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悪に優しきこの国で −裁かれぬ悪と、救われる悪−【第21話】​『置き去りにされた被害者』

    「人権」……それは、すべての人が人間らしく生きるために、生まれながらに持っている権利。

    ​だからこそ、例え犯罪を犯した者であっても、法のもとでその尊厳は守られなければならない。

    ​……だが、犯罪被害者はどうなのだろうか。

    ​人間らしく生きる権利を根底から奪われ、また、あるいは生きるべきはずだった命そのものを不当に奪われた被害者……。そして、奪われた苦痛と喪失感を抱えたまま、残された人生を生き続けなければならない遺族たち。

    ​稲村朱音は司法の壁や世論の圧力に抗いながら、企画・取材・編集を重ね、渾身の特集番組『置き去りにされた被害者』を創り上げた。

    ​今回の特集は、二部構成になっている。

    ​第一部は、雫石和也の起こした事件。

    彼は人を殺めた加害者であると同時に、ネット社会と誤解によって人生を破壊された被害者でもある。SNS上で一方的な正義感を振りかざす現代の「無責任な世論」に対し、痛烈な問いを投げかける内容だ。

    ​第二部は、岩間俊輔の事件を軸とした、犯罪被害者と犯罪加害者の間に存在する「法的な保護の決定的な差」に対する告発である。

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    ​番組の放送冒頭、キャスター席に立った稲村朱音は静かに、しかし強く世間に問いかけた。

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    ​「人権……それは、本来誰もが平等に守られるべき権利です。……私は前回、『変わりゆく刑務所』という特集をお届けしましたが、今回は『被害者側』の視点に立った特集を組みました。一見すれば相反するテーマに見えるかもしれません。ですが、これらは私が取材を重ねる中で、常に胸に抱き続けてきた問いでもあります。どうか最後までご覧いただき、皆様がどう感じられたか、思いをお聞かせいただければと思います」

    ​画面が切り替わり、最初に放映されたのは雫石和也による殺人事件の全貌だった。

    ​事件の発端となった、混雑する駅構内の映像……痴漢として誤認逮捕された際の不穏な記録が流れる。続いて、和也の元部下や後輩たちが、彼の誠実だった人柄と真面目な仕事ぶりを語る証言が重ねられていく。

    ​「Aさんによる誤解と、それに乗じたネット民による無制限の『私刑リンチ』。確かに彼は一人の女性の命を奪った殺人犯です。……ですが、彼は本当に『単なる加害者』なのでしょうか? 私の目には、彼もまた過剰な私刑によって追い詰められた被害者に見えてなりません。もし、守られるべき彼の人権が正しく機能していたならば、この痛ましい事件は起こらなかったのではないでしょうか」

    ​「……なお、当時事件の引き金となった真犯人の痴漢はいまだ捕まっていません。せめてもの救いとして、一日も早く犯人が検挙されることを願ってやみません」

    ​朱音の静かなナレーションが響き、番組は第二部へと移る。

    ​「……続いては、過去に傷害致死という重罪を犯し、長年の服役を経て社会へ復帰した元受刑者と、その被害者遺族、そして当時の事件関係者に取材した映像です。ご本人のプライバシー保護のため、映像にはモザイク処理を施し、音声を変えてお届けします」

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    画面には、ホテルの一室で「自分は服役して償った」「未来をみたい」と淡々と語る岩間俊輔の映像と、老いた身で困窮と絶望の中に生きる被害者遺族・鈴木治重の姿が対比されるように映し出された。

    ​ナレーションは最小限に抑えられていたが、だからこそ、鈴木治重の絞り出すような悲痛な言葉の「重み」が、見る者の胸を締め付けた。

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    ​守られるべきは、真に権利を奪われた被害者なのではないか。

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    ​放送後、一部からは「テレビ局側の意図的な番組構成による偏向報道だ」との批判も寄せられた。しかし、番組の投げかけたテーマは大きな反響を呼び、世論の多くは朱音の提示した問題意識に強い賛同を示した。

    ​だが、歴史を振り返れば、昭和初期などの強引な取り調べや自白強要が悲惨な冤罪を生み出してきた歴史があるのも事実だ。強大な国家権力に個人が対抗する手段として、「被告人の人権」を守る弁護士の存在は不可欠である。

    ​『疑わしきは被告人の利益に』この近代刑法の原則は、冤罪を防ぐための不可欠なルールだ。

    ​しかし……20年前の岩間事件が物語るように、被害者やその遺族は法制度の枠組みから置き去りにされたままである。

    ​加害者の人権や更生が手厚く保護される一方で、民事上の損害賠償金の少なさや、支払いの強制力の弱さなど、遺族への救済制度はいまだあまりにも脆弱だ。

    人権とは他人が決めるものではなく、いかに本人がその尊厳を感じて生きられるかではないでしょうか?
    そして、犯罪にあわれた被害者と被害者家族にも尊厳があるのです。

    ​加害者の権利を守る司法から、被害者の痛みに寄り添う法改正へ。

    いま、真の意味での「人権」のあり方が問われている。


    本作品はフィクションです。登場人物・団体名等はすべて架空のものです。
    著作権は著者に帰属します。無断転載・複製を禁じます。


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    noteに登録したのは、2025年1月です。 主に手がけているのは短編小説です。人間の機微を描く『恋愛』『不倫』、思考を揺さぶる『社会派』、想像力を広げる『ファンタジー』など、ジャンルにとらわれず多岐にわたるテーマを描いています。

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