
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #160
ジアドは、困っていた。
そもそも絶罪殺機がどういう機序で第一大罪と繋がっているのか。そこを理解していなかった。
激しく駆動する末端部分に重要な機関は配置しないだろうと理屈として理解していたが、それ以外のことはさっぱりである。
因果律の整合性を守る神の干渉によって無敵となっている自分とは違い、アンタゴニアスはとても脆く儚い存在だ。誤って壊してはいけないのである。
《クロロディスさん、聞こえますか》
《もちろんもちろん! 聞こえているとも! 私は決して君の声を無視しないとも! いったいどうしたのかナ?》
その会話は、空間震となって周囲に拡散し、アーカロトにも筒抜けとなっていたが、ジアドは一切頓着しなかった。
アンタゴニアスを指さす。
《これを僕のにしたいです。どうすればいいですか》
《ウム、そうだねぇ、まず重要なのは並列多元罪業変換機関だ。これは機体後背部に搭載されている。次に〈接続棺〉も欠かせない。君を月世界に葬送する門だからネ。それからアーカロトくぅん、彼も生きたまま確保しなきゃいけないヨ。動力源だからね。さらにさらに、それら三つの要素を繋ぐエネルギー伝達罪業場回路の構造も破壊してはならない。最後に、罪業エネルギーの分配と調整を行う分散型生体制御中枢七基も丁重に扱わないと! いやぁ、大変だねェジアドくぅん! 胸部のほぼすべてが破壊できないねェ!》
《四肢をすべてもぎ取って、罪業収束器官をすべて潰せば良いのですね。わかりました。ありがとうございます。殺しません。殺す》
《僕がやすやすとそんなことを許すとでも思っているのか。お前はなぜアンタゴニアスを欲しがっているんだ》
少年の声。アーカロトくんと言うのだったか。
ジアドは状況を判断し、アンタゴニアスに向けてゆっくりと頭を下げた。
《僕には動機がありません。しかし、なぜか食事や呼吸といった、自らの生命を維持する行動をやめることができません。別にやめたいと思っているわけではないので、それはそれで良いのですが、なぜやめることができないのか――それがわからない。他のことに関しては疑問など放置するのですが、この謎だけはなぜか無視できない。だから僕は自らを知らなくてはならない》
《それがアンタゴニアスを奪うことと何の関係がある》
《大いにあります。僕はこの肉体という枷を脱し、自らの脳を分解せねばならないのです》
アンタゴニアスは、かぶりを振った。
《お話にならないな。何を言っているのかまるでわからない》
《そういうわけですので、ください。お願いします。殺しません》
《しかも会話が成立しない》
そこで、少年の声が一段低くなった。
《だが、お前の正体は今のやり取りで理解した》
《正体? 殺す。なんですか? なんですか? 殺す》
《――お前は、本体じゃない》
言われていることの意味が分からなかった。
《お前自身が、本体の罪業場の作用によって現出した分身体だと言うことだ》
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