
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #134
ゴシック様式の聖堂が、どこまでも広がっていた。尖頭アーチや飛び梁の無限とも思える連なりが、洗練と退廃の美を描き出している。あたかも何か荘厳かつ邪悪なる巨大生物の死骸によって構成されているかのようだ。
扇型ヴォールトによって、細胞壁のごとく区分けされた天井の下を、アーカロトとゼグは進んでいた。
「……なんか、気色わりぃな……すげぇのはわかるけど……」
アーカロトは、さもありなんとうなずく。
「僕が太陽を奪う直前、人心は封印主義に染まっていた。ただ滅んでいくことに耐えられなかったから、「滅びゆく者こそ美しい」という価値観が支配的になっていた。それを僕は否定できない。今日より明日のほうが良くなるだろう、という素朴な信仰がなければ、人は生きていけないんだ」
足取りに、迷いはない。床に刻まれた宗教的紋様に光が灯り、アーカロトたちをナビゲートしていた。
誰が、表示させているのか? シアラをさらった者ではないのか? この案内は罠ではないのか?
ともかく、アンタゴニアスと絶罪支援機動ユニット全機を基準界面下に待機させ、二人は招待を受けることに決めた。
やがて――ガイド光は折れ曲がり、ひとつの扉への経路を指し示す。
ゼグと視線を交わし、意を決して扉を、押した。
ぎぃ、と軋みを上げ、緻密に再現された造成木材の扉は道を開ける。
――その先で待ち受けていた人物を目の当たりにしたとき、アーカロトの中に驚きはなかった。
天井が空気に霞んで見えないほど高く、開けた空間。
白く、白く、生物の生存を許さない潔癖を感じるほどまでに白い空間。
塩の神殿。
その中央で。
長椅子にだらしなく腰掛け、葉巻を吹かしている老婆を視界に収めても、眉一つ動かすことはなかった。
どこかで察していたから。
老婆は煙を味わい、ゆっくりと吐き出し――口を開いた。
「バレてないとでも思っていたのかい?」
その目は、こちらに向けられてもいなかった。
「ギド……」
声が、空しく反響していった。
「ずいぶんとナメられたもんだよ。よりにもよってこのアタシに「青き血脈」のガキを養わせようなんてね」
「……別に侮辱の意図はない。あなたはこの時代の人間にしては理性的で比較的まっとうに思えただけだ。他に選択肢がなかった」
「どうでもいいよ。お前の事情なんてね」
葉巻を床に落とし、踏みにじった。
身を起こし、睨め上げてくる。
その瞳には妄執と渾沌が渦巻いていた。
「――腐った肉の塊に懐かれてベタベタくっつかれるときのことを想像して見なよ。アタシが体験してきたのはまさしくそれさ。やつらの種を腹ん中に入れた時の次くらいには吐き気をこらえるのに苦労したねェ」
目的のために自分の感情をいくらでも殺せる人物、というものが、人類史にはたまさか登場してきた。
彼らはその強すぎる目的意識のもと、世界に不可逆の変化と破壊をもたらしてきた。
「第四大罪の汚染をこの世から消し去る。そのためなら誰を殺し、何を踏みにじってもいい。アタシの生はそのためだけにあった」
彼女は、その一人だ。
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