
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #120
ゼグは歩み寄り、アーカロトの肩を引こうとする。
だが、それを拒むように病衣の少年は駆け出した。
「ジジィ!」
呼ばれ、力が抜けてゆくように減速し、やがて立ち止まった。
自分の意志で立ち止まったというより、走る気力が途中で尽きたような所作だった。
「どうしたんだよ一体!」
回り込んで顔を覗き込む。
「ひ……ッ」
アーカロトは……七千七百七十七年の悠久を生きた、少年の姿を取る神は……そのとき、間違いなく怯えていた。
目の前の、ゼグに。
「あ……ぁ……」
「落ち着けよ。らしくねえな。何があった? アメリはきっちりフン捕まえたのか?」
「う……ぅう……ゆ、ゆるしてくれ……ゆるしてくれ……」
こちらと目を合わせることすら耐えがたいのか、頭を抱えてうずくまる。
「何の話だよ!」
頭を掻く。まるで外見通りのガキを相手にしているかのようだ。
アーカロトの前にあぐらをかき、辛抱強く話を促すことにした。
●
触れた瞬間、ジアドは振動を感じた。
どうやら何かの声であるらしいことはすぐにわかった。
ジアドは巨大な芋虫めいた胎児の背にこつんと額を当てる。すると、頭蓋の骨を振動が伝わり、声が明瞭に聞き取れた。
《まずそうだなァ、お前……》
人の発言の意図を理解できないことが多々あるジアドだが、これに関しては決して自分が至らないがゆえに理解できなかったわけではないはずだ。
女の声だった。歳の頃はよくわからない。そもそも他人の年齢など気にしたこともないが。
答えようと口を動かすが、すでにジアドの肺にはわずかな空気もなく、声など出ようはずもなかった。
《答えなくていいわ。お前の薄っぺらすぎて完全二次元な思考など読み取るのは容易い。わたしを誰だと思っている、この童貞が》
――あなたは誰でしょうか。あなたは誰でしょうか。
《やかましい。質問をするのはわたしだ。お前は唯々諾々と答えていればいい》
――質問とは。
《お前童貞だろ》
――はい。
《だろうと思った。存在が童貞臭いんだよお前》
――そうなんですか。参考になります。
《お前、第一大罪を探しているね?》
――はい。
《その手伝いをしてあげてもいい》
――どうもありがとうございます。お世話になっております。あなた! 殺しますので居場所を教えていただけますか?
《お前、気持ち悪いね》
――そうなんですか。参考になります。
《万魄の導き手たるこのわたしを殺そうなんてずいぶん可愛いことを言う。なんでお前ごときに殺されなくてはならないのかしら?》
――コイントスで裏が出たので特に理由はありませんがあなたを殺します。
《お前、本当に気持ち悪いね》
――そうなんですか。参考になります。
《お前が今取り付いている絶罪支援機動ユニットの指揮系統を一時的にクラッキングしている。距離的にはギリギリだけど、セフィラの外に出てきてくれたのは僥倖だった。ふふ……相変わらず可愛いねぇアーカロトは》
――そうなんですか。参考になります。それから、さようなら。
《ん?》
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