
待つ時間が短くなると、失われていくもの《シロクマ文芸部》 | ショートショート #13
「待つ時間がどんどん短くなることで、失われていくものはなんだと思う?」
友人のソイから唐突に、なぞなぞのような質問をされた。
9月の連休の予定が、悪天候で吹っ飛んだらしい。
うちに来て、うちのソファーに横になったまま、聞いてくる。
「あのさ。こっちは連休とかないから、仕事してんだよね。まあ、今はAIのレビュー待ちしてるだけだけど」
私(ぽてぽた)はソイの質問には答えず、言葉を返した。
「まさに待ち時間だね。でもテクノロジーやAIのおかげで、待ち時間はどんどん短くなっているよね?」
「まあね。ほとんど数分か数十秒の待ち時間だから、複数の業務が細切れに……あ。また、ぽんこつかましてる。これで何回目だよ」
私は忙しなくキーボードを叩き、修正箇所を書いたプロンプトをAIに投げる。
「まさに、それが答えだよ」
「え? どれ?」
私は思わず手を止めて、オフィスチェアに座ったままソイの方を振り返る。
ソイはニヤリと笑い、ソファーから上体を起こす。
「待つ時間がどんどん短くなることで、失われていくもの。それは、心の余裕であり、生活のゆとりなんだ。
今のぽてぽたのように、テクノロジーやAIによって、ほとんど待ち時間なく情報が手に入るし、一度にいろんなことをこなせる。そして、ぽてぽた。今の君には、心の余裕がない」
「なんか言い方、腹立つんだけど」
そう返しながらも、私は「なるほどな」と考えている。
多くのことをほぼ同時にできるから、やることが増えて余裕がない。
それはまさに、今の自分だなと思えた。
「こないだ、時代設定が昭和の小説を読んでいたらさ」と、ソイが続ける。
「主人公が、サインが必要な書類を取引先に郵送で送るんだけど、返信が来るまでの間は、待つだけなんだよ。
東京から神奈川へ顧客に会いにい行く時も、電車乗ったり歩いている間は、移動しかしないんだ。
余裕のある時間の使い方に、感動しちゃったよ」
「もちろん不便なことも多かったんだろうけどね。でも、たしかに時間の使い方が贅沢だな」
「だろう? 待つ時間があるって、悪いことじゃないと思うんだ」
「ソイ。つまり、何が言いたい?」
「1時間くらい前に、ピザを注文したって言ったと思うんだけど」
「うん」
「途中で別なこと始めちゃって、できてなかったんだよ。今、注文し直した」
「……」
もともと、「ピザが食べたいけど一人じゃいろんな種類を試せないから、一緒に注文して食べよう」という理由で、ソイはうちに来ていた。
時間はすでに、午後2時。
「お腹、空いたんだけど」
私はがっかりして、そう呟く。
ソイは悪びれず、ニヤニヤしながらこう返した。
「配達まで、あと40分くらいだって。待つ時間てさ、贅沢な時間の使い方だよね」
おはようございます。
ぽていとぽたあとです。
便利になるって、イコール「楽になる」ではないよな、と日々痛感しているじゃがいもです。
仕事では、メールやチャットの即時返信は『正』のように扱われる。
もっと速く、もっと多くのものを、もっと前へ、という圧が常にある。
そこにAIまで加わって、人間一人が短時間でできることが増えすぎました。
もちろん、文明の利器はありがたいです。
一方で、便利の加速と比例するように、私たちは心の余裕を失っているのでは、と思う時も多々あります。
例えば私は、AIが数十ページに及ぶドキュメントのレビューをしている時、数分間待つだけで「ずいぶん時間かかってるな」と思っている自分に気づいて、ゾッとします。
つい去年までは、何時間もかけて自分がやってた作業なのに?
たった数分間を待つ心の余裕も失っているのか?
皆さんも、こんなふうに思うことはありますか。
さて。
今回も #シロクマ文芸部 に参加させていただきましたよ。
小牧さん、今回も楽しいお題をありがとうございます。
お題:「待つ時間」からはじめるnote
🥔・🥔・🥔
ほかにもショートショートを書いています。
よければお読みくださいね。