフィラにそのような施設はありません。不必要な荷物は行動の妨げになります」
「んな風に割り切れるかってんだよッ!! 俺にまた取り零させろって言うのかよッ!!」
「ゼグにいちゃん……みんなで運ぼうよ……」
泣き腫らした子供たちが、ジュジュの顔にハンカチをかぶせ、四人で持ち上げようとしていた。
「あ、あぁ――」
瞬間、ジアドは側頭部に衝撃を感じた。
常人であれば頭蓋骨を穿孔され、内部に侵入を許すであろう運動量の激突であったが、ジアドは特に何のダメージも負わなかった。髪の一本も千切れず、よろめくことすらなかった。
直後、全方位に棘を伸ばした罪業場弾体が、ジアドの頭から落下した。
撃たれた方角を見ると、乙陸式機動牢獄が大挙して押し寄せてくるところであった。
「時間切れです。時間切れです」
もう駄目だ。子供らは死ぬだろう。特に困らないが。
「お、おい……あんたなら、あんなやつら……」
「どうということはありませんが、僕の罪業場の性質上、無敵の分身を発生させるには最低一分はこの世から完全に消滅する必要があります。その間、あなたたちを守るものはありません」
「じゃあ……いい」
「いいとは」
「オレが残ってあいつらを足止めする。あんたはそいつらを連れて逃げてくれ……頼む」
「ゼグにいちゃん!!」
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