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絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #113

     前 目次

     ともかく「青き血脈」が健在なうちは保守派が官軍である。表立って〈トリスケリオン〉の製造に必要となる百二式以降の形式の罪業変換機関を譲り渡してやるわけにはいかなかった。
     ただし――〈クーニアック〉が自分で勝手に最新式の肉団子を入手する分には、かなりの程度「見て見ぬふり」を決め込むことはできた。実際のところ、罪業変換機関の形式番号の違いを精密に把握している者は〈法務院〉の技術部門にすらいなかったのだ。それらはブラックボックス化した古のテクノロジーによる意味不明な区分けであり、何のために型番が振られているのかすら謎である。どの〈原罪兵〉に何式が埋め込まれているかなど誰も把握していなかった。ゆえに百二式以降を宿した〈原罪兵〉の生息地域の情報を流してやることもできなかった。
     問題は、なかった。
     〈クーニアック〉は独力で〈原罪兵〉狩りを始め、ゆっくりとではあったが自らの目的ににじり寄りつつあったのだ。
     だが、このまま独力で〈トリスケリオン〉の生産体制を確立されてしまうと、今度は〈法務院〉がそれに一枚も噛めなくなってしまう。あれは冗談抜きで社会構造を根本から変えてしまうであろう。そのとき〈法務院〉が壊され破棄される側に回ることなどあってはならない。
     ゆえに、「贈り物」を老婆に届けることにした。ソレが、彼女の計画において大きな一助となることはわかっていたから。〈クーニアック〉が、己の手駒としてビナとゼグという名の二人の幼児を拾って利用していることはわかっていたから。恩を売るために、必死だったから。
     〈クーニアック〉には、何人か子供がいた。彼ら彼女らは、老婆が失踪している数十年のうちに成人し、〈法務院〉においてそれなりの地位についていた。
     ――複雑性の原理。
     移植されるのは彼ら彼女らのクローン体。移植するのは〈クーニアック〉の子供たちから切除した肝臓の一部。〈孤児〉と同じプロセスで「従順さ」を植え付けられたクローンたちは、やがて数か月で幼児相当の体と知能を得たことを確認されたのち、予定通り老婆のもとへと進呈された。
     〈クーニアック〉は――ギドは、それらの贈り物を、何も言わぬまま受け取った。葉巻を吹かし、大きく息をつき、頭をかいた。

     ――なんだいなんだい。アタシに母親代わりでもしろって?

     さも面倒そうに顔をしかめ、しかしあどけないクローンたちの背を押してアジトの中へと導くその顔は、意外なほど穏やかだった。

     ●

     アーカロトは。
     それらの事情を詳しく知っているわけではない。
     だが。
     一歩、二歩、惰性で足を進め、しかし膝に力が入らず、そこで崩れ落ちた。

     ――あたしも歳だからね。さすがにガキどもの一生は面倒見てやれない。

     匂いが、した。
     たまらない異臭が。

     ――あいつに、代わりにガキどもを守っていってもらいたいもんだが、さてどうなることやらねぇ。

     目の前にある物体が何なのか、理性が理解することを拒絶していた。理解すれば、きっと自分を許せなくなることがわかりきっていたから。

    【続く】

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    小説書きでミニチュアゲーマー。おもにSFを好み、三度の飯よりセンスオブワンダーが好き。小説が面白かったらフォローしておくれ。なにかあればツイッターアカウントのDMからどうぞ。https://twitter.com/shu64737980

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