
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #166
あるときは斑に、あるときは花開くように、混沌とした色彩が蠢く基準界面下を、二柱の神が馳せる。
片や闇黒の槍を無数に放射する紅き神。
片や蒼く澄み切った弾体を連射する黒き神。
彼らは互いに互いの周りを回りながら、それぞれの射撃を交わし合う。
弾は超光速。神の機動も超光速。それぞれの認識もまた超光速であった。
二柱は∞の軌道を描きながら凄艶な弾幕を撒き散らし続ける。星のスケールで見れば、煌びやかな鱗粉を撒き散らす、何らかの飛翔生物の求愛ダンスにも見えたことであろう。
だが、実際には両者の間に入った者はなんであれ存在を超弦レベルにまで分解されずには済まぬ、殺意と戦意の特異点であった。
そして――光を越えた速度の認識能力を持つ者が見れば、どちらが優勢であるかは瞭然だった。
贖罪神機ミーメーシスの手数は、数字を述べるならば秒間に約七百五十恒河沙程度の攻撃を撃ち放っている。射出された槍にも見える罪業場の触手は、時空を歪ませながら超光速で伸長し、神体のどこからでも、いくらでも繰り出すことができた。
一方、絶罪殺機アンタゴニアスの二丁拳銃は、さまざまな規格外機能を有しているとはいえただの射撃兵器。その攻撃速度には限界がある。しかも右の銃から発生する空間震媒質が命中した箇所に、左の銃から撃ち放たれる超光速罪業場弾体を命中させなくてはならないのだ。相手もまた超光速で動いている以上、有効打を与えるのは至難と言えた。
《殺す……ッ!! 殺してやる……ッ!!》
《叫んで、吼えて、意志を表明して、それで勝てるのならば誰も苦労はしない。滑稽ですね。本当に哀れだ》
断続的に、アンタゴニアスは被弾を続けている。ジアドの攻撃は手数を優先しているせいか、時間遡行の範囲はごく狭く、また一瞬のことでしかないので、一撃で致命傷を被ることはないが、それでもどちらが力尽きるのが早いかなど火を見るより明らかだった。
アーカロトは、神速の射撃戦の中で〈空虚論考〉を振るう。戦域に罠じみて空間裂傷を「置いて」おき、相手の行動範囲を限定しにかかる。
《必死の悪あがきですね。とても可愛らしい。では、少しギアを上げましょう》
瞬間――ミーメーシスは消滅した。空間の波紋はない。物質空間に浮上したわけではない。
その事実が意味する、あまりに致命的な状況に気づき――アーカロトは叫んだ。叫ぶしかなかった。
来る。
全速で戦域を離脱――しない。無意味だからだ。奴の――奴らの出現位置にはこれと言って制約がない。どこに逃げようが一分後に包囲される。
物質空間に帰還――しない。無意味だからだ。光媒素の満ちるこの世界だからこそ、奴の黒槍射にどうにか反応できていたのだ。勝ち目が一切なくなる。
アーカロトは、機体情報と探査結果を死に物狂いで確認し、何か打開策がないかと思考を空転させ――
何をどうしようが無意味であるという事実を受け入れられず――
ただ、叫ぶしかなかった。
一分後、再出現した七体の禍津神が、アンタゴニアスの全周囲から一斉に弾幕を展開。五千二百五十恒河沙の雨――否、壁によって黒き竜人を圧殺した。
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