
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 エピローグ 上
統合が起こった時のことは、よく覚えている。
数え切れんほど多数の、「近似値の俺」がひとつに統合され、今の俺を形作ったときのことは。
まるで一眠りしている間に一生分の夢を見たかのような、二日酔いを何倍もひどくしたような、あの感覚を。
統合された中には、「死んだ俺」も含まれていた。だから、俺は最期の記憶も持っている。旦那の爪先にもたれかかって、へらへら笑いながらテメェのこめかみに銃弾ブチ込んだ、ダッセぇ自分の記憶も。
意識が、浮上する。
すぐそばで柔らかな寝息が聞こえた。
俺の腕枕で素っ裸の女が寝ていた。まずいことに名前を思い出せない。
「あー……」
頭を掻く。そっと腕を引き抜く。
とりあえずシャワー浴びて髭を剃るか。そして飯を買いに行こう。
金を枕元に置いて行こうかとも思ったが、買ったのではなくひっかけたパターンだった場合、話がこじれにこじれることはわかっているので、その判断は保留とする。
身を整え、二丁拳銃を取ってスピンさせた。エンクレイヴのほどこされた銃身が、軽く唸って赤熱する。
二日酔いにしては、今日の内功の冴えは悪くない。ホルスターに突っ込む。
女へのメモ書きを残し、俺は外に出た。
改めて寝顔を見ると、けっこう可愛い。さすがは俺だ。
●
雑踏を掻き分け、顔に火傷痕のある青年は――ゼグは進む。人いきれと、イオン臭と、アルコールと、吐瀉物と、焦げた硝煙の匂いが混然となって、街の存在を叩きつけてくる。
明滅する看板やホロビジョンが目にうるさい。
――統合以来、世界は変わった。
〈原罪兵〉による罪業生産によって維持される社会システムが、根本からひっくりかえった。
原因は主に二つ。
ひとつは、トリ中どもが〈原罪兵〉に取って代わったこと。殺人を媒介としない罪業供給源の発生は、未曽有の人口増をもたらそうとしていた。
もうひとつは、統合それそのものである。人々は近似値の自分と統合されたが、完全にただ一人に戻ったわけではない。
ゼグ自身にしても、同じくゼグとしての記憶と肉体を有するそっくりさんが、他に四人ほどいるらしい。いまのところ会ったことはないが。
五つに収束した可能世界の間を行き来する技術が開発されたとき、人類は閉塞状態を自然と抜け出すことに成功した。
人口は五倍になり、宇宙の広さも五倍となった。五倍の規模となった社会資本は、リソースのかつてない一極集中を可能とし、技術的なブレイクスルーを次々と達成した。
ひょっとしたら、ゼグが生きているうちに、神代の文明レベルを超えることになるかもしれない。
無論、いいことばかりではない。〈原罪兵〉という例外を除いた場合の治安レベルは、人類史上かつてないほど低下の一途を辿っている。人造サイコパスではなく、まっさらな人間と人間が喰い合う修羅の巷が顕れていた。
だがそれでも、人間が人間らしく生きられるという意味では、まぁ悪い変化ではないのだろうと、想う。
そして、誰のおかげで今の世界があるのかも。
ゼグは、ふと、進行方向を変えた。
すぐに戻ろうと思っていたが、気が変わった。
「ちぃと顔だしとくかね」
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