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天音とララのちょこっとごはん<11>(#シロクマ文芸部)

    ☆彡 毎週発表されるシロクマ文芸部のお題に沿って連載小説を書いています。

    <登場人物>
    ◆月森 天音(つきもり あまね) 32歳
    インテリアコーディネーター。祖母が暮らしていた海辺の古民家をリノベーションし、小さな漁村へ移り住む。人より少しおせっかいだが、人の暮らしや思い出を大切にする優しい性格。
    ◆ララ
    3歳のミニチュアダックスフンドの女の子。人懐っこく無駄吠えもしない天音の愛犬。散歩とごはんが大好きで、町の人たちを自然と笑顔にしてくれる存在。
    <前回のあらすじ>
    図書館で本を勧めてくれた男性職員のことが、なぜか気になってしまう天音。借りた本を返すだけだと言い聞かせながら、彼に会えるかもしれない時間を選んで図書館へ向かう。
    姿が見えず少し落胆する天音だったが、書棚で偶然彼と再会。短い会話の中で、彼の名字が「藤崎」だと知る。
    名前が分かっただけなのに、少しだけ近づいたような気がしてしまう。過去の失恋から「もう傷つきたくない」と思いながらも、天音の中では新しい恋が静かに動き始めていた。

     

     月を見る。
     縁側から見上げた空に、白い月が浮かんでいた。
     満月には、まだ少し足りない。
     右側がほんの少し欠けている。
    「惜しいねえ」
     足元で伏せていたララに言うと、茶色い耳がぴくりと動いた。
    「もうちょっとで、まん丸なのに」
     ララは月を見るでもなく、庭の暗がりをじっと見つめている。

     虫の声がする。
     九月も終わりに近づき、夜になると半袖では少し肌寒くなった。
     ついこの間まで、日が暮れても蒸し暑かったのに。
    「秋だね」
     ララの背中を撫でる。
     森田さんの新居も、いよいよ完成が近づいている。
    「仕事、仕事」
     自分に言い聞かせるように立ち上がる。
     リビングへ戻ると、テーブルの上にはノートパソコンと、何冊ものカタログが広がったままになっていた。

     壁紙。
     カーテン。
     照明。
     家具。

     ひとつひとつ決まっていくたびに、図面の中にしかなかった家が形になっていく。
     私はノートパソコンを開いた。
     明日の打ち合わせで提案する照明器具を、もう一度確認する。
     ダイニングテーブルの上には、乳白色のガラスシェードを使ったペンダントライト。
     森田さん夫妻が最後まで迷って選んだものだ。
    「これで大丈夫」
     最後に開いていた完成予想図を確認する。
     家族三人で食卓を囲むことになるダイニング。そこから目を移すと、家事動線を考えて配置したキッチンがあり、その奥には洗面所と浴室が続いている。
     リビングには大きな窓を設けた。窓の向こうにはテラス、その先には庭が広がり、室内にいながら外の景色を感じられる開放的な空間になっている。
     もちろん、そこに描かれているのはイメージだ。
     図面の上では、ただの線と記号だった場所。
     けれど、完成が近づいた今は、そこに暮らす森田さん一家の姿まで思い浮かべることができる。

     ダイニングテーブルを囲む三人。
     キッチンに立つ奥さんのそばで、娘さんがお手伝いをしたがる姿。
     休日には、大きな窓を開け放って、テラスと庭を行き来する親子の姿。
     この家で、これからいくつもの家族の時間が積み重なっていく。
     朝、まだ眠そうな顔で椅子に座る娘さん。
     慌ただしく朝食を用意する奥さん。
     コーヒーを飲みながらスマートフォンを眺める旦那さん。
     夜になれば、乳白色のペンダントライトの下に料理が並ぶ。
    「今日ね、保育園でね」
     娘さんが一生懸命話すのを、二人が笑いながら聞く。
     そんな光景を想像して、無意識にララの柔らかな体を探してしまう。

     いいな……と羨ましくなる。
     家族って、こういうものなのだろうか。
     私にも、家族はいた。当たり前だ。
     父がいて、母がいて、私がいた。
     ごく普通の三人家族だったはずだ。
     なのに、子どもの頃の食卓を思い出そうとすると、なぜかぼんやりしている。
     何を食べていたのかは覚えているのだ。
     母が作ったカレーは大好きだった。
     少し甘めの卵焼きは、お弁当の定番だった。
     日曜日の昼に食べた焼きそばは、父が作ってくれた。

     味は覚えている。
     匂いだって、なんとなく思い出せる。
     なのに、その食卓を囲んでいる三人の姿が浮かんでこない。

     私はどこに座っていたんだろう。
     父はどこにいて、母はどこにいた?
     三人で、何を話していた?
     思い出そうとすると、記憶の中の食卓から、なぜか人だけが消えてしまう。

     代わりに浮かんでくるのは、母に叱られたことや、父の不機嫌な横顔だった。幼い私には、理由などわからなかった。
     言い返すこともできず、自分の部屋に逃げ込んだこともあった。
     廊下の向こうから聞こえてくる両親の声に、布団を頭までかぶった夜もあった。
     私が小学生の頃、家の中にはよく大きな音が響いていた。
     母の甲高い叫び声。
     父が力任せにドアを閉める、バタンッという音。
     あの音がすると、私は息を潜めた。
     自分の部屋にいても、次は何が聞こえてくるのだろうと身構えていた。

     大人になってからも、両親とは何度もぶつかった。
     私の仕事のことや結婚相手についても、母は必要以上に干渉してきた。
     私が何かを選ぶたびに、両親が望んでいるものとは少しずつ違っていた。

     いつからだったのだろう。
     家族といるより、一人でいるほうが楽だと思うようになったのは。
    「……変なの」
     思い出に息が詰まりそうになり、わざと声に出してみる。
     ララがこちらを見た。
    「だってさ、楽しいことだってあったはずなんだよ」
     ララは首を傾げる。
    「旅行とか、行ったし。誕生日だって、クリスマスだってあったし」
     写真だって残っている。
     小さな私が、誕生日ケーキの前で笑っている写真。
     海水浴へ行って、父と並んで写っている写真。
     母が買ってくれたワンピースを着て、得意そうに立っている写真。
     だから、幸せではなかったなんて言うつもりはない。
     多分、愛されていたはずだ。今まで育ててくれたことには、心から感謝している。大学まで行かせてもらったし、不自由な思いはしたことがない。

     それなのに。
     どうして私は、森田さん一家のような仲睦まじい家族の光景を、自分の記憶の中から見つけられないのだろう。
     家族三人で食卓を囲んで、くだらない話をして、笑っている。
     とりとめのない会話や、ふざけて笑い合う、ただそれだけの場面が、どうしても出てこない。

     私はもう一度ノートパソコンを開いた。
     画面には、森田さんの新居のダイニングが映っている。

     明るい木目のテーブル。
     乳白色のペンダントライト。
     その向こうには、娘さんのために作った小さなニッチ。

     この家で、あの子は大きくなっていく。
     家族でごはんを食べて、笑って、時には喧嘩をして。
     その全部が、いつかたまらなく愛おしい記憶になる。
     私は、そんな場所を作る仕事をしている。
     誰かの家族の、かけがえのない記憶が生まれる場所を作る仕事。
     そのことを改めて誇らしく思う。

     なのに同時に、胸の奥に小さな穴が開いたような気がした。
     私には、何かが足りないのかもしれない。
     人が当たり前に持っている何かを、私はどこかへ置いてきてしまったのではないだろうか。

     この時突然、藤崎さんの顔が浮かんだ。
     その唐突さに、ハッとして慌てて打ち消した。
     まだ名前を知ったばかりの人だ。
     それなのに、どうしてこんな時に思い出すのだろう。

     一人で食べたいものを食べて、好きな時間にお風呂に入り、好きな本を読んで眠る今の生活。誰かに自分の生き方を説明する必要もない。
     そんな静かで、自由で、穏やかな暮らし。
     誰かの機嫌をうかがわなくていい心地よさに、私はずっと安心していた。
     けれど、もしかするとこれは、自分で作った逃げ場なのではないだろうか。

     ようやく手に入れたこの避難場所を、手放すことはできそうにない。
     だったらこの先も、ずっと一人でいいんじゃないだろうか。
     結婚しなくてもいいし、誰かと暮らさなくてもいい。
     ララと二人でこの家で暮らしていけば、波風も立たず穏やかでいられるし、そのほうが、きっと楽だ。
     傷つくこともない。
     私はそういう人間なのかもしれない。

     縁側へ出ると、さっきと同じ場所に月が浮かんでいた。
     満月には、まだ少し足りない月。
     私はしばらく、それを見上げた。
     ララが隣にやってきて、私の足に身体を寄せる。
     その温もりに手を伸ばし、背中をゆっくりと撫でた。

     これでいい。
     今は、これでいい。

     そう思ったはずなのに。
     月の欠けたところばかりが、なぜか気になっていた。


    <キノコたっぷり和風スパゲティ>
    【材料】2人分

    ★スパゲティ……200g
    ★しめじ……100g
    ★エリンギ……100g
    ★薄切りハーフベーコン……4枚
    ◎オリーブオイル……大さじ2
    ◎にんにく(みじん切り)……1片分
    ◎醤油……大さじ1
    ◎顆粒和風だし……小さじ1
    ◎有塩バター……10g程度
    ◎塩・こしょう……少々
    ◎スパゲティのゆで汁……適量
    ◎小ねぎ(トッピング用)……適量
    【作り方】
    ① 鍋にたっぷりのお湯を沸かし、スパゲティを表示時間どおりに茹でる。
    ② フライパンにオリーブオイルとにんにくを入れて弱火にかけ、香りが立つまで炒める。
    ③ 食べやすい大きさに切ったベーコン、しめじ、エリンギを加えて炒める。
    ④ キノコがしんなりしてきたら、塩・こしょう、醤油、顆粒和風だしを加えて炒め合わせる。
    ⑤ 茹で上がったスパゲティと有塩バターを加え、ゆで汁を少しずつ加えながら全体をよく絡める。
    ⑥ 味をみて塩・こしょうで調え、器に盛る。仕上げに小ねぎを散らしたら出来上がり!

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    <犬用・鶏肉とキノコのちょこっとスパゲティ>
    【材料】(1食分・トッピング程度)

    ★スパゲティ……10〜15g(茹でた状態)
    ★鶏むね肉またはササミ……20g
    ★しめじ……5g
    ★エリンギ……5g
    ★キャベツ……10g
    ★水……適量
    【作り方】
    ①
    スパゲティは塩を入れずにやわらかめに茹で、1〜2cmくらいに短く切ります。
    ②鶏肉、しめじ、エリンギ、キャベツを細かく刻みます。
    ③小鍋に水を入れ、鶏肉と野菜、キノコを十分に加熱します。
    ④スパゲティを加えて軽く煮込み、全体をなじませます。
    ⑤しっかり冷ましてから、いつものドッグフードに少量トッピングして完成。


      
     きのこたっぷりの和風スパゲティを作った。
     縁側の丸テーブルに料理とビールを運んだ。
    「いただきます」
     ひと口食べる。
     バターと醤油の香りに、きのこの旨み。
    「うん。おいしい」
     ララも夢中で食べている。
    「おいしい?」
     尻尾だけが動いた。
    「よろしい」
     頭の中がぐちゃぐちゃする日は、美味しいものを食べてお腹を満たせば、それだけで小さな幸せを感じることができる。
     
    「明日も頑張ろうか」
     尻尾が、縁側を二度叩いた。
     明日になれば、月は今日より少しだけ丸くなっているはずだから。



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