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絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #173

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     血管の色が、変わった。
     青黒く沈んでいた色彩が、輝度を増し、瑠璃色へと変容する。
     ジアドはそれに気づいていたが、特に何もしなかった。何かすると死んでしまいそうに見えたからだ。
     アンタゴニアスが、斑に壊死した肉塊が、蠢き始めた。
    《あぁ、生きてたんですか。早く立ってくださいよ。これからどうするか話し合いましょう。手荒なことをして申し訳ありませんでした。絶罪殺機がこんなに弱いなんて思わなくて》
     応えは、ない。
     ただ痙攣しながら、青く光る体液を振り乱し、ゆっくりと図体を起こす。握り潰された頭部の残骸が、首から胸に垂れ下がっている。
    《唯我殲滅プロトコル:停止/神我合一プロトコル:起動》
     男とも、女とも、子供とも、老人とも言い難い声。
     しかして、そこには深い悲しみと、祈りの感情が漲っていた。
    《こは告解なり/こは悔悟なり/こは赦しなり/我ら罪に触れ、罪を認め、すべてを癒さんがために汝に触れん。安息せよ――赦しの時は来た》
     そこで、口調が変わる。まるで、人間が人間に語り掛けるように。
    《――行こう、アーカロト。俺の魂。俺の繰り手。俺のすべてをくれてやる。お前のすべてを俺によこせ》
     すると、少年の声が応えた。
    《あぁ、そうだね、アンタゴニアス。行こう、一緒に》
     その片脚がゆるりと持ち上がり――直後、視界一面の大地が白い奔流に飲み込まれた。それは、地中奥深くから吹き上がってきた、完全に未知のエネルギー流であった。
     白く、白く、澄み切った、濁り切った、強壮で、神聖で、猥雑な、生命の熱と光であった。
    《おや……?》
     ジアドは首を傾げた。
     アーカロトが何をしたのかわからなかったし、この逆向きの瀑布のごときものが何なのかもわからなかった。
    《僕たちを、この星に、接触させたな――》
     少年の声が、轟く。
     白き光の向こうから、ゆっくりとアンタゴニアスが姿を顕わす。
     全身の血管のうち一部が特に強く烈しく輝き、それらをピンで固定するように光点が打たれている。ジアドには知る由もなかったが、それはアンタゴニアスの基幹構造における力の伝達経路が異常活性している証であり、要は経絡図であった。
     砕け散った大地の上で、アンタゴニアスは上背より勁気を立ち上らせている。それは炎というよりも、不安定にゆらめく枝葉が、成長と枯死のサイクルを無限に繰り返しているような光景だった。
     ――かつて人類が土の上に暮らしていた頃、内家拳士たちは大地を巡る龍脈から力を汲みだして超絶の功夫を練り上げていた。
     資源は枯渇し、生命は滅び果て――しかして星そのものの大地力が、完全に絶えたわけではなかった。プレートの移動と沈降によって蓄えられた膨大なエネルギーが、龍脈に沿って今も巡り続けている。楽園チキュウは、いまだ生きている。
     アンタゴニアスの震脚が、衝撃の杭を大地の奥深くに打ち込み――そして反動として返ってきた。絶罪殺機の体重三千四百トンをもって成されたその運体の成果は、当然ながら人類史上のいかなる達人をも圧倒的に引き離す空前絶後の功夫を生んだ。

    【続く】

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    小説書きでミニチュアゲーマー。おもにSFを好み、三度の飯よりセンスオブワンダーが好き。小説が面白かったらフォローしておくれ。なにかあればツイッターアカウントのDMからどうぞ。https://twitter.com/shu64737980

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