メインコンテンツへスキップ
見出し画像

絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #164

     前 目次

     物質空間で光速を越えることは何物にもできない。
     絶罪殺機をはじめとする神代の兵器すらも、光速を越えるには基準界面下への潜航を必要とする。
     ゆえに、アーカロトはその攻撃に反応できない。反応できたらそれは明白に因果律を捻じ曲げる事象なのだ。
    《さあ、かわして。凌いで。防いで。生き残って。僕はここにいるよ。きみを馬鹿にしながら待っているからね。あの子たちの苦悶と恐怖と絶望を想うんだ》
    《ぐッ……あああああッ!!》
     黒き槍が、無数に伸び、消え、閃き、宙を裂き、乱舞した。ミーメーシスとアンタゴニアスを結ぶように、黒いラインが数え切れぬほど明滅する。
     不壊にして不朽のはずのアンタゴニアスは、全身の各所に細長い穿孔痕を開けられ、無数の警告とエラーメッセージがアーカロトの脳裏に表示される。
     ならば潜航するまで。物質空間においては条理を越えた奇跡でも、基準界面下ではありふれた現象に過ぎない。光媒素エーテルの波は、光速を越えて伝播しうる。ゆえに光媒素エーテルの探査波ならばこの攻撃を捉えることができるはずだ。
     垂直に立つ水面に、飛び込む。
     相対性理論ならぬ絶対性理論に統べられた宇宙へと。
     そのまま基準界面下を疾駆し、ミーメーシスの背後に位置どる。
     ――瞬間、目の前に鉤爪の備わった紅い手が波紋と共に出現。
     ジアドが振り返りもせずに片腕をこちらの世界に突っ込んできたのだ。
     とっさに仰け反ると、顔の目の前でかつん、と五指が閉じられる。肘部分から伸びる突起に〈空虚論考〉を引っかけ、基準界面下に引きずり込む。
     光媒素エーテルを震わせ、紅き禍津神の動作を精密に定位する。
    《あまり賢明とは言えませんね。超光速の攻撃を認識できるからと言って、それに対してきみが反応できるかはまったく別の問題です》
     砕けた大罪装甲の狭間から青黒い体液を溢しながら、アンタゴニアスは超光速機動。ミーメーシスの周囲を瞬時にめぐり、無数の空間裂傷で取り囲んだ。相対質量の無限増加も、主観時間の無限鈍化もなく、過去に戻ることもない。この世界において光を置き去りにする速度は何ら理に反するものではないのだ。
     だが――
     そこでミーメーシスは爆散した。
     いや、瞬時に神体を構成する全個体が分離し、それぞれが空間裂傷の僅かな隙間から包囲網を脱し始めたのだ。
    《……ッ!》
     好機だった。再度合体する前に、ジアドの搭乗する個体を突き止められれば――
     見つけた。
     他の個体は分離と同時に純白の姿を取り戻しているのに対し、一体だけ腐った血色を維持し続けている。桁外れの罪業質量による赤方偏移現象。
     否。
     他にもちらほらと紅い機体がいくつか飛翔している。
    《……分身か》
     便宜上、分身などと称してはいるが、本物と区別をつける方法はない。ミーメーシスごと、ではなく、ジアド自身だけが分身能力を発揮することもできるわけか。
     罪業質量の発生源を欺瞞する思慮。いよいよもって今までの戦い方は通用しないと考えるべきだろう。

    【続く】

    好評発売中!

    私設賞開催中!


     
     
    小説書きでミニチュアゲーマー。おもにSFを好み、三度の飯よりセンスオブワンダーが好き。小説が面白かったらフォローしておくれ。なにかあればツイッターアカウントのDMからどうぞ。https://twitter.com/shu64737980

    あなたへのおすすめ