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悪に優しきこの国で −裁かれぬ悪と、救われる悪−【第28話】犯罪者保護が生んだ被害

    数日後、闇バイトの報酬が、実行犯である高校生たちの口座に振り込まれた。

    ​その額、わずか三万円。

    ​当初の約束の「十分の一」だった。

    ​あまりの少なさに、少年たちは猛烈な怒りを覚えた。

    ​しかし、応募時に生徒証や住所などの個人情報を押さえられている。

    そして何より、自分たちはすでに強盗という重罪を犯してしまった。

    ​文句を言える立場ではない。

    そのことだけは、痛いほど分かっていた。

    ​だが、今回のバイトを斡旋した│不知火遥斗《しらぬいはると》らへの「上納金」は、当初支払われるはずだったバイト代三十万円を基準にした三割の九万円だ。

    ​言い訳も、減額も許されるはずがない。

    ​「どうするよ……? 上納金払わなきゃ、俺たちあいつらに袋叩きにされるぞ。……警察に駆け込むか?」

    ​「バカ野郎! あいつらのバックに何人控えてると思ってんだ! 裏切ったらどうなるか……。俺らだけじゃない。お前、妹がいるだろ!」

    ​「じゃあ、どうすんだよ……」

    ​「とりあえず、またフリマアプリで稼ぐしかねえ……!」

    ​「また、あの家電量販店でやるのか?」

    ​「地元でタタキみたいにヤバいことはできねえ。……万引きなら現行犯じゃなきゃ捕まらねえし、まだ警察のお世話になってない俺たちなら初犯だ。親が呼び出されて厳重注意されるくらいで済む」

    ​「だけど、上納金分の額となるとデカいぞ。今どき高額商品は展示品や引き換えカードになってるから、単品で盗むのは厳しいんじゃ……」

    ​「何軒もハシゴして回るんだよ! 保冷用のアルミバッグを使えばセンサーも鳴らねえ。……ただし、盗んだらすぐ近くのコインロッカーに預けろ。盗品を持ったまま他にハシゴしてやらかしてんのがバレたら一発で終わりだからな」

    ​「……ああ、そうだな」

    ​闇バイトの罠に嵌まった実行犯の高校生たちは、追い詰められた末に、さらなる犯罪へと手を染めていった。

    ​そして、その悪巧みは成功してしまった。

    ​彼らは万引きと転売で金を作り、上納金を納め、残った金は仲間たちとの遊びに消えていった。

    ​「あの店にいるGメン、チョロいぜ」

    ​彼らの間では、万引きGメンの顔や巡回ルートまでSNSで共有されていた。以前、別の万引き騒ぎがあった時に隠し撮りされたものだ。

    ​Gメンのシフトさえ確認すれば問題はない。

    ​いつしか、それは少年たちの間で成功体験になっていた。

    そして、その噂は悪友から悪友へと広がっていった。

    ​その家電量販店は、やがて地元の不良や万引き犯たちの間で、格好の標的として知られるようになった。

    ​被害は、日を追うごとに増えていった。

    商品の売り上げよりも、万引きによる損失のほうが大きくなるという異常事態にまで陥った。

    ​度重なる被害に、店舗側も黙ってはいられなかった。

    ​防犯カメラに鮮明に映った万引き犯たちの顔。

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    店舗側は、それらの映像を注意喚起と情報提供の目的で、ネット上に公開した。

    ​しかし、待っていたのは、司法と世論による逆風だった。

    ​犯人側の親や弁護士から、肖像権やプライバシー権の侵害を巡る抗議が相次いだ。

    ​「勝手に未成年の顔を公開するな」

    「子供の将来をどうするつもりだ」

    ​店舗側は、深刻な犯罪被害を訴えながらも、法的な「自力救済の禁止」や「肖像権侵害」の責任を問われることになった。

    ​やがて、公開した映像を巡る法的トラブルは裁判へと発展した。

    ​裁判の結果、法は被害者である店舗側の自力救済を認めず、過剰な肖像権侵害があったとして多額の損害賠償を命じた。

    ​さらに、ネット上では店舗側を叩く声まで広がった。

    ​「未成年の顔をネットに晒すなんてやり過ぎだ」

    「セキュリティも甘いし、店側にも責任がある」

    店員たちは、客が来店するたび、万引きが起こらないか注意するようになった。

    防犯カメラを確認し、店内に目を配る。 その視線は、接客業の顔ではなく、犯罪者を追う刑事のように鋭くなっていった。

    しかし、どれだけ注意しても、被害は止まらなかった。

    逆に、来店する客からは、店内の雰囲気が悪いというクレームまで聞かれるようになった。

    本来なら、客を迎え、商品を販売するための店のはずだった。

    それがいつしか、犯罪者から店を守ることばかりを考える場所になっていた。

    パート従業員の表情からは、疲労の色が消えなかった。

    ​度重なる万引き被害。

    防犯対策の追加費用。

    訴訟への対応。

    そして、科せられた賠償金。

    ​店舗の経営は急速に悪化していった。

    ​やがて、その店は閉店へと追い込まれた。

    ​店長をはじめ、真面目に働いていたパート従業員たちは、全員職を失った。

    ​法を破り、他人の財産を食い荒らした少年たちは、今日も何事もなかったかのように街を歩いている。

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    「あの店、潰れたらしいぜ」

    「何だよ……せっかくの稼ぎ場所だったのに」

    その一方で、何も悪いことをしていない人間たちが、職場を失い、生活を失っていく。

    ​誰も、その不条理を止めることはできなかった。


    本作品はフィクションです。登場人物・団体名等はすべて架空のものです。
    著作権は著者に帰属します。無断転載・複製を禁じます。


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    noteに登録したのは、2025年1月です。 主に手がけているのは短編小説です。人間の機微を描く『恋愛』『不倫』、思考を揺さぶる『社会派』、想像力を広げる『ファンタジー』など、ジャンルにとらわれず多岐にわたるテーマを描いています。

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