
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #138
「導き手だと……!?」
「はァい、3、2、1、ドーン!」
男が指を鳴らすと、途端に頭の中を透明な刃で叩き切られたような衝撃が襲い掛かってきた。
そして――迷妄が、晴れる。今まで適切にアクセスできなくなっていた記憶の存在に気づき、
「……ッッ!」
冷たい汗が噴き出る。
自分はこの男を知っている。だが――生きているはずがない。七千年前のあの時、確かに死んだはずなのだ。
〈彼ら〉に地球の位置をバラした廉により、アーカロトの知る中で最強の存在に粛清されたはずだった。
もっと子細に顔を見ようと目を凝らすと、途端にスーツ姿に奇妙なノイズが入り、その像が不安定になった。ぶれ、瞬き、ちらつき、一瞬だけ正常になったかと思えばまたぶれる。
「――どうして君から記憶を奪ったと思う?」
声だけが、流暢に聞こえてくる。
「私がすでに死んでいることを知っている人間に観測されると、ご覧のように存在がぼやけてしまうからなんだ。ンフフフフ、どうだい、目がちらついて話しづらいだろう? ささやかな気遣いという奴だよ。やはりお互いにきちんと顔を合わせないといけないよネ!!」
二丁拳銃を抜き放ち、腰を落とす。
「――ナーガリア・クロロディスッ!!」
「なにかね、アーカロト・ニココペクくぅん?」
ヴァーライド・ジェナナトルが駆る第一の絶罪殺機、識別コード「プロタゴニアス」が振るう純白の攻性宇宙と接触し、分子構造、原子存在、素粒子物理、波動関数、現実態、可能態、質量因、形相因――それらありとあらゆる見地から言って完全なる消滅を遂げたはずの男。
諧謔と嘲弄の擬人化。
五人の中でただ一人、純然たる悪意によって大罪を犯したトリックスター。
「なぜだッ!!」
「なぜ? それは一体、どれのことを言っているのかネ? なぜ〈彼ら〉に地球人類の存在をチクったのか? なぜヴァーライド氏に粛清されたのにここにいるのか? なぜヒュートリア・ゼロゼアゼプターちゃぁんをそそのかして君にけしかけたのか? なぜ――シアラ・ニックアントム・ヴァルデスをあんな目に遇わせているのか?」
「な、に――」
クロロディスは、上を向いた。つられてアーカロトも見上げる。
三つの巨大な肉塊が蠢動している。
三つの、肉塊が。
「ひとつめは、アメリ・ニックラトル・ヴァルデスのオリジナルの生首。クローンたちに移植した後残った、最後の部位」
ギドが詠うように語る。
「ふたつめは、複雑性の原理によってオリジナルと同値となったクローンアメリの全身。お前が倒した奴だよ、ぼうや」
くつくつと嗤う。
「みっつめは、あの脳みそお花畑のガキ――シアラ・ニックアントム・ヴァルデス」
「何を――言っている……」
「最大の問題は、どうやってメタ罪業の担い手を調達するかということだったネ。いやいやいや、大変だったヨ育児というのは!! 人を従わせずにはおかない容姿に、無原罪の、純真無垢たる魂を備えた運命の巫女なんて自然発生するわけないから自分で作るしかなかったんだよネ!!」
好評発売中!