
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #140
ぎゃりん、と火花が散り、脂汗を滲ませたゼグがたたらを踏んだ。
「……見えるぜ。もうあんただって殺せるんだよ、ババア」
鉄粉が散り、ゼグの拳銃は銃身が中ほどから砕け散っていた。
「ジジイ! 銃貸せ! ババアは俺が殺る!」
即座に飛んできた二丁拳銃を、後ろ手で受け取る。
「僕はナーガリア・クロロディスを今度こそ第一大罪に叩き落とす。ギドは任せるよ」
「あぁ!」
「ハッ、吼えたね、ゼグ。折れた歯を撒き散らしながら泣き言をほざくしか能のなかったお前が、ずいぶん逞しくなったもんだ」
老婆は、傲然たる嗤笑を頬に刻む。
その指が己の眼窩に突っ込まれ、義眼を引き抜くと、黄金の罪業場がドライアイスめいて漏出しはじめた。
「普段から殺す殺すほざいていたのが虚勢じゃないってこと、証明してもらおうじゃないか」
「導き手よ、彼の戦闘能力を甘く見るべきではないと私は思うネ。もしもあなたに万一のことがあったら――」
「そのときは、賭けはアンタの勝ちってことでいいよ」
「おやおやおや、おやおやおやおや、本当かね? 今の発言は絶罪規定1095条第二項の範疇に含ませてもらうが、構わないネ?」
「好きにしな」
「素晴らしい! やはりあなたを選んで良かった。豪気な導き手を持てた繰り手は幸いだ!」
そして、くるりとアーカロトに向き直る。
「そういうわけだ、アーカロトくぅん。主賓が来るまでの間、少しばかり遊ぼうじゃないか」
「また僕の記憶を奪って無力化するかと思ったが」
「んふふふふ、君が今しがたアンタゴニアスの中に自分のエピソード記憶のバックアップを取ったことはわかっているヨ? 無駄なことはしないさ。言ったろ? この世界において私は全知だと!」
それだけではない。明確な敵対関係に陥った以上、絶罪規定1条第七項に従って機体の機能は大幅に制限される。攻撃と言う形では大罪神理権限を使えないはずだ。
アーカロトは軽功を用いてバックステップする。背中から基準界面下に没し、すでに胸甲を展開して待ち受けていたアンタゴニアスの〈接続棺〉に入棺した。
目の前に、カタリスタスの威容/異様があった。
基準界面下の幻覚めいた光景の中で、二柱の神は対峙する。
――直視はするな。幻惑されるだけだ。
絶罪殺機カタリスタスは、徹底的に無機質で角ばった姿だ。およそ人類が発見しえた、ありとあらゆる「錯視」を誘発する造形が、全身のいたるところに仕込まれている。
そのフォルムは、ひどく歪な人型だ。アンタゴニアスより二回りも小さい頭部と胴体のトルソーを囲むように、全長一キロを越える長大な四肢が垂れ下がっている。まるで規格の異なる増加アタッチメントを装着しているかのような佇まいだったが、カタリスタスはこの姿が通常形態なのだ。両肩から伸びた突起の先には、フレーザー・ウィルコックス錯視によって回転しているように誤認させられる円盤曼荼羅が六つ、機体の周囲に展開している。
ジャストロー錯視によって不揃いな大きさにしか見えない装甲の連なりに覆われた腕が持ち上がり、エビングハウス錯視の作用で狂わされた遠近感の隙をつくように掴みかかってきた。
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