
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #97
「オラッ、おめーら足を止めんな! どっかで車奪うしかねえ!」
後方を警戒しながら殿を走るゼグに叱咤され、カル、ダリュ、ジュジュ、レム、レミ、トトは息を切らして駆ける。
だが、先頭のカルが振り返ってきた。
「け、けどゼグにーちゃん……」
「けどもだってもねえ!! 振り返んな!!」
「いいのかよ!! だっせぇいきかたすんなって、いつもいってるじゃねえか!!」
大きな声に、他の子供たちも足を止める。
皆、赤く充血した目で、ゼグを見ている。
思わず、唇を噛む。どうやって弟妹たちを説得すべきか、とっさに言葉が出てこなかった。
土台、これは自分勝手な意思の押し付けである。「弟妹をみすみす死なせるなんざ兄貴としてださすぎる」という、ゼグ個人の価値観でしかない。
「俺らがあの場にいて、なんか出来たか? 状況が変わったか? かっこつけんのはてめぇの身をてめぇで守れるようになってからだ!!」
ダリュとトトが、こらえきれずに泣き出した。
「泣きながらでもいい!! 文句は生き残ってからいくらでも聞いてやる!! だから、頼むから……走ってくれ……頼む……」
怒鳴られるよりも、懇願されたことが、堪えたようだった。
すすり泣きながら、一行は街をゆく。
だが。
「見つけたよ。かわいいね。泣いてるよ。かわいいね」
彼らはしょせん、子供だった。
「殺すなよ。駄目だぞ殺すなよ。駄目駄目殺すなよ。あぁ、殺すなよ殺すなよ駄目だぞ殺すなよ」
どれだけ才知に長けていようと、どれほど場数を潜っていようと。
「やぁ、ボクたち。〈クーニアック〉の養い子だね? 大丈夫だよ、殺したりしないから。おじさんたちについてきてくれるかな?」
「その前に犯そうぜ!! いいだろォ別に!!」
「黙ってろペドカス」
本気で包囲に動いた軍集団を撒くような逃走術など身に着けているはずもなく。
「ぁ……ぁ……」
「怖がってるよ。かわいいね」
ゼグは。
動けなくなった。
黒く冷たいもので胸を塞がれ、思考が停止した。冴えた方策など何も浮かばなかった。
白い冷気を帯びた動甲冑の集団が、半透明の銃器を手に、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「ぃや……やだ……やだ……」
「ほら、怖がらないで? 手を繋ごうね」
機動牢獄の腕が伸び、ジュジュの手を握りしめた。
とたん、甲高い叫びが上がる。超低温の罪業ファンデルワールス装甲が幼子の肌に凍傷を刻み、皮膚組織を壊死させてゆく。
甲冑の悪鬼どもは、そのさまを指さしながらけたたましく笑った。
「うあ、うああああああ!!」
銃声。火花。ダリュが拳銃を撃った。何の意味もない行いだった。
ごきり、と。
機動牢獄の無造作な蹴りが、ダリュのすねをへし折った。肉を突き破って骨が露出した。
絶叫を上げて倒れ伏すダリュの顔を、超低温の足裏が踏みにじった。
「駄目だろ? 人に銃撃ったら。死んじまうだろ? ア? なにやってんの?」
子供たちの目から、光が失せた。驚くようなことではなかった。いつかはきっとこうなるのだと、理解していたはずだったから。
無力な子供であることは、罪なのだから。
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