メインコンテンツへスキップ
見出し画像

絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #155

     前 目次

     それは、制御を誤ると全宇宙を滅ぼし尽くす力。
     これに耐えられる物質はなく、
     これに耐えられる罪業場も存在しない。
     およそ「存在」という言葉であらわされるものすべてが成り立っている根本前提を破壊する兵装であるから。
     ――お前は、何だ? 何なのだ?
     異様さ、異質さ、この宇宙と規格が合っていないという点において、第四大罪ネフィリム・ブラッドの担い手にも匹敵する。
     やがて――ミーメーシスが再出現。直後に分身体が六体出現する。
    《渾沌に帰せ――〈受胎論反駁〉》
     起爆をコマンド。
     瞬間、アンタゴニアスを中心とする半径三十キロメートルの範囲で、物質宇宙が溶解した。
     ――真空崩壊。
     焚火が燃焼し、やがて灰になるように。
     高いところにあるリンゴが地面に落ちるように。
     この宇宙のすべての営みは、傾向としてエネルギーの高い状態から低い状態へ移行しようとする。
     そして、すべてのエネルギーポテンシャルが最低の水準に至った状態を、量子論においては「真空」と呼ぶ。そこではもはやいかなる相互作用も起こりえない。
     だが、ここでいう「最低の水準」が、実は最低ではない可能性については、神代の昔から指摘されてきた。人類が認識できる「真空」よりもさらに低い水準がありうるとしたら。今、この宇宙を構成しているエネルギー安定状態が、実際には仮初のものでしかなかったとしたら。
     坂を転がり落ちるボールが、その途上で地面の出っ張りに引っかかっているだけに過ぎないのだとしたら。
     ……この兵装の開発に、ヴァーライドは乗り気ではなかった。だが〈彼ら〉の脅威を前に、苦渋の選択をせざるを得なかった。ゆえに、この力の搭載を、アンタゴニアスのみに許した。自分自身ですら完全には信用していなかったから。
     ――これは、ヴァーライドから僕への、信頼の証だ。
     罪業兵装、〈受胎論反駁〉。
     ヒッグス場を操作し、人為的に真空崩壊を発生させ、三千世界の万物万象をビッグバン以前の状態に戻す禁忌の力。
     発動と同時に、アンタゴニアスは基準界面下に避難。絶罪殺機と言えど、この宇宙の物理定数そのものを根本から破壊する真空崩壊の猛威を浴びればひとたまりもない。
     そして、物質世界に展開した絶罪支援機動ユニットたちが真空崩壊の発生座標を中心に球状に展開、基準界面下への門を開く。光速で広がってゆく宇宙の破滅を、基準界面下に送り込み続ける。
     アーカロトの視点からは、自らの周囲三十キロメートル以遠に極限の熱量波が爆散し、まるで気泡の中にいるような光景が繰り広げられた。一般相対性理論が成り立たないこの世界において、真空崩壊は光速を遥かに超えることで過去方向に向けて拡散。並列多元罪業変換機関が創造したどこかの並行宇宙を焼き尽くした。
     やがてヒッグス場が安定を取り戻し、エネルギーポテンシャルの正常化を確認――と同時にミーメーシスたちもまた何ら損なわれることなく元の場所に居続けているのを観測したとき、アーカロトの心胆は、定まった。

     ――ジアドを殺す手段に、検討を付けた。

    【続く】

    好評発売中!


     
     
    小説書きでミニチュアゲーマー。おもにSFを好み、三度の飯よりセンスオブワンダーが好き。小説が面白かったらフォローしておくれ。なにかあればツイッターアカウントのDMからどうぞ。https://twitter.com/shu64737980

    あなたへのおすすめ