
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #119
蒼いエネルギーラインを全身に絡みつかせた乙陸式機動牢獄たちが、半透明の長銃を連射してくる。罪業場弾体は音を置き去りにする速度で襲い来るが、しかし所詮は直進しかしない。
そして鉛玉を吐き出す過程で様々な不確定要素が存在する通常の銃器と違い、精度があまりに良すぎるため、弾道の予測が極めて容易である。
ゼグには、見えていた。
まるで生まれて初めて目を開けたような感覚だった。
――これが、ジジィやデイルのおっちゃんの見ていた世界か!
踏み込み、射線をかいくぐる。撃たれる前にどこに飛んでくるかがわかる。視界全体を同じ解像度で認識し、すべてを注視する。
轟音。
絶対にここは通さないという意志を込めて。
弟妹を守れるなら、もうここで死んでもいいのだという覚悟を込めて。
あのジアドって兄ちゃんに託したんだ。俺が時間稼ぎもできずにあっさり死んだら、みっともなくって死んでも死にきれねえ。
全身を巡る反動を、経絡に沿って螺旋状に縒り合わせ、そして銃に導く。
絶叫/撃発/咆哮。
黄金の勁気を帯びた銃弾が、機動牢獄の胸部装甲を大きく凹ませ、鋼鉄の面頬から血が迸る。
直後に側転。肩と脇腹を青白い非物質の弾がかすめてゆく。
そこからさらに着地の衝撃を体内に引き込んで次撃を放つ――その目算は、当てが外れる。いかに言ってもゼグは銃機勁道伝承者としては未熟。空中からの震脚には大きな隙が伴う。その危険性に、理解が足りなかった。
自らの死が確定したことを、集中点が遍在した視覚認識の中で理解する。間に合わない。着地際にゼグの左脚に命中する射線が存在する。空中で功を練り、勁力射撃で軌道を変更するような技巧などゼグは使えない。
後悔などする暇もなく。
爆音。
しかして真上から降ってきた物体がメタルセルの地面に激突し、勁風を撒き散らしたことで、発射されるはずだった罪業場弾体は注意の矛先が別の方向に向けられたためにゼグを貫くことはなかった。
「わ、第五大罪の担い手……!」
「怯むな! バケモノに乗ってねえんなら勝ち目は――」
それから、巨大なマズルフラッシュが幾重にも狂い咲き、白い病衣の小柄な影が縦横に疾駆。人型の要塞たる機動牢獄を次々と血と肉と骨と臓物と髄液と脳漿と鋼鉄の混合物へと変えさしめていった。
「ジジィ――!」
ゼグは顔を輝かせる。
だが、様子が何かおかしかった。
獣のような声で、アーカロトは全身に気息の力を巡らせ、殺し続けている。
「死ね。死ね。死ね。死ね」
言葉の度に、一人ずつ血煙と化してゆく。
降参の声も、命乞いの喘鳴も、アーカロトには一切届いていないようだった。
やがて、動くものがなくなった。
返り血に塗れた病衣の少年は、荒い息のまま二丁の拳銃をだらりと下げ、佇んでいた。
「おい……ジジィ……?」
小さな肩が、びくりと跳ね上がった。
「どう……したんだよ」
見ると、全身が細かく震えている。まるで瘧のように。
こちらもオススメ!