
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #101
――兄貴。
腹の底から咆哮を上げる。
マズルフラッシュが狂い咲く。肉体を慣性が縦横に翻弄する。経脈を灼熱の勁力が巡る。
――俺さ、兄貴のこと嫌いだったんだよ。
紅き直線が大気を斬り裂き、肉を貫く。経絡への被弾だけは凌ぎつつひたすら前へと体を射出する。その反動を勁力に練り上げ、腕の先に導く。
――ガキのころからいつもいつも、辛気臭ぇ顔ばっかしやがってさ。
トリガーガードの中に指を突っ込み、高速旋回。水平フォワードスピンと同時に弾倉を瞬時に空にする超連射。残った最後の乙陸式の一団を赤熱した鉛玉が薙ぎ倒した。
――あんた、自分と他人の区別、ついてなかったんだろ。
着地際を狙いすました極大斬撃が迫りくる。全身の経絡インプラントから変則発勁。爆発的な勁風によって着地のタイミングを遅らせて回避。
――何の得にもならねえのに、俺や、幼年学府の落ちこぼれどもをいつもいつも庇いやがってさ。
全体重を導く震脚を地面に叩き込む。全身の肉を紅閃に抉り取られながら長い両腕を翼のように打ち拡げ、その反作用でもって体幹のブレをなくす。左右へ逃げてゆく力をすべて推進力に変換する。
――全然理解できなかったよ、あんたのこと。何も共感できない人間に、いつも守られて在った。その気持ちが、兄貴に分かるか?
重心を前方に沈墜させる。烈哮とともに両腕をしならせ、押し出す。
発勁/撃発。
電磁套路・双龍盤肘。
両肘を支点として解き放たれる絶招。
――もう誰もいない。元〈帰天派〉の旦那がたは全員死んじまった。ガキんちょどももきっと助からない。
交差するように噛み合わされた二つの銃口から射出された勁力弾が、それぞれの放射する引力場を相互に受けながら二重螺旋を描き、乙零式へと速度を増しつつ飛ぶ。
――なあ、兄貴。今、はじめてあんたに勝ったよ。あんたは俺の気持ちを理解しなかっただろうが、俺は今、あんたの気持ちを味わっている。
骨色の鉤爪たちが六角形の罪業場を展開し、双龍盤肘を受け止める。花火めいた勁気が炸裂し、炸裂し、炸裂し続ける。罪業場に阻まれようと推進力を失うことなく、喰らい付き続ける。踏み込みながら両脇腹のマガジンに銃把を叩き込んでリロード。
――どんなにきつかったか。どんなに苦しかったか。どれほど、この命が無意味であることを思い知らされてきたか。
踏み出した足を地面に捩じり込みながら、掌の中で銃身をフォワードスピン。両腕から放射状に撒き散らされる勁力弾が中空で大きな弧を描き、罪業場のない方角から一斉に敵へ殺到する。
――だから、兄貴。
――兄貴よぅ。
――俺さ、
こともなげに一歩横に出て双龍盤肘の射線から逃れた乙零式が、罪業場を解除。同時に刺突の形で光の剣を伸長し――デイルの片腕を断ち落とす。
――ガキんちょどもを守って死ぬことすらできなかったからさ。
声にもならぬ言葉を唇で刻みながら。
デイル・マーロゥは生涯最期の発勁を行う。
敵の後背に回り込んだ弾幕が、着弾。貫徹ではなく弾き飛ばす勁力を解放し、乙零式の全身がこちらに向けて飛んでくる。
『何……ッ!?』
爆音。
舞い散るメタルセルの破片が煌めく中で、眩い勁気を纏いながら。
龍の咆哮がごとき黄金の勁力弾が、咢を開いた。
能動的カウンター攻撃が炸裂し――同時に紅い光線がデイルの全身を斬り刻んだ。
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