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絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #143

     前 目次

    【神かみ】
    1.
    人間を超えた存在で、人間に対し禍福や賞罰を与え、信仰・崇拝の対象となるもの。
    2.
    宗教・習俗において、信仰・崇拝・儀礼・神話・教義などの中心となる位格・存在。日本の神道や民俗の祭りでまつられる対象、またはユダヤ教・キリスト教・イスラム教などの超越的絶対者。仏教では、仏や菩薩の権現・守護者などとされ、仏とは区別される。 「 -に祈る」 「 -のお告げ」
    3.
    哲学で、世界や人間の在り方を支配する超越的・究極的な最高存在。コペンハーゲン宇宙観を守護し、不条理な形で事象に干渉する。

     ●

     並列多元罪業変換機関の理論を聞かされた時、クロロディスはかすかな不安を覚えた。
     原理の瑕疵に気づいたわけではない。
     ヴァーライドは人後に絶する天才だ。その理論は十分な再現性を持っているのだろう。
     不安だったのは、その原理が妥当であり、並列多元罪業変換機関が本当に実現されてしまうだろうという事実のほうである。
     ――過去や未来から熱量を適時融通する……? そんなことをして本当に何も問題はないのか?
     だが、技術的なブレイクスルーは常に嘲笑と偏見に晒されてきたものだ。壮年以上の者は、新たな技術を「不自然で悪しきもの」と考えがちである。自分の不安もまた、それに類する愚かな懐古主義に過ぎないのだろう。
     そう考え、自らの叡智のすべてをもってヴァーライドを補佐し続けた。
     ――ある日。
     クロロディスは、自らの脳裏に、奇妙な音、のようなものを知覚した。
     それは声のようであり、
     歌のようであり、
     叫びのようであり、
     何かが上げる軋みのようであった。
     音、のようなものは、日増しに大きくなっていった。クロロディス以外の誰にも聞こえていないようだった。
     医療祭祀や梵我祭祀に罹ってみたが、いくつかの無関係な生活習慣病が指摘されただけで、音の原因はまったくの不明であった。
     そして。
     並列多元罪業変換機関の試作品が完成するときが来た。それぞれの肉腫の罪業循環をまったくロスなくフィードバックループさせるための最終調整を、ヴァーライドはクロロディスに任せた。比類なき創造的天才も、複数のパラメータの緻密な調整能力に関してはクロロディスに一日の長があることを認めていたのだ。

     そうして、その瞬間、クロロディスはそれの存在を聴いた。

     それは宇宙の外にあって、宇宙を形成するもの。
     それにとってこの宇宙は無数にある臓器のひとつに過ぎず、自らの体調を適切に管理するために、さまざまな手段をとって臓器の内部に干渉してきた。
     今、それは自らの臓器のひとつに、無視しえぬ重大な疾患の予兆を感知し、免疫機構をそこに差し向けようとしていた。
     クロロディスは、その事実を聴いた。
     時間を一本の線として錯覚させる脳の機能が、未完成・未調整の並列多元罪業変換機関と接触することによって意図せず鈍麻し――それが名状しがたい方角から放ってきた空間震を感受したのだ。
     クロロディスは恐怖した。それが放つ免疫機構は、およそ人類には対抗できそうに思えなかったから。
     クロロディスは歓喜した。これでようやく、「彼女」を真に救う道筋が立ったから。もう無力ではないと知ったから。

    【続く】

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    小説書きでミニチュアゲーマー。おもにSFを好み、三度の飯よりセンスオブワンダーが好き。小説が面白かったらフォローしておくれ。なにかあればツイッターアカウントのDMからどうぞ。https://twitter.com/shu64737980

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