
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #159
純白。
未だ何者の罪業場にも染まらぬ、白無垢の巨蜘蛛たち。
空間に無数の波紋が広がり、その中心から次々とミーメーシスたちが姿を顕わしてくる。
アーカロトは、恐慌した。冷たい汗が全身を濡らし、血走った眼が見開かれる。
次々と物質世界に浮上してくる贖罪神機そのものを怖れたわけではない。
恐ろしいのは、これほど大量のミーメーシスが今この場にいるという事実の方である。
結果として何が起こるのか。
現在はヴァーライドの掌握下にある贖罪神機たちは、特定波長の空間震を発し、〈彼ら〉の探査波を相殺する機能を担っている。
それが持ち場を離れ、こんなところで仕事を放棄している。
アーカロトはアンタゴニアスの複合センサーインターフェースに目をやり、神経質に隅から隅へと精査する。有意な変化、なし。
どっと安堵が押し寄せる。だが油断は禁物だ。ワールドシェルの外殻に均等に埋設された四十三万機のうち、たまたま散らばった場所の個体がここに呼び出されたため、妨害波としての機能は辛うじて維持されたか。あるいは、特定の個所に大きな穴が開いてしまったけれど、現在たまたまそちらの方角に〈彼ら〉がいなかったか。いずれにせよ予断を許す状況ではない。
次々と贖罪神機たちは分解し、複雑に噛み合い、合体し、そして腐った血の色彩に染まってゆく。
元の巨躯を取り戻した紅き禍津神が、黒い罪業場のたてがみを振り、首を傾げた。
《こうですか? こうですか? こうですか? こうですか?》
――どうする。
迂闊にミーメーシス個体を破壊すると、ジアドはまたしても増援を呼ぶだろう。ならば一撃で確実にジアド本人を仕留めるしかない。
だが、どうやって?
《わかりました。こうですね?》
瞬間、ミーメーシスの神体が、水面に沈み込むように消えた。波紋だけが残る。
――基準界面下への潜航を学んだ!?
即座にアーカロト/アンタゴニアスも後を追う。彼我が異なる世界にいると、「なんとなく近くにいる」程度のことしかわからなくなり、敵の次の行動を予測できなくなる。
目の前に広がった極彩色の異世界に――ミーメーシスの姿はなかった。即座に半身になり、突如出現して掴みかかってくる紅き手を難なくかわす。同時に襲い掛かってくる分身体を〈空虚論考〉で薙ぎ払い、吹き飛ばす。
ところが――不可能色彩の刃がミーメーシスの胴に触れた瞬間、粉々に砕け散った。
アーカロトは目を見開く。
当然、破壊できたわけがない。
――自切か!
自ら分離することで、超次元の剣を回避し、そのまま間合いを詰めてくる。完全に虚を突かれた。鉤状に曲げられた指先が、亜光速の青方偏移を纏いながら迫り――
とっさに〈接続棺〉の存在する胸部を前に突き出す。
すると、予想通り敵の指先は止まった。
アーカロトは目をすがめる。
ジアドの狙いは――アンタゴニアスそのものか?
《おい、お前》
問いかけた瞬間、分身体たちは消滅した。どこまでも間の悪い奴め!
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