
第1233号『赤道直下の軍楽隊!』
先月、村上龍氏の訃報をニュースで知った。しばらくして、脳内の奥底に沈殿していた記憶がゆっくり、プクプクと泡のように湧き上がってきた。
学卒後、日活に入社した。同期は4名。那須博之君(映画『ビー・バップ・ハイスクール』監督)と中原俊君(映画『桜の園』監督)、和田洋君(映画『限りなく透明に近いブルー』美術監督)そして僕。4月、5月と研修期間だった。映画『八月の濡れた砂』の藤田敏八監督組に配属された。研修での現場は、映画『裸足のブルージン』。主演、和田あき子、原田芳雄が相手役。和田のデビュー10周年記念映画で、ホリプロ主導での企画だった。やることは膨大な量の雑用(例えば、劇中で使用していた犬の世話だったり、夜食の手配だったり、監督の送迎だったり・・・)である。だから毎日、朝から深夜までバタバタしていた。そんな中でも撮影が早く終わり、翌日もお休みという奇跡のような日があった。
急遽、4人で飲みに行くことになった。撮影所のある京王線染地から府中に行って飲み、さらに新宿に移動して飲み、最後は四谷にあった那須君のアパートで飲んだ。府中から新宿に移動する途中、和田君が大学時代の友人を呼んだ。この友人が龍こと村上龍之助君だった。
5月の少し蒸し暑い夕方、なんだか怖いものも、煩わしいものもなく、映画の話、文学の話、音楽の話と、ただただ解放された気分で盛り上がった。そして、四谷の那須君のアパートに雪崩れ込み、ここでも延々と飲み、かつ語った。飲み疲れ、語り疲れ、言葉あそびのようなゲームになった。夜になっても蒸し暑く、クーラーもない部屋に男5人。もはや暑苦しさもマックス。そして、もっと熱くなる言葉を捻り出した者が勝者という意味不明な言葉遊びをした。「灼熱の砂漠、炬燵に入り鍋やきうどん」この凡作は僕が出した案である。それぞれに案を出し、最後に村上君の案が出た。「赤道直下の軍楽隊!」と。なんという才能だ!嫉妬した。そして皆、酩酊しながら大きく頷いた。
彼のデビュー作『限りなく透明に近いブルー』が、群像新人文学賞を獲る前のエピソードだ。
合掌。
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