
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #107
ゼグたちや、デイルや、元聖戦士たちや、付近住民らとともに宴会をし、笑いあった場所まで戻ってきたとき、アーカロトの前に広がっていたのは、静寂、血と煙と荷電粒子の匂い、倒壊したメタルセルビルの残骸たち。
何もわからなかった。
ただ、皆、死んだことだけは、わかった。
無数に穴を穿たれた死体が、いくつも折り重なっている。黒き巨神に乗り込む前に、彼らが笑い、杯を酌み交わしていたさまを、覚えている。
乙陸式に殺されたようだった。
そして周辺の高層建築が両断され、何割かの死体は炭化や蒸発の憂き目にあっている。零式もここにいたのか。本格的な作戦行動だ。
アーカロトとシアラが去ったあと、〈法務院〉が彼らを襲ったのだ。
だが、なぜ? 敵の狙いが全く理解できない。
呼吸が、浅く、早くなる。この死屍の中に、子供たちも転がっているのではないのかという懸念。
子供たちの名を、順に叫ぶ。返事を求めて。
返ってきたのは反響のみ。
ぞっとするほど、空しく響いた。
アーカロトは叫びだしたくなる衝動をこらえ、足裏に意識を集中させた。大地より伝わる、かすかな動きを聴勁く。
「……っ」
ひとつだけ、命の鼓動を感知した。
駆け出し、ほどなくその姿を捉える。
小柄な、男、だったもの。四肢が切断され、無造作に金属床に転がっている。断面は炭化し、図らずも失血死を免れさせていた。
「デイル……!」
かすかに痙攣するその上半身を、抱き上げる。
呼吸するたびに、か細い笛のような音が出る。
見ると、四肢のみならず、体中を高熱で貫かれている。今まで命があったのが奇跡と言っても良い。
「……ひ……ひ……」
こちらに気づき、笑顔の成り損ないを浮かべるデイル。
「安心しろ。すぐ医療院に運んでやる。四肢の欠損ぐらいなんてことはない。だから気を強く持つんだ」
「……い……いやだ……」
震えるその言葉の意味が理解できず、アーカロトは眉をひそめる。
「やめてくれ……そんなことは……」
「何を……」
小男のぎょろりとした眼から、氷点下の涙が零れ落ちた。
「弱者として……生きるなんて……耐えられない……」
再生医療の技術は、ある。だが、〈王冠〉セフィラ以外の医療院では施術されない。肉体の損壊は取り返しのつかないものでなくてはならない。さもなくば罪業の量が減ってしまう。ゆえに、デイルに対してあてがわれるのは普通のサイバネ義手だ。
「おそろしい……こわい……無理だ……」
瞬間……この男が何に絶望しているのかを理解した。義手に、勁力など通らない。これから待ち受けるのは、ただの弱者としての生涯だ。仮にアーカロトが、アンタゴニアスという絶対の武力を背景に、力づくでデイルに再生医療を施させたとしても、その結果経絡が未発達な四肢が生えてくるだけのことだ。
「駄目だ……生きることをあきらめてはいけない……! そんなことを、言わないでくれ……!」
ディムズと同じ力を持つ男が、無様な泣きごとを言っている。
その事実に、肺腑から活力が抜けて、冷たい瘧が広がってゆくような気がした。
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