
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #110
体よく追っ払うために、さっさと人体実験は行われた。
〈トリスケリオン〉を打たれた貧民は、深い昏睡に陥り、数時間後に空間震を伴った絶叫を上げた。その声ならざる声、音ならざる音を直接聞いた作業員数名は、目と鼻と耳と口から血を噴き、しかし恍惚とした表情でその場に倒れ伏した。
そして、貧民が、ゆっくりと目を開く。
どろりと濁った瞳が、微笑んだ。何もかもに安心を得たかのような、魂の底から安らいだ貌だった。人間が本来決して浮かべるはずもない表情。
「永遠の命を得ました。生きること、存在していることそのものが素晴らしく、胸を揺さぶります」
その声色は穏やかで、魅惑的で、恐怖を掻き立てた。言っている内容は安っぽい新興宗教の伝道師にしか思えないが、その人ならざる物腰は、彼が貧民だった数時間前とはまったく異なる存在となっていることを否応もなく感じさせた。
彼は、自分がこれから殺されるということを理解していた。
「今から二時間半後に、私の生の終わりがやって来ますね。お婆さんにライフルで撃ち殺されてしまいます。あぁ、しかし、この言い方は正確ではありませんね。「終わりがやって来る」だなんて、おかしな表現です。まるでまだ自分が死んでいないみたいではありませんか。言語はとても不便です」
「おかしなことを言う。お前はさっき永遠の命を得たと言っていたではないか。そもそもなぜ自分が殺されると思うのだ」
度胸の据わった作業員が尋ねた。
「私にとって自分の存在は永遠ですが、あなたにとって私の存在は永遠ではないでしょう。そしてその事実は、私にとっての私の永遠性を何ら損なうものではないのです。そして、なぜ自分が殺されるとわかるのかと言えば、すでに知っているからです」
「知っている? なぜ? 未来が見えるのか?」
「未来、などという観念に囚われているあなたのことが哀れでなりません。あぁ、すいません、こんな言い方をすれば気分を害してしまいますね。しかし、どうしても哀れに思ってしまう。この感情は自分でもどうしようもないので、気にしないでいただけるとうれしいです。さて、この感覚をどう表現すべきか。もちろん私には「こう」なる前の記憶もあります。しかし、主観的にはもはや遥か遠い過去のことですので、そのころの気持ちを思い出してあなたのためにわかりやすく言葉を選ぶというのが本当に難しい。しかし――そうですね、普通の人々は、時間を過去、現在、未来の三つに区分していますね」
「そうだな」
「生きるとは、未来を過去に変換していく行いである、と。未来が尽きれば、死が訪れ、何もかも終わる、と」
「それが何なんだ?」
「大いなる誤解なのです。過去や未来などありません」
「そりゃそうだろう。現在に過去や未来の事物が現れるはずがない」
「そういう意味ではありません。現在も存在しないのです」
「お前の言っていることがさっきからひとつもわからない」
「私は、自分が生まれた瞬間から死ぬ瞬間までのすべての人生を、まったく同質のものとして感受しています。己の人生を三つに分け、変えられぬ過去を後悔し、わからぬ未来に不安を抱く――そのような苦しみから完全に解放されているのです」
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