
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #132
そこでジアドは、セフィラの外で出会った親切な女性との約束を思い出す。そうだ、ミーメーシスを貸与する条件。ジアドにわざわざコンタクトを取ってきた意味。
ミーメーシスは、紅き人型を形成する四百三十三基の並列多元罪業変換機関を同期させ、瞬発的に自らの罪を熱変換。マイナスの領域にまで罪業値を下げた。結果として発生した輻射熱が周囲数十キロメートルのメタルセルを溶解せしめ、意図せず穴を塞ぐ形になった。
だが、ジアドが成そうとしたこととはまったく関係ない。
罪業値がマイナスという、自然界にはあり得ない状態となったミーメーシスは、膨大な形而上的引力を総身に帯び、〈美〉セフィラで死んだすべての人々の魂――根源的主観を自身に向けて「落下」させた。
色とりどりの炎を宿した光の珠が、セフィラのいたるところから無数に殺到してくる。
ミーメーシスは、歓喜の空間震を上げた。これこそが、贖罪神機の根源的な本能にして、第二大罪の担い手より拝命した自身の存在意義であったから。
炎の中で苦悶にあえぐ人間の顔が浮かんでは消える。ミーメーシスはそれらすべてを吸収し、超次元的に連結された第一大罪へと速やかに葬送していった。
かつて、月から地上へ縦深降下してちまちまと捕食殲滅を行っていた頃とは比較にならないほど大量の魂を一度に喰らい尽くしたミーメーシスは、恍惚に論理決定回路を歪めた。ジアドの好きにさせておけば、さらにたくさん殺してくれるであろうから。
コマンドされていた座標を速やかに特定し、ガイドマーカーをジアドの目前に表示させる。
「ありがとうございます。お世話になっております」
約束を果たすといいことがあるんだなぁ、とジアドは思った。
今や第二大罪に次ぐ虐殺者となった青年は、段違いに出力を増した罪業炎を吹かし、再びセフィラに穴を開けた。
●
楽園、などという言葉にはまったくそぐわない光景が、ゼグの前に広がっていた。
「オイその楽園ってのはどこにあるんだ」
「もう見えているよ。すでに視界のほとんどを覆うほど近い」
「いやなんも見えねーよ!」
慣性中立化罪業場とやらに包まれているせいで、降下している感覚がまったくない。
表示される周辺状況は、一切の光源がないため、闇一色である。
「仕方ないな」
すると、紫の光が放射され――猛スピードで近づいてくるなんだかよくわからないモノの姿が、ゼグの前にはっきりと映し出された。
複雑な凹凸に包まれた、何か。アンタゴニアスの罪業光によって陰影を浮き彫りにされたそれは、ゼグの背筋に戦慄を走らせた。
あまりに異質。あまりに不気味。
ゼグにとって「自分を取り巻く世界」とは、のっぺりとした光沢に包まれた金属質の光景であり、あのような無秩序な造形など見たこともなければ聞いたこともなかった。
「なん……だ……? あれは……?」
「砂と、岩と、土と、それらによって形作られる山脈だよ」
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