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絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #178

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     不可能色彩の刃をもって岩盤を削り、直方体に成型する。
     それを垂直に立て、地表のある一点にそっと設置した。
     小さなビルにも匹敵するサイズのそれは、アーカロトの最後の友の墓標であった。

     ●

    「ジジイ。オレは、もう、いい」
     最期のとき、彼はそう言った。
    「見ず知らずの奴らなんて、別にどうでもいい。今までずっとそう思ってきた。だけど、オレは甘ったれてたみたいだぜ。想像力が足りなかったんだな。誰もいなくなろうと、歯ぁ食いしばって生きていく。生きていける。そう信じてたのによ」
     アンタゴニアスの爪先に背を預け、手足を投げ出し、不思議と穏やかな目で透けるような青空を見上げている。
    「なんかもう、気が抜けちまったよ。張り合いがなくなったっつーかさ。マジで、もう、誰もいやがらねえんだな」
     アーカロトは、何も答えることができなかった。
     現状の説明はすらすらと出来た。だけど、どうすればこの少年の救いになるのかは、わからずじまいだった。
    「ジジイ、あんたはどうするつもりなんだ」
    「……わからない……行く当ても、帰るところも、憎むべき敵さえも、もうない」
    「じゃあよ、一緒に、どうだい」
     一緒に、銃口をこめかみに当てて引き金を引かないか、と。
     アーカロトを孤独にさせまいとする気遣いであることは理解できた。
     だが、それに対して奇妙なまでに何も感じることができなかった。
    「わからない。それも悪くない気がするけど、でも、誰かが、この世界をこうした責任を取らないといけないような気がする。その罰が、無為な永劫の孤独だというのなら、それもいいのかもしれない」
     顔を上げる。大罪装甲も再生し、元の威容を取り戻した相棒を見やる。
    「それに、アンタゴニアスを一人にはしておけない。だから、一緒には逝けない」
    《すまん……》
    「あぁ、いいよ、そういうことならな。悪ぃな、旦那のこと忘れてたぜ」
    《すまない……》
    「いいって」
     ゼグは、相変わらず蒼穹を見上げている。
     そのまなざしは、アーカロトが戦慄するほど老いて見えた。
    「まぁ、悪かねえ。悪かねえ眺めだよ。最期に見る景色としちゃあな。待ってりゃいろんな色を見せてくれる」
     その目尻に、雫が浮かび上がった。
    「……あいつらにも、見せてやりたかったな……」
    「ゼグ」
    「じゃあな、ジジイに、旦那。俺ぁ先に寝るよ。別にいつまでだって待っててやるが、そのうち追いついて来いよ?」
    「ゼグ。僕は」
    「もう涙の流し方も忘れちまったんだろ? いいさ。それが今のあんたなら……」
    「ごめん」
    「じゃーな」
     軽い破裂音とともに、ゼグの小さな手が落ちた。
     まるで紙人形だったかのように、体重を感じさせない動きで、崩れ落ちていった。
     アーカロトは、それをただ見ていた。涙は流れなかった。悲しくもなかった。そのことが、なによりも悲しかった。
    「ねえ、ゼグ」
     うっすらと開かれているその両目を、そっと閉ざす。
    「死後の世界なんてないんだ。生まれ変わりなんてないんだ」
     そして、まだ温もりの残る体を、抱き上げた。
    「君は今、消えたんだよ」

     誰も泣かぬ世界は、かくして実現した。

    【続く】

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    小説書きでミニチュアゲーマー。おもにSFを好み、三度の飯よりセンスオブワンダーが好き。小説が面白かったらフォローしておくれ。なにかあればツイッターアカウントのDMからどうぞ。https://twitter.com/shu64737980

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