
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #99
――だから。
――あぁ、だから。
泣き叫ぶダリュの声を聞きながら、ゼグは足を前に進めた。
「俺たちは、無力で、無知なガキだ……なんもできねえ……世界なんて変えられねえ……笑うだけで人を従わせる人徳なんざ持ってねえ……どうすればクソ大人に頼らずに世界を維持できるのかなんて欠片もわからねえ……」
拳銃を、引き抜く。
炯と睨みつける。
下腹をへこませて吸気。へそを左右に引き延ばすように吐気。
「けどな……」
丹田で気息を回す。全身の経脈を熱が循環する。
重心の移動と、内息のサイクルを一致させ、捻り込むような踏み込み。
轟音。
その場の全員が一斉にこっちを向く。
足元のメタルセルが砕け散り、足首まで埋没する。
「俺たちゃ、人間なんだよ……手を伸ばせば取りこぼし……思うことはひとつだってうまくいかねえ……そんなしみったれた生を、それでも歯ぁ食いしばって前に進む……どうしようもねえ、人間なんだ……」
足の裏で大地の根をつかみ取り、そこから返ってくる霊威を帯びた反動を肉体に引き込む。
いまだ発達しきっていない経脈を灼熱させながら登ってくるエネルギーを、指向性を持った作用力に変換する。
「……けどな……踏みにじられるだけが存在価値の贄や燃料なんかじゃ断じてねえんだからよ……!!」
轟音と同時に前傾姿勢に移行しつつ拳銃を持つ腕をひねり込みながら突き出す。
ジジィに教わった通りに。
名も知らぬおっさんがやった通りに。
右腕を壮絶な熱の塊が這い登り、螺旋を描きながら先端に至る。銃はに密着した掌を通して勁力が伝わり、鋼鉄が唸りを上げながら赤熱する。
「てめーらみてーな本気で生きてもいねぇクソ野郎どもごときに、俺の弟と妹はもったいなさすぎんだよダボがァッ!!」
破裂しそうな力の渦動と振動が、引き金を引いた瞬間/腕が伸び切った瞬間、龍の咆哮とともに解放され、黄金の一撃がダリュを足蹴にしていた機動牢獄に突き刺さり――吹き飛ばす。
四散させるには至らないまでも。
罪業ファンデルワールス装甲に衝撃を通し、骨を砕き、内臓を破裂せしめる聴勁が、掌の中に残った。
「あ……?」
「おい、聞いてねえぞ。白髪のガキだけじゃねえのかよ」
それは、銃機勁道七千五百年の歴史の中でも、突出した異才であった。適切な内息の習得に五年、経脈の認識と制御に五年、鋼鉄と鉛玉に勁力を通す技法に五年。その間も休まず肉体を頑健に鍛え上げ、型稽古を極めた者だけが、黄金の光輝纏う功夫を放つことができる。
それが前提である。
よもや数か月程度の期間でここまでの域に至れた者は類がなく、この暗黒の遠未来において、銃機勁道はついに最高の伝承者候補を得た。
息を荒げながら、ゼグは肩越しに叫ぶ。
「おめーら、ダリュを連れて逃げろッ!! こいつらは、俺が、やるッ!!」
「必死だね。かわいいね」
ジュジュの腕を握っていた機動牢獄が、無造作に少女の首に手をかけ、ごきりという音とともに、いともあっさりとへし折った。
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