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絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #130

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     そう――不可解な現象。正常な因果の筋道が立たぬ事柄。それらの陰には常に第三大罪メタ・オブリビオンがある。
     かの大罪の担い手はいかなる名であったか。かの大罪を動力源とする絶罪殺機はいかなる識別コードであったか。
     そのどちらも思い出せない時点で、アーカロトはひとつの確信を得る。
    「ゼグ」
    「あんだよ」
    「シアラは「何か」に育てられた。それは生物ではないし、物質とも言い難い何かだ。その「何か」はシアラに徹底的な利他の思想を植え付け、そして彼女を一人残して去った。罪の熱変換で辛うじて維持されている世界に、罪を犯さぬ聖女が生み出された。この時代において誰かの役に立つというのは罪ヒトを犯コロし、エネルギーソースとなることに他ならない。彼女は何ら生産性に寄与できない。だけどシアラは同時に「青き血脈」だった。その人品、物腰、容姿は他者を惹きつけ、従わせずにはいない。そのためにデザインされた存在だから。そのような存在が愛を説き、罪を犯すなと主張したとき、何が起こると思う?」
    「実際には役に立たねえ教義にすがり、多くの奴らが罪を犯さなくなる」
    「そしてこの世界は破滅に向けて大きく前進する。そのことを人々が認識したとき、ただの罪業とは異なるものが発生する」
     アーカロト/アンタゴニアスは、基準界面下から伸ばした触手を引っ込め、進路を転身した。
    「メタ罪業……とでも呼ぶべきものだ。ただの罪業が、全人類の感情論に反しながら実際には役に立つのとは対照的に、メタ罪業はまったく逆。人類は根本的に同族を殺したくなどないし、愛が欲しいし、愛を与えることも好きな種族なんだ。そうではない特殊事例を挙げて人間の本質などと言い出す露悪は、根本的に公平な視点とは言えない。そういう人類種の感情論を心地よく満足させながら、実際には何の役にも立たず、エネルギーの致命的枯渇に人々を誘導し、結果としてただの罪業とは比較にならない損害を人類社会に与える。そういうものが、彼女からは生み出されようとしていた」
     〈接続棺〉の中にホロ・インターフェースを表示させる。
    「メタ罪業の存在自体は、七千年前から認識されていた。その活用法もまた、研究されていた。それらの試みが最終的にどのような成果を上げたのか、僕はすでに眠りについていたのでわからないが――研究が成されていた施設の場所は覚えている」
     長細い聖櫃めいた構造物が描画される。ゆっくりと回転しながら、半分が透明になって内部を可視化させていた。全長約百三十三km。幅二十二km。高さ十三km。本来は播種船として製造された二基の箱舟の片割れ。故郷に見切りをつけ、宇宙に旅立っていった〈リュカリオーン〉とは対照的に、閉鎖環境型研究施設として残されたモノ。
    「そりゃどこにあるんだ?」
    「楽園チキュウ」
     ゼグは、息を呑んだ。
    「エネルギー危機によって枯渇し、僕が止めを刺した、人類揺籃の地。シアラを育てた「何か」が、生産したメタ罪業をどう活用するにせよ、必ずそこに向かうはずだ」
     ――その名を〈ウトナピシュテム〉と言う。

    【続く】

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    小説書きでミニチュアゲーマー。おもにSFを好み、三度の飯よりセンスオブワンダーが好き。小説が面白かったらフォローしておくれ。なにかあればツイッターアカウントのDMからどうぞ。https://twitter.com/shu64737980

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