
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #114
臭気の源は、一塊の集まりだった。
小山のごとく盛り上がった、さまざまな色の集合体。
血色の微妙に異なる大腸や小腸が、ぎゅうぎゅうと全体を縛り上げていた。きつい緊縛に張り裂けた個所から、糞便が漏れ出ている。
――ガキどもにはなるべく懐かれない態度を心掛けちゃいるが、どうにもね。あぁ? 心配いらないよ。同情されるようなヘマはしてないさ。
出鱈目な方向から、たくさんの四肢が突き出ていた。稚い手足が、明らかに異様な角度で梢を伸ばしている。どう考えても人体はこんな姿勢を取れない。
――あたしが動けなくなったら、あいつらはあたしを切り捨てて生きていく。それでいい。
自らの臓物に締め上げられて鬱血した顔が五つ。背中合わせに周囲を見渡すように配されていた。計り知れない苦悶に歪むその顔は、のほほんと笑っていた普段の表情からは想像できない、視界に入れることに葛藤が必要なほどの凄まじい形相だった。
――ガキんちょどもは……あっちに逃げたよ……早く行ってやれ……俺を、無駄死にしたマヌケにしないでくれ……
その口には、彼ら自身の手足や内臓が押し込められ、顎の関節は外れ、頬は裂けていた。人間の顔には見えなかった。
「……カル……ダリュ……レミ……レム……トト……」
罅割れた声で、やっとそれだけを呟き、
膝立ちの姿勢すら維持できなくなって、倒れ伏した。
もう二度と、起き上がれる気がしなかった。
泣く力も、叫ぶ力も、魂のどこを探しても見つかりそうになかった。
血と、肉と、臓物と、糞便の異臭だけがアーカロトを取り巻いていた。
「……僕は、嬉しかったんだ。君たちが、生きてて、滅んでなくて、嬉しかったんだ……」
うれしかったんだ。
それだけをうわごとのように繰り返し、
――くそオトナきざむのたのしい!
――ねー、どうしてないてるの?
――あーそーぼ。またあのおうたおしえてよ
――にーちゃんねーちゃん! すごろくやるの! みんなで!
――おれはニンジャー! ニンジャー!
――えへへ、たのしいね、じぃじ!
――いたぁいの?
――おなかすいたの?
――これあげるー。
崩れた、濁った、獣のような、甲高い、聞くに堪えない、鼓膜を掻きむしる、内臓から絞り出されるような絶叫。
自らの声帯を引き裂きながら、止めどもなくあふれ出てくるそれが、自分の上げた声であると、しばらく気づくことができなかった。
メタルセルの床で、芋虫にように無様にのたうちながら、何も思考することができなかった。
ただ、酷使に耐えかねて、喉が咳き込むことを強く要求しはじめたとき、視界の端を何かがかすめていった。
足だ。直立している。視線を上に上げると、それはひとりの青年のものであることがわかった。
それは、ただそこに立っているだけだというのに、まるで計り知れない高所から撃ち込まれて床に突き立った、黒い杭のように思えた。
微動だにせず。
子供たちの惨たらしい集積物に目も向けず。
叫喚を上げるアーカロトに対し何の反応もせず。
ただ、そこに直立していた。あまりにも身じろぎをしないので、それが人間であることにアーカロトは今まで気づけなかった。
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