
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #156
――正体が割れてしまえば何のことはない。
〈受胎論反駁〉は消去法の試金石として放ったまでだ。
「これで満足か、アンタゴニアス」
《肯定。対象を「人型の探査不能領域」ではなく、〈彼ら〉の特殊個体と認定。絶罪規定1条に基づき、全機能、全兵装、および大罪神理権限の無制限の使用を解禁する。我ら、いかなる手段をもってしてもかの者らを討ち滅ぼすべし》
元々は、ホモ・サピエンスだったのだろう。だが、真空崩壊の猛威を前に形を保っていられる以上、その存在メカニズムに〈外〉の力が関わっていることは確定している。
神の、加護。
噴飯物の言葉だが、そうとしか言いようがない。そして、宇宙の外をしろしめす神が、このような物理干渉をしてくる理由などひとつしかない。
アーカロト/アンタゴニアスは物質世界に浮上。即座に掴みかかってくるミーメーシスを前に、〈空虚論考〉を展開。
五指より五つの刃が伸長し、薙ぎ払う。
だが――命中していない。不可能色彩の刀身は、彼我の間の空間に裂傷を刻んだだけで、紅き発狂装甲を斬り裂くどころか打ち飛ばすことすらなかった。
ただ、そこに扇状の闇色の沙幕が残った。
神の見えざる手が、迅速にそれを修復しにかかる。
神の力が、注ぎ込まれてゆく。
《お前の無敵性は、神意の都合によるものだ》
そこを、ジアド/ミーメーシスが通過する。アンタゴニアス目掛けて、空間修復現象には目もくれず、ただ直進する。
その、瞬間。
《ゆえに、別の都合と重ね合わせてやれば容易く瓦解する》
同じ場所で、別種の神意が競合を起こす。
時空間の整合性を保とうとする力と、因果律の整合性を保とうとする力が、衝突する。
《滅び、消えろ。肉片も残さない。子供たちの苦悶と絶望、その報いを受けろ》
弓を引き絞るように肘を引く。罪業炎を最大出力で吹かし、一瞬で音の壁を突破し、加速し、加速し、加速し、加速。亜光速の領域で、肥大した相対論的質量を乗せて。
拳を、解き放つ。
前腕装甲の内部で折りたたまれていた二つの関節が、最も速度の乗る瞬間に同期して伸長展開。拳をさらに加速する。
勁力射撃の技法を体に刻み込んだが故に成立した、爆滅のストレート。
ミーメーシスの胸部に、アンタゴニアス全体よりも重厚な質量を帯びた拳が吸い込まれ――着弾。インパクトによって生じた衝撃波が周囲一帯の大地を粉砕し、球状の巨大なクレーターを形成。想像を絶する熱量が解き放たれ、土砂がガラス化する。
不可解な無敵性の鎧を打ち砕き、ミーメーシスの発狂装甲と内部構造、並列多元罪業変換機関のすべてを圧壊せしめた。
全身の関節を慣性中立化罪業場で保護しつつ、ストレートの慣性を体内で殺す。殴り抜けるままに旋回。しかるのちに静止。
砕け散り、地表へと撒き散らされてゆく贖罪神機の残骸を横目に残心。
瞬間。
《欲しいです。下さい。欲しいです。下さい》
毒蛇のごとく跳ね上がってきた紅き右腕が、アンタゴニアスの左腕に絡みつき、何の抵抗もなく捩じり切った。
ジアドが己の搭乗箇所を胴体の中央部にしなかったことに、特段の意味はない。
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