
株主優待は本当に減っているのか——2025年の廃止68社に対し、新設は175社という「二極化」の実態
前回の記事では、株主優待の廃止を事前に見分ける3つのサインを取り上げました。業績の悪化、株主数とコストの増大、株主構成の変化——これらのサインを持つ企業では、優待の廃止・改悪が起こりやすいことを解説しました。
しかし、東京商工リサーチの集計によると、2025年1月から12月までの1年間で株主優待を廃止した企業が68社だったのに対し、新設(再導入を含む)した企業は175社にのぼりました(2026年2月25日公表)。廃止の2.6倍にあたる企業が、同じ1年間で新たに優待を始めているのです。
「株主優待は減っている」という印象は、廃止のニュースの方が話題になりやすいことで生まれやすいものですが、数字で見る限り実態は異なります。今回は、新設・拡充の側から見えてくる「二極化」の実態と、実際に2026年に入ってから優待を始めた企業の具体例を整理します。
新設企業に見る業種の傾向
東京商工リサーチの集計では、2025年に株主優待を新設した175社の業種内訳は、サービス業50社(構成比28.5%)、情報通信業45社(25.7%)、製造業34社(19.4%)の順で多くなっています。
サービス業や情報通信業は、自社と直接関係のない商品券類(QUOカードやデジタルギフトなど)を優待として選ぶ傾向が強く、製造業は自社の商品・サービスを優待にする企業が多いという特徴も指摘されています。前回の記事で触れた「自社と関係のない金券・QUOカード系の優待は廃止のハードルが低い」という傾向とあわせて考えると、新設の時点ですでに廃止されやすいタイプの優待を選んでいる企業も一定数含まれていることになります。
2026年に入ってからの新設企業の具体例
実際に、2026年6月・7月に新設を発表した企業をSBI証券の集計から見てみます。
2026年6月には、AHCグループ(7083)が6月12日に300株以上・1年以上保有でデジタルギフト10,000円相当の優待を新設すると発表しました。コーセル(6905)は6月19日に北陸特産品カタログ(5,000〜10,000円相当)を、大崎電気工業(6644)は6月26日にデジタルギフト(1,000〜5,000円相当)の優待をそれぞれ新設しています。
2026年7月には、新設の発表がさらに増えました。前澤ホールディングス(575A)は7月14日、500株以上でお米4kg、800株以上で6kgという株数に応じた優待を新設。7月23日には日本農薬(4997)が100株以上でおこめ券4枚(1,760円相当)、K&Oエナジーグループ(1663)が100株以上で電子ギフト500円相当(継続保有期間に応じて増額)の優待をそれぞれ新設すると発表しました。7月30日には栄研化学(4549)が500株以上・3年以上保有でQUOカードPay2,000円相当、フタバ産業(7241)が100株以上・1年以上保有でQUOカード1,000円相当の優待を新設しています。
大企業による新設——三井住友フィナンシャルグループの事例
新設は中小型株だけの動きではありません。三井住友フィナンシャルグループ(8316)は2026年5月13日、長期保有株主を対象とした株主優待制度の新設を発表しました。
制度の柱は、同社が展開する個人向け総合金融サービス「Olive」の契約を条件に、毎年9月30日時点で100株以上を1年以上保有する株主にはVポイント5,000円相当(預金残高15万円以上が条件)、1,000株以上を5年以上保有する株主にはVポイント30,000円相当を進呈するというもの。あわせて、100株以上の株主には定期預金(3ヶ月物、1,000万円以下)に年1.0%の金利を上乗せする特典も設けられています。2026年10月に予定される株式分割後は、各条件の株数が2倍に調整される予定です。
大手金融機関が優待を新設する例は多くなく、しかも自社サービスの利用促進と結びついた設計になっている点が特徴です。
優待の「拡充」にも動きがある
新設だけでなく、既存の優待を拡充する動きも目立ちます。王将フードサービス(9936)は2026年6月11日、優待価額をおおむね1.25倍に増額するとともにデジタル化を実施すると発表しました。ブロンコビリー(3091)は6月12日、株式分割にあわせて対象株数を引き下げつつ優待価額を増額。エターナルホスピタリティグループ(3193)も6月5日、株式分割に伴う対象株数の引き下げと長期保有特典の新設を発表しています。
株式分割によって最低投資金額が下がるタイミングにあわせて優待の対象株数を引き下げる、あるいは長期保有特典を新設するというパターンは、個人株主の裾野を広げたい企業の意図が読み取れる動きです。
まとめ
2025年1月から12月までの1年間で、株主優待を廃止した企業は68社、新設(再導入含む)した企業は175社(東京商工リサーチ、2026年2月25日公表)
新設企業の業種はサービス業・情報通信業・製造業の順に多く、業種によって優待の内容(商品券類か自社商品・サービスか)に傾向の違いがある
2026年6月・7月だけでも、AHCグループ・コーセル・大崎電気工業・前澤ホールディングス・日本農薬・K&Oエナジーグループ・栄研化学・フタバ産業など、多くの企業が新設を発表
三井住友フィナンシャルグループのように、自社サービス(Olive)の利用促進と結びついた優待を新設する大手金融機関の例もある
拡充の動きでは、株式分割にあわせた対象株数の引き下げ・長期保有特典の新設というパターンが目立つ
廃止のニュースだけを見ていると「株主優待は先細りしている」という印象を持ちやすいですが、新設・拡充の動きにも目を向けると、優待制度そのものが縮小しているというより、個々の企業が自社の株主構成や事業戦略に合わせて優待のあり方を見直している、という方が実態に近いと言えそうです。
次回は、2026年9月の権利確定で狙える優待銘柄について取り上げる予定です。
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