
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #96
デイルは、体格で言えば小男の部類であり、銃機勁道の伝承者に不可欠の体重と肺活量の下限を満たしていなかった。
この不利を補うため、体中の経絡点を刺激する位置にとあるインプラントを仕込んでいた。
四肢を走る三陰三陽十二経。全身六百五十七箇所すべての経穴にそれは埋設されている。内勁の力を微弱な電気刺激に変換するエポキシ樹脂の小型装置。
体内で気を練ると、それらのインプラントが電気刺激を放ち、付近一帯の筋肉を収縮させる。
四肢を勁力が伝播してゆく速度は、通常の神経系の信号伝達速度よりも速い。これを利用し、勁力をもって随意筋に命令を発する特殊な運体をデイルは磨いてきた。
――ゆえに。
展翅勁と同時に対数螺旋の射撃フォームからの連射。翼を拡げるように薙ぎ払われた両腕から、放射状に勁力弾が拡散する。
その動きは、乙陸式機動牢獄らが罪業場長銃の論理トリガーを撃発させるよりも早く終わっていた。
――電磁套路・六華宝仙。
人体の限界を踏み越えた超速反応。
化勁の作用を帯びた左右十二発の弾丸は、中空で凄艶なる弧を描き、あるものは正面から、またあるものは背後に回り込みながら、一斉に敵陣へと殺到。着弾と同時にデイルの功夫が炸裂した。木の葉のように出鱈目な方向に吹き飛んで行く乙陸式たち。
「お前ら! 逃げろ!」
だが、その顔に余裕はない。小男のデイルは、罪業ファンデルワールス装甲を貫徹できるほどの内功を練るには一瞬の蓄勁を必要とする。この数の機動牢獄を殲滅することは不可能だった。吹き飛ばしただけで、致命打などひとつもないのだ。
「面白い大道芸ですね。まったく秀逸だ」
乙零式は、浮遊する鉤爪たちを六角形に配し、罪業場を展開。こともなげにデイルの攻撃を弾き飛ばしていた。
その前腕部装甲が割れ、罪業場収束器官が露出する。
「目ざわりです。消えなさい」
「ッ!」
瞬間、腹の底に響く重厚な撃発音が轟き、乙零式の全身で火花が狂い咲いた。たたらを踏む死の天使。
デイルの左右に、厳めしい顔つきの男たちが並び立った。〈帰天派〉を捨て、シアラに頭を垂れた元聖戦士たちだ。手に手に大型の重火器を保持している。
「よせ」
デイルは脂汗を滲ませながら言った。
「死ぬだけだ。ガキんちょどもを連れて逃げろ」
「子供たちはもう抜け目なくこの場を離脱している」「あとは我らが足止めをする」
あ、そうなの?
いやいやいや。
「だとしても! 足手まといだっつってんだよ! 悪いがあんたらじゃ足止めにもならねえ!」
「度し難い愚かしさですね」
鉤爪の群れが音もなく宙を滑り、赤黒いビームを照射。強化装甲服を着装する暇もなかった男たちの肉を穿ち、手足を刎ね飛ばす。
苦悶の声が上がる。
「あなたがた、まさか私が後方に戦力を配置してないとでも思っていたのですか?」
その言葉に、デイルは愕然と目を見開く。周囲の苦悶も、止まる。
そして。
男たちは絶叫と咆哮の入り混じった声を上げ、一斉に重火器を発砲。熾烈な火線が大気を灼き、引き裂いた。
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