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絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #162

     前 目次

     ジアドは、理解した。
     アーカロトの瞋恚を。なぜ彼がここまで敵意剥き出しなのかを。
     そして、クロロディスの思惑を。彼がいかなる理由で自分に接触してきたのかを。
    《クロロディスさん。僕を騙していましたね? 知っていたんでしょう? 今のアーカロトくんのお話。ずいぶんとナメたマネをしてくれましたね》
    《おやおやおや、騙していたとは人聞きの悪い。聞かれなかったから言わなかっただけだヨ。今までの君の選択と行動は、すべて君自身のものだ。誇りたまえ》
    《いえ、別に怒っているわけではありません。こういうときに人間は怒るものであることは理解したので、試しに怒るポーズをとってみましたけど、無意味でした。それで、あなたはミーメーシスによる防壁を崩壊させたいのですね。そのために僕を利用していたと》
    《ふぅむ、そうだが、君はもう戦う動機を失ってしまったようだネ。一体ジアドくぅんはこれからどうするつもりなのかね?》
     ジアドは、目を細めた。
    《先祖たちの想いと、悲痛と、罪を理解しました。僕は今、彼らのすべてを背負っています。僕の父が、どんな思いで僕を慈しんできたかも》
     晴れやかに、悲しげに、誇らしげに、微笑む。
    《僕に動機はありません。僕のこれまでの生は無意味です。しかし、彼らの生と死は、そうではないのかもしれません。この宇宙に「意味」などというものは果たして存在するのか? 人類が抱く錯覚ではなく、この現実に直接的に力を及ぼす原理として、「意味」とはありうるのか?》
    《「意味」とはそういうものではない。人と人との関わりの中で、自分は必要とされてきたという実感だ。それを錯覚としか理解できないお前には永遠に手の届かない観念だ》
    《否否、そんなことはないヨ。私はこの宇宙の存在する意味をはっきりと断言できるとも。第二大罪アナザーエンブリオという新たなる神を受胎し、育み、最終的に〈外〉へと誕生せしめる子宮としての意味がネ》
    《なんだそれは。ふざけているのか。お前はそんなくだらない妄想でこの宇宙を滅ぼす気か。お前を粛正したヴァーライドの判断は正しかったが、遅きに失したな》
    《おやおや、おやおやおやおや、実の母親をまたずいぶんと悪しざまに言うものだネ》
    《あの怪物が僕の母親だと? 面白い冗談だな。さすが怪物に横恋慕する変質者は感性が独特だ》

    《僕は》

     その静かな空間震こえに込められた、荘厳なる深みと渾沌の気配に、二人の繰り手の舌戦はぴたりと止まった。異様な緊張がその場にわだかまる。
    《お二人の言うことのどちらが正しいのかはわかりません。判断のしようもない。だから、お二人の想い、そのどちらも汲もうと思います。今の僕は、一貫した思考ができます。約束を守ることができます。人を愛することも、憎むこともできます。それらをもう実感として識っているから》
     ミーメーシスは、厳かに己の胸へ手を当てた。
    《恩義を、感じています。お二人のどちらと出会わなくても、今の僕はなかったから。ありもしない自我を求める迷走はもう終わりです》
     そして、紅き神体で燃え盛る漆黒の罪業場が、形を変えた。

    【続く】

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    小説書きでミニチュアゲーマー。おもにSFを好み、三度の飯よりセンスオブワンダーが好き。小説が面白かったらフォローしておくれ。なにかあればツイッターアカウントのDMからどうぞ。https://twitter.com/shu64737980

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