
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #133
地表近くにまで降下する。周囲の地形が紫の罪業光で影を刻まれ、無秩序な起伏を際立たせる。
太陽の光を奪われた地球環境は、本来ならば大気が凍り付いて積雪し、一面の雪に沈む。
だが、アンタゴニアスが降り来たる一帯だけは例外的に、土と岩を晒していた。
「〈ウトナピシュテム 〉の相互発電システムがまだ生きているみたいだね。核融合炉とグラフェンバッテリーによるフィードバックループで半永久的な発電を行う巨大システムだ」
「あァ? よくわかんねえけどそれがあんなら肉団子なんかいらねえんじゃねえの?」
「遅すぎたんだよ。自然環境が健在なうちに実用化にこぎつけていれば結果は違ったんだろうけど、人類のテクノロジーがこの領域に至ったときには、もう〈ウトナピシュテム〉と〈リュカリオーン〉でフィードバックループを発生させるだけで人類はすべてのリソースを使い果たしてしまった。これは罪業によらない営みの、最後の成果なんだ。あるいは科学精神の墓標と言ってもいい」
アンタゴニアスは地表を舐めるように進む。
「……見ての通り、熱が外部に漏れている。発電システムのどこかが経年劣化で壊れているんだ。仮にこのシステムが普及していたとしても、滅びの時を数千年遠ざけることしかできなかっただろうね」
やがて、巨大な穴が眼下に広がった。
アンタゴニアスが余裕をもって入っていくことができるほどの直径がある。しばらく降りてゆくと、金属のハッチに行き当たった。多種多様の神話生物たちが戯画的なタッチで彫り込まれている。
「当たりだ」
「あん?」
「七千年間ずっと止まっていたのなら、ハッチの上にはそれなりに土砂が堆積しているはずだ。レリーフが視認できるということは、つい最近ここを誰かが通過したんだ」
そこへ、女性を模した合成音声が響き渡った。
《ソピア=テオトコス条約機構、〈静寂機関〉所属、特零號調停神祇官第五席、アーカロト・ニココペク猊下の生体コードを確認しました。来訪を歓迎いたします、猊下》
そうして、腹の底に響く轟音とともに、ハッチが展開し、アンタゴニアスを迎え入れる。
「ありがとう、〈ウトナピシュテム〉。おじゃまするよ」
ハッチを通過し、穴を潜り抜けると、そこにはゴシック様式とフランス古典主義のハイブリッドとも言うべき厳かなる聖櫃が横たわっていた。視界一面を覆い尽くすように、鎮座していた。
人類の零落と再起への希望の歴史を表わすフレスコ画が無数に描き込まれている。それぞれ別の場面を描く区切りには、数えきれないほどのアーチや尖塔、ステンドグラスなどが配されていた。眩暈がするほどの視覚的情報量である。
全長三十三km、幅二十二km、高さ十三km。
罪業に毒される前の、純粋な科学技術――その最後の結晶が、アーカロトとゼグの前に悠然と横たわっていた。
箱舟から送られてくる情報に従って、視界にドックへの経路が表示される。
「行こうか。たぶんここに、すべての答えがある」
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