
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #128
二人で、別れを告げた。
お互いを向いてはいなかった。ただ真新しい光沢のあるメタルセルだけを見て、涙した。
お互いを慰め合うための涙ではなかったから。
ただ、偲び、悼み、別れを告げた。
子供たちのために。子供たちのためだけに。
●
「〈帰天派〉のおっさんどもは死んで、デイルのおっちゃんも死んで、」
「うん」
「で、ババァも、死んだか」
「……うん」
「そうかい。はっ、せいせいすらぁ!」
いらだたしげに、ゼグは地面を蹴りつけた。
「言ったことの始末も付けねえうちに死にやがって。がっかりだぜ」
その声が少しくぐもっていたのを、アーカロトは気づかないふりをした。
「そんで、シアラは? 死んだのか?」
「いや……わからない。僕がギドと落ち合おうと〈接続棺〉から留守にしている間に、いなくなっていた」
「しっかりしろよ、おい!」
「そうだね……返す言葉もないや……」
「どの道死んだ奴にしてやれることなんざねえんだ。生きてるかもしれない奴のために動くとしようや。助けに行くんだろ? 〈帰天派〉やデイルのおっちゃんの遺志って奴だぜ」
ゼグの言葉は、いつも端的だ。
「あぁ……あぁ、そうだね」
砕けそうな心の中で、ゼグの言葉だけが芯鉄となってアーカロトを立たせてくれていた。
だけどアーカロトは、この前向きさが一種の逃避に過ぎないことも自覚していた。子供たちの死にざまを、ひととき脳から追い出すためにやっているのだと。
「で? どこの誰がさらってったのか、心当たりはねえのか? ただの変質者の仕業か?」
「いや、それはないと思う。そのへんの人間にアンタゴニアスの〈接続棺〉をこじ開けられるはずがない。そんなやわな作りではない。それに、彼女にはきちんと「知らない人が来ても開けてはいけない」と言い含めておいた。シアラはあれでかなり聡明だ。言いつけの意味はちゃんとわかっていたはず」
「じゃあ……知ってる奴が来たってことか?」
知っている、人間。
アーカロトの知らない、シアラの知り合い。
そんなものは一人しかありえない。
「――アンタゴニアス!」
虚空に波紋が広がり、あまりにも巨大な黒き手が現実空間に浮上してきた。
「おわっ」
「行くよ、ゼグ」
「どこに」
「〈栄光〉セフィラ」
「いや、何しに?」
「生活痕から遺伝子情報を採取し、「おじいさま」が本当は「何」だったのかを調べる」
「わかるように言え!」
「道すがら説明するよ。早く」
「わーったよ!」
胸騒ぎがする。
シアラは。
あの稚い聖女は。
いったいなぜ、聖女として育てられたのか。どういう経緯で〈法務院〉の手から奪い去られたのか。ただの老人に、そんなマネが本当にできるのか。自分より他者を優先するなどという、この世界では呪いにしかなりえぬ行動指針が、いかなる理由で彼女に植え付けられたのか。
そのすべての答えが、彼女の育った場所にある気がした。
絶罪殺機の掌に乗り、ぱくりと展開した胸甲の奥から、腔腸動物の捕食口めいた触手と襞があふれ出てくる。
それらをかきわけ、アーカロトとゼグは〈接続棺〉に潜り込んだ。
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