
絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #117
〈接続棺〉でアンタゴニアスと繋がり、相対性理論が成り立たない基準界面下に潜航。即座に追跡をかける。
絶罪支援機動ユニットたちの探査波がすでに一キロ先のジアドを――人型にくり抜かれた解析不能領域を――発見している。
その真上の現実空間に、黒き巨神は姿を現した。逆さまの水面から、上半身だけを出した姿勢。
なにをどうすればこれを殺せるのか。
短い時間の中で、答えは出なかった。
ゆえにアーカロトは、
他のどの絶罪殺機にも不可能な手管をもって、
「死ね」
真上から垂直に〈空虚論考〉を伸ばす。切っ先がジアドの腹に突き当たり、地中深くへと押し込んでゆく。
「死ね」
通常の展開距離である一キロメートルを超え、もっと長く、遥かに長く、セフィラの外殻を貫き進んでゆく。
「死ね」
そして――貫通。
七千年もの間、人類を包み守ってきた揺籃を、破壊する。
ほぼ真空に近い気圧の、陽光も差さぬ超低温の世界。
「死ね」
セフィラの外、第五大罪の内。現存人類にとっては未踏にして未知の世界である、その広大過ぎる空間に、アーカロトはジアドを放逐した。
当然、そんなことは絶罪規定が許さない。セフィラに穴を開けるなど。恐ろしい数の犠牲者が出る暴挙だ。
だが、アンタゴニアスだけは別であった。
〈空虚論考〉を解除。凄まじい勢いで周囲の大気が穴から流出するより前に、大罪神理権限でメタルセルを操作。穴を塞ぐ。
果たしてジアドが体液の低温沸騰程度のことで死ぬのかは疑問だが、いくらなんでも食べ物はおろか水も空気も摂取できない状況下でいつまでも存在を保ち続けられる道理がない。
だが、ここで胸裏に不安が兆す。
奴は、アーカロトとゼグが乗る絶罪支援機動ユニットの上に前触れもなく出現した。あのときの高度は五百メートル程度だったか。少なくともその程度の距離であれば、ジアドは不可解な消失と出現によって瞬間移動めいたことができるのである。
セフィラの外殻の厚みは、果たして十分なのか? ジアドの罪業場の有効射程はいかほどなのか?
現状をもって確殺とするには不安要素が大きすぎると判断した。
再び〈空虚論考〉でセフィラに孔を開け、絶罪支援機動ユニットを一機だけそこに飛び込ませる。即座に地表付近を大罪神理権限で閉ざし、蜘蛛めいたフォルムの支援兵器がセフィラの外側へと進んでゆくにつれ、メタルセルで穴を塞いでいった。
絶罪支援機動ユニットがジアドの「非」存在を探知。彼はわずかに回転しながら暗黒の中空を漂っている。
特段の動きは、ない。
「そのまま永遠に漂ってろ」
何かあれば即座に報告を入れるよう黒紫の蜘蛛にコマンド。アーカロトは元の場所に戻るため、アンタゴニアスを基準界面下に潜航させた。
腹の底から侵食してくる無力感から、必死に目を背けながら。
子供たちを、どう葬るべきなのか、その筋道すら立たぬままに。
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