
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #178
不可能色彩の刃をもって岩盤を削り、直方体に成型する。
それを垂直に立て、地表のある一点にそっと設置した。
小さなビルにも匹敵するサイズのそれは、アーカロトの最後の友の墓標であった。
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「ジジイ。オレは、もう、いい」
最期のとき、彼はそう言った。
「見ず知らずの奴らなんて、別にどうでもいい。今までずっとそう思ってきた。だけど、オレは甘ったれてたみたいだぜ。想像力が足りなかったんだな。誰もいなくなろうと、歯ぁ食いしばって生きていく。生きていける。そう信じてたのによ」
アンタゴニアスの爪先に背を預け、手足を投げ出し、不思議と穏やかな目で透けるような青空を見上げている。
「なんかもう、気が抜けちまったよ。張り合いがなくなったっつーかさ。マジで、もう、誰もいやがらねえんだな」
アーカロトは、何も答えることができなかった。
現状の説明はすらすらと出来た。だけど、どうすればこの少年の救いになるのかは、わからずじまいだった。
「ジジイ、あんたはどうするつもりなんだ」
「……わからない……行く当ても、帰るところも、憎むべき敵さえも、もうない」
「じゃあよ、一緒に、どうだい」
一緒に、銃口をこめかみに当てて引き金を引かないか、と。
アーカロトを孤独にさせまいとする気遣いであることは理解できた。
だが、それに対して奇妙なまでに何も感じることができなかった。
「わからない。それも悪くない気がするけど、でも、誰かが、この世界をこうした責任を取らないといけないような気がする。その罰が、無為な永劫の孤独だというのなら、それもいいのかもしれない」
顔を上げる。大罪装甲も再生し、元の威容を取り戻した相棒を見やる。
「それに、アンタゴニアスを一人にはしておけない。だから、一緒には逝けない」
《すまん……》
「あぁ、いいよ、そういうことならな。悪ぃな、旦那のこと忘れてたぜ」
《すまない……》
「いいって」
ゼグは、相変わらず蒼穹を見上げている。
そのまなざしは、アーカロトが戦慄するほど老いて見えた。
「まぁ、悪かねえ。悪かねえ眺めだよ。最期に見る景色としちゃあな。待ってりゃいろんな色を見せてくれる」
その目尻に、雫が浮かび上がった。
「……あいつらにも、見せてやりたかったな……」
「ゼグ」
「じゃあな、ジジイに、旦那。俺ぁ先に寝るよ。別にいつまでだって待っててやるが、そのうち追いついて来いよ?」
「ゼグ。僕は」
「もう涙の流し方も忘れちまったんだろ? いいさ。それが今のあんたなら……」
「ごめん」
「じゃーな」
軽い破裂音とともに、ゼグの小さな手が落ちた。
まるで紙人形だったかのように、体重を感じさせない動きで、崩れ落ちていった。
アーカロトは、それをただ見ていた。涙は流れなかった。悲しくもなかった。そのことが、なによりも悲しかった。
「ねえ、ゼグ」
うっすらと開かれているその両目を、そっと閉ざす。
「死後の世界なんてないんだ。生まれ変わりなんてないんだ」
そして、まだ温もりの残る体を、抱き上げた。
「君は今、消えたんだよ」
誰も泣かぬ世界は、かくして実現した。
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