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絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #144

     前 目次

    《――私はネ、知っていたのだヨ》
     基準界面下を満たす光媒素エーテルを震わせ、クロロディス/カタリスタスが語り掛けてくる。
    《知っていた、だと?》
    《並列多元罪業変換機関をこの手で完成させる直前。私はあの三つの肉塊によるフィードバックループがコペンハーゲン宇宙観の破れを招来することを理解していた。もしも稼働させてしまえば、宇宙の免疫機構たる〈彼ら〉に目を付けられ、恐らく人類は滅ぼし尽くされるであろうことも》
     カタリスタスの腕が蛇腹状に分解され、それぞれが電磁力遮断の罪業場による刃を伸長させながら殺到してくる。
     アーカロト/アンタゴニアスは意に介さず肩から突撃する。大罪を根拠とする超高出力の罪業ファンデルワールス装甲は、どの道そのような形而下レベルの攻撃では傷一つつかない。
    《知っていながら、私は最後の一手を加えた。知っていながら、すべての引き金を引いた。それが私の大罪つみ。その最初の一つ》
     光速の五千倍で回転する翡翠色の円盤が多数、優美な弧を描きながら連続してアンタゴニアスを斬りつけた。五千倍と言っても、基準界面下では相対性理論が正常に働いていないので、相対質量の増加などはない。
     肩口より生えた黒紫の衝角を肥大させ、それら斬撃の驟雨を強引に突破する。全身に激突する罪業場刃がエーテルの火花を散らす。基準界面下の幻炎や樹状構造が超越的な反応を起こし、万華鏡めいて組み変わる。
    《だって仕方ないヨねぇ! あの女性ひとを一人にしないためだもんネェ! ウフフアハハ!》
     目の前に迫ったカタリスタスは、片腕を欠いたまま泰然とアンタゴニアスを待ち受ける。
    《もういい。黙れ、詐欺師》
     内部に複雑な色彩を孕みながらも全体としては闇色としか形容のしようがない不可能色彩の刃が、うるさげに薙ぎ払われる。
     直径数キロに達する扇状の軌跡が空間に刻まれた。同時に、今まさにアンタゴニアスを包囲して寸断しようとしていたモノが切り捨てられる。
     絶罪殺機カタリスタスの罪業兵装が一つ――〈鏖権神授説〉。
     全十七種の素粒子を奏でる超弦をマクロな長さにまで伸ばしてカラビ・ヤウ多様体を描画させ、もって三次元空間の中に折りたたまれていた多元宇宙の狭間に対象を寸断する。
     蛇腹状に分離した腕パーツは、超弦を操作するための機動プラットフォームだったのだ。
    《オヤオヤ、バレてたかい? 超弦を一方的に切断するとは、君の〈空虚論考〉はいろいろとブラックボックスじみているね》
    《なぜだ……》
    《またそれかい? 質問は明確にお願いしたいなァ?》
    《貴様は、シアラを愛してはいなかったのか。あらゆる人の業を愛した貴様が》
     カタリスタスは、おどけた所作で肩をすくめた。
    《私は道化。私は狂言回し。私はトリックスター。私はコミックリリーフ。しかして私は――媒質カタリストだ。周囲の者同士の化学反応を強烈に促進しながら、それ自体は変化しない存在。……愛していたとも。彼女が私以外の者と出会い、関係性を構築し、メタ罪業の依代として完成し、並列多元罪業変換機関の一部と化すに至る因果のすべてを――ネ》

    【続く】

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    小説書きでミニチュアゲーマー。おもにSFを好み、三度の飯よりセンスオブワンダーが好き。小説が面白かったらフォローしておくれ。なにかあればツイッターアカウントのDMからどうぞ。https://twitter.com/shu64737980

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