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絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #146

     前 目次

     四肢をもぎ取られ、アンタゴニアスよりも遥かに矮小なトルソーと化したカタリスタスを、緑青の軍勢が囲んでいる。
     それらひとつひとつが変形し、罪業場の傘を広げるクラゲにも似た姿を形作る。触手をたなびかせながら、異界の海を漂う無数の幻想。
     しかしてその性質は、神と戦うことを前提とした殲滅兵装だ。半透明の大盾は絶罪支援機動ユニットの乱射する光弾を弾き、小さく開けられた穴から触手を伸ばして反撃の光線を放つ。物質世界では使用できない反粒子ビーム砲だ。
     万華鏡の中にいるかのような、絢爛な光の乱舞。
     個体ごとの戦闘能力が高いのは、黒紫の蜘蛛たちのほうであった。贖罪神機のマイナーチェンジバージョンとも言うべき絶罪支援機動ユニットたちは、かつて人類を滅ぼしかけた力を今でも損失なく維持し続けている。火力、装甲、機動力、すべてにおいて敵を上回る。
     一方で、基準界面下を揺らめく緑青のクラゲたちは、直接戦闘能力において劣るものの、ひとつ相手にはない能力があった。それは、三次元空間に自在に「地形」を描き出す力である。〈鏖権神授説〉。超弦の糸は、クラゲたちによって網目を形作り、馬防柵めいた特殊地形として前線を構築し始めた。通過した瞬間、サイコロ状にバラバラにされてしまう網が、蜘蛛たちの侵攻ルートを限定し、結果としてクラゲ側による包囲殲滅をそこかしこで成立させていた。
     当然、アーカロトも想定していた流れである。
     アンタゴニアスがその巨体を前進させ、〈空虚論考〉を振りかざす。超弦斬糸の壁を苦も無く両断。そこから鏖殺の禍蜘蛛が殺到し、付近のクラゲたちの側面や背後から砲火を浴びせ、恐ろしい速度で撃墜していった。
     通常の大規模集団戦闘とは異なるのが、大将が単騎で戦局を変えかねないほどの強大な力を有している点だ。
    《当然、そう来るネ》
     すでにカタリスタスは後退している。四肢を構成する部品すべてがクラゲに変形し、本体の戦闘能力は相応に落ちているものと考えられる。
     〈鏖権神授説〉で繋がった一対のクラゲが、次々と飛来してくる。即座に絶罪支援機動ユニットたちによって撃墜されてゆくが、超弦斬糸そのものはその場に残った。実際のところ、素粒子よりも細い糸などというものはいかなる手段をもってしても感知できない。いままで対処できていたのは、糸の両端をクラゲが担っていたために、その動きから類推できていただけである。
     アンタゴニアスの全身速度が鈍る。どこにあるのかも不明瞭な糸を、不可能色彩の剣で除去していかなくてはならないからだ。
     瞬間――
    《……ッ!》
     アンタゴニアスの胸板を、何かが貫通してくるのを知覚する。
     ――直接投射だと!
     猛烈な危機感に襲われたアーカロトは、〈接続棺〉の内部で首を傾けた。
     音もなく、こめかみの髪が幾本か散っていった。
     装甲も、有機筋線維部分も、内骨格も、神経節も、〈接続棺〉すらも貫通して、そこに糸が存在している。冷たい汗が頬を伝う。
     当然、超弦斬糸の内部に自立した動力など組み込めるはずがない。つまり直進しかできないはずだ。アンタゴニアスの損傷個所から射線を即座に逆算し、蜘蛛を差し向ける。

    【続く】

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    小説書きでミニチュアゲーマー。おもにSFを好み、三度の飯よりセンスオブワンダーが好き。小説が面白かったらフォローしておくれ。なにかあればツイッターアカウントのDMからどうぞ。https://twitter.com/shu64737980

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