
カンソングが造るマッコリ ― OLKE
OLKEを紹介するとき、いつも味の説明だけでは足りないと感じている。
ドライな飲み口、印象的な酸味、料理との相性。そして、時間とともに変わっていく味わい。もちろん、これらもOLKEの特徴です。でも、この酒を知ってもらうには、造り手であるカン・ソングさんが、これまでどんな酒を飲み、どんな料理と向き合い、マッコリをどういう存在として考えてきたのかを伝えたいと思っています。
前回の投稿では、ソウル・望遠洞(マンウォンドン)の복덕방(ポクトクパン)で出会った一杯から、OLKEへとつながる4年間について書きました。
今回はその続きです。
カン・ソングさんは、なぜOLKEという酒を造ったのか?そして、その考え方は酒の味や見た目に、どのように表れているのでしょうか?


「商品」ではなく、考え方を形にした酒
カン・ソングさんは、OLKEについて「単なる商品というより、自分が考えるマッコリの方向性や哲学を形にしたものに近い」と話しています。
良い米とヌルクを選ぶだけではなく、自らヌルクを踏み、それを既存のヌルクとブレンドする。甕の中で発酵させ、長い時間をかけて熟成させる。その一つひとつの工程に、自分が大切にしている価値を込めているそうです。
昔ながらの製法をそのまま再現することが目的ではないということ。
「伝統を守ることと、伝統を繰り返すことは違う。」OLKEを知るうえで、とても大切な言葉だと思います。
法古創新(ほうこそうしん/법고창신)
カン・ソングさんが大切にしている考え方に、法古創新(ほうこそうしん)があります。古きを手本とし、新しいものを創り出す、という意味です。
伝統的な製法には、それが長く続いてきた理由がある。ただ、その方法を何も考えずに繰り返すことと、仕組みを理解したうえで今の時代に合った酒を造ることは、同じではない。
カン・ソングさんは、伝統を尊重しながら、自分が積み重ねてきた経験や感覚をそこに加えようとしています。
マッコリは古くからある酒ですが、今の食文化の中でどう楽しむかについては、まだまだ新しい可能性があるはずです。
どんな料理と合わせるのか。どんな温度で提供するのか。どんなグラスで飲むのか。さらには、誰がどんな考えで造っているのか。
酒そのものだけでなく、その周辺にある文化まで含めて考えていく。OLKEは、そうした発想から生まれたマッコリです。

味だけではなく、ラベルにもOLKEらしさがある
OLKEについて、もうひとつ紹介したいのがラベルのデザインです。
伝統酒というと、重厚な文字や昔ながらの装飾を使ったデザインを想像することがあります。しかしOLKEのラベルは、もっと軽やかで、どこか愛嬌がある。かわいらしさもあって、棚に並んでいると自然に目が向く。
最初はその見た目に惹かれて、手に取る人もいると思います。
でも、OLKEの面白さは、そのかわいらしい見た目と、酒造りに込められた考え方との組み合わせにあります。
中身は、米、水、ヌルク、そして時間と向き合って造られる酒。一方で、ラベルは今の時代の感覚で表現されている。
この組み合わせにも、法古創新という考え方を感じます。
伝統的な酒だからといって、見た目まで昔ながらである必要はない。むしろ、今までマッコリに関心がなかった人が、デザインをきっかけに興味を持ってくれることもあるでしょう。
酒の味はもちろん大切ですが、最初に手に取ってもらうための入口も同じくらい大切。
OLKEは、ラベルのビジュアルまで含めて、これからの韓国酒の可能性を感じさせてくれる一本だと思います。

10年以上、マッコリと料理を見てきた人
カン・ソングさんは、自分で酒を造るようになる以前から、10年以上にわたってさまざまなマッコリを扱ってきました。
数多くのマッコリと料理を組み合わせ、韓国だけでなく、さまざまな国から訪れるお客さんに紹介してきたそうです。
この経験がOLKEの酒造りに大きく関係していると思っています。
醸造家が自分の理想の味を追いかけることは珍しくありません。しかしカン・ソングさんの場合、その前に長い間、酒をお客さんに提供する側にいました。
どんな料理と合わせるとおいしいのか。どんな酒がお客さんの記憶に残るのか。何を説明すると、マッコリに興味を持ってもらえるのか。そうしたことを、実際の飲食の現場で経験してきた人です。
そして、さまざまなマッコリに触れる中で、マッコリには一般的に知られている以上の可能性があると感じるようになったといいます。
日本では今でも、マッコリといえば甘くて、炭酸があって、焼肉屋で飲むものというイメージが強いように思います。もちろん、それもマッコリのひとつの楽しみ方。
使う米やヌルク、仕込み方、発酵や熟成の時間によって、味わいは大きく変わるし、同じマッコリという名前でも、造り手が違えばまったく別の酒のように感じることもある。
カン・ソングさんが伝えたいのは、まさにそうした一本一本の違いなのだと思います。
一瓶一瓶に、物語がある
カン・ソングさんは、マッコリを単に「韓国の伝統酒」というカテゴリーの中だけで紹介したくないと話しています。
クラフトサケやナチュラルワインのように、一瓶ごとにそれぞれの物語を持つ酒として伝えていきたいそうです。
ワインであれば、ブドウの品種や畑、生産者、ヴィンテージが語られます。日本酒であれば、米の品種や酵母、蔵元、仕込み方が話題になります。
では、マッコリはどうでしょうか?
どんな米を使ったのか。どんなヌルクを選んだのか。どんな場所で、どれくらいの時間をかけて発酵させたのか。そして、それを造った人はどんな酒を目指していたのか。
本来、マッコリにも語れることはたくさんあります。
ただ、日本ではそうした違いを知る機会がまだ多くありません。ボトルに「マッコリ」と書かれているだけで、ひとつの種類のお酒として捉えられてしまう。
OLKEを紹介することで、マッコリにも造り手ごとの考え方や製法、味の違いがあることを、もっと知ってもらいたいと思っています。

「発酵は待つこと。待つことは哲学。」
カン・ソング醸造所のブランドステートメントには、こんな言葉があります。
「発酵は待つこと。待つことは哲学。」
OLKEの酒造りをとてもよく表していると感じました。
発酵は、人間がすべてを思いどおりに動かせるものではない。微生物が働く環境を整え、その変化を見ながら酒を造っていきます。
温度を管理し、香りや味を確かめ、必要な時間を待つ。
もちろん、長く待てば必ずおいしくなるわけではなく、発酵や熟成の時間は、それぞれの酒が目指す味によって変わります。
OLKEの場合、伝統ヌルクを使い、二醸酒(イヤンジュ/이양주)の製法で仕込み、甕での発酵と長い熟成時間を大切にしています。
カン・ソングさんが目指しているのは、米、水、ヌルク、時間のバランスによって生まれる味わいです。
OLKEを飲むとき、一口目だけで判断しないようにしています。
少しずつ飲み、料理を食べて、また飲む。温度によって香りや酸味の感じ方がどう変わるのかも面白いところです。
OLKEは強い甘みや炭酸で分かりやすく印象づける酒ではありませんが、ゆっくり飲むことで見えてくるものがあると思います。
日本酒のようでもあり、ワインのようでもある
OLKEを初めて飲んだとき、私は少し不思議な感覚がありました。
これまで飲んできたマッコリとは、ずいぶん印象が違ったからです。
甘さは控えめで、酸味があり、ドライな飲み口。強い炭酸で楽しませるというより、食事と一緒にゆっくり味わいたくなる酒。
その感覚は、日本酒やナチュラルワインにも似ています。
ただ、似ているというだけで、日本酒ともワインとも同じではありません。
前回の投稿でも書きましたが、カン・ソングさんと一緒に和食「てのしま」へ営業に伺ったとき、女将さんが복덕방(ポクトクパン)のマッコリを飲んで、こう言いました。
「日本の麹の味じゃない。韓国の味がする。」
当時の酒はOLKEではありませんでしたが、その一言によって、私は日本の米麹と韓国のヌルクが生み出す香味の違いを、初めて強く意識しました。
その後、カン・ソングさん自身が造り手となり、OLKEが生まれました。
そして2026年9月、私たちは再び「てのしま」で、今度はOLKEを提供する2日間のイベントを開催することができました。


ドライだから価値があるわけではない
OLKEを説明するとき、「ドライなマッコリ」という言葉を使うことがあります。それだけでこの酒の価値を説明したことにはならないと思っています。
甘くないから高級というわけではなくて、酸味が強ければ本格的というわけでもない。ワインに似ているから優れているという話でもありません。
甘いマッコリにも魅力がありますし、炭酸の強いマッコリも、米の甘みが豊かなマッコリも、それぞれにおいしさがあります。
OLKEは、そうしたマッコリとは異なる方向から、マッコリの可能性を見せてくれる酒です。料理の横に置いて、ゆっくり飲めるマッコリ。
料理を一口食べ、OLKEを一口飲み、また料理に戻る。そうした時間の中で楽しめる酒です。
私自身、OLKEを飲んでから、マッコリを紹介するときに料理との相性をこれまで以上に意識するようになりました。
どんな味かという説明だけでなく、どんな料理と、どんな場面で飲んでほしいのか。そこまで考えて初めて、その酒の魅力を十分に伝えられるのではないかと思っています。
一本の中にあるのは、造り手の姿勢
カン・ソング醸造所は、こんな言葉を発信しています。
「一本の酒の中に込められているのは、単なるアルコールではなく、造り手の姿勢である。」この言葉は、私たちのように酒を輸入し、販売する立場にとっても大切だと思います。
どれだけ丁寧に造られた酒でも、その背景を知らなければ、味や価格だけで判断されてしまうことがあります。
OLKEについても、ただ「韓国のドライなマッコリです」と紹介するだけでは、カン・ソングさんがなぜこの酒を造ったのかが伝わりません。
自らヌルクを踏むこと。甕で発酵させること。時間をかけて熟成させること。そして、飲食の現場で積み重ねてきた経験を酒造りにつなげていること。そうした背景を知ってから飲むと、同じ一杯でも、感じることが変わるかもしれません。
美酒館が醸造家の話をできるだけ聞くようにしているのも、そこに理由があります。

マッコリを届けることは、文化を届けること
カン・ソング醸造所のブランドステートメントには、「マッコリという酒だけでなく、マッコリの基準と韓国の伝統文化を輸出する」という考え方も書かれています。
カン・ソングさんは、OLKEを単に海外へ販売する商品としてではなく、韓国の発酵文化や醸造哲学を伝える存在として育てたいと考えています。
복덕방(ポクトクパン)で初めて会ったあの頃、カン・ソングさんは自分が選んだマッコリをお客さんに出しながら、その造り手や醸造所について話していました。それから数年が経ち、今度は自分自身が造り手となり、自分の考えを込めた酒を届けています。
酒を通じて人と出会い、その人が造り手になり、今度は一緒に酒を伝えていく。
私がクラフトマッコリの仕事を続けていて面白いと感じるのは、こういうところでもあります。
OLKEは、誰にとっても分かりやすいマッコリではないかもしれません。
酸味が印象に残る人もいれば、ドライな飲み口が好きな人もいるでしょう。料理と合わせて初めて、その魅力に気づく人もいると思います。
そして、ラベルのかわいらしさから興味を持つ人がいてもいい。
入口は何でもいいと思います。
ただ、その一本の奥には、長い時間をかけてマッコリと向き合ってきたカン・ソングさんの経験と考え方があります。
「伝統を守ることと、伝統を繰り返すことは違う。」
OLKEを飲んでいると、その言葉が単なる理念ではなく、実際の酒造りにつながっていることを感じます。
古くからある酒を、今の時代にどう造り、どう伝えていくのか。
OLKEは、そのひとつの答えなのだと思います。

次回は少し視点を変えて、「なぜ美酒館は、クラフトマッコリを広めようとしているのか」について書いてみたいと思います。
輸入や販売だけではなく、イベントを開いたり、醸造家を紹介したり、飲食店へ提案したり。そうした活動を続けている理由について、これまでの経験を振り返りながらお話しします。
書いた人|美酒館 渡辺祐輔
韓国と日本のクラフトマッコリを輸入・販売しながら、醸造家に聞き、飲み比べ、実際に扱う中で「なぜこの味になるのか」を追いかけています。