
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #136
「あれは……なんだ……?」
「決まっているだろう? お前がアタシのために必死こいて集めた肉団子の成れの果てだよ。罪業変換機関は、〈無限蛇〉システムに対して常に情報をフィードバックしている。その結果をもとに、仕様のマイナーチェンジが自動で施されている。それが「型番」だ。まぁ、もろもろの性能に関してはおおむね微々たる差だけど、ひとつだけ重要な変化がある。細胞分裂による成長の速度だ。百二式以降の肉団子はこいつが異常なまでに速かった。――速過ぎてすぐに宿主の全身に転移し、代謝の異常を引き起こして死に至らしめちまう。結果として、トータルで産出するエネルギー量はそれ以前の型番より少なくなっちまった。まァ失敗作だね。だからこいつが量産されることはなかったんだけど――困ったことにエネルギー変換効率だけは宿主が有意に実感できるほどに良好ときた。寿命と引き換えに強力な罪業場が得られるってんで、後先考えないバカの間で高値で取引され始めたもんだから、ずいぶん苦労させられたよ。どうやら変換効率と転移増殖速度はトレードオフらしく、百二式以降の肉団子はすべて「宿主を長く生かしておかない」という欠陥を抱えることになった。〈無限蛇〉システムはいまだにこの問題の解決策を見出していない。だがまぁ、そのあたりはあたしにはどうでもいい話さ。重要なのは「あっという間に肥大化し、熱変換効率が良い」という点だ」
三つの巨大な肉塊を見上げるその目は、子や孫を見守る老婆そのものの、穏やかな顔をしていた。
「まさか、あなたは……未来からエネルギーを前借りするつもりなのか」
アーカロトとゼグに向ける笑みは、剣呑な嗤笑だった。
「そう。七千年前にお前がやったようにね」
罪業変換機関の、並列接続。ひとつめが熱を罪に変換し、ふたつめが変換された罪を熱に戻し、みっつめが熱を罪に変え、ひとつめに渡す。この一見無意味な変換工程は、しかしある因子が絡むことによって驚異的な事態を引き起こす。
メタ罪業。
見かけ上、罪業として機能していない、潜在的な罪業エネルギー。社会全体に与えるダメージの多さから、膨大な熱量に変換されうる可能性を秘めているものの、それ自体は罪業として振舞わず、罪業軸における引力を発生させない存在。
このメタ罪業を、並列接続された罪業循環構造に少しずつ与えてゆく。すると、メタ罪業を少しずつ通常の罪業へと変換し、蓄積してゆく仕組みが完成する。ひとつめの罪業変換機関に延々と少しずつ罪業が蓄積され、その罪業軸における形而上的引力がある閾値を超えた瞬間――特異点が発生する。
それは、元から存在する並行宇宙に接続しているのか、あるいは並列多元罪業変換機関が並行宇宙を創造しているのか……物質宇宙の因果の中に織り込まれた存在が、その正確な答えを認識することはない。
ともかく、結果として、並行宇宙に存在する同様の罪業循環機構たちと超次元的に接続され、必要に応じて熱量を融通し合うことが可能となるのだ。
それが、並列多元罪業変換機関。
絶罪殺機の心臓部。
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