
【遠距離恋愛、連載】第4話「逃げるように繋がって、気づいた答え」
前回の続き
彼女を失い、愛を失い、それでも結婚した10年の軌跡、第4話

「誰かを想ってる人の文章って、分かるんですよ」
――繋がっているだけで、少しだけ楽だった。
休日の午後。
理恵と会えない時間だけが、少しずつ増えていった。
やることもなく、ぼんやりとパソコンを眺めていたとき、SNSの広告が目に入った。同じ趣味や職業の人が集まる場所。
軽い気持ちで登録ボタンを押した。
正直に言えば——
誰かと出会いたかったわけじゃない。
ただ、理恵と会えない時間の中で生まれた、どうしようもない“空白”を、少しだけ埋めたかった。
画面の向こうには、知らない誰かがいる。名前も顔も知らないのに、簡単に会話ができる。
その気軽さが、今の自分にはちょうどよかった。
最初は仕事の話ばかりだった。
同じ業界の人たちと、愚痴を言い合って、笑って、励まし合う。
たったそれだけで、少しだけ気持ちが軽くなる。
それで十分だったはずなのに——
一人だけ、気になる存在がいた。
北海道の「ミナミ」という名前のアカウント。
[ユウスケさん、仕事、無理しすぎじゃないですか?]
ユウスケはSNSでの名前。
たった一言だったのに、不思議と引っかかった。
[そう見えますか?笑]
[見えますよ。文章、ちょっと疲れてますもん]
その一文だけが、不思議なくらい胸に残った。
思わず苦笑いがこぼれた。
画面越しなのに、見透かされたような気がした。
それから、やり取りは少しずつ増えていった。
仕事の話。休日の過ごし方。好きな音楽。昔の失敗談。
顔も知らない。年齢も知らない。
それでも、不思議と会話は心地よかった。
“ただ、誰かと話したかっただけ”
そのはずなのに——
ふとした瞬間、頭をよぎる。
理恵のこと。
「俺、何やってるんだろうな」
パソコンを閉じて、ベッドに倒れ込む。
理恵とは、約束した。
“1年、お互いの時間を大切にしよう”って。
あれは、離れるためじゃない。
ちゃんと向き合うための時間だったはずだ。
なのに俺は——
寂しさから逃げるように、誰かとの繋がりに、少しずつ依存している。
数日後。
ミナミから、こんなメッセージが届いた。
[ユウスケさんって、大事な人いますよね?]
ドクン、と心臓が鳴る。
[なんでそう思うんですか?]
少し間があって、返信が来た。
[なんとなくです]
[誰かを想ってる人の文章って、分かるんですよ]
その言葉に、手が止まった。
理恵の顔が浮かぶ。
笑った顔。怒った顔。
そして——
あの時、少しだけ寂しそうに笑った顔。
[いますよ]
それだけ打ち込んで、送信した。
それ以上は、書けなかった。
画面の中の繋がりは、確かに心を軽くしてくれる。
でもそれは——
埋めているようで、埋まっていない。
本当に埋めたいものは、最初から決まっていた。
理恵だ。
その夜。
久しぶりに、自分からメッセージを送った。
[理恵、元気?]
たった一言なのに、送信ボタンを押すまでに時間がかかった。
数分後。
[元気だよ。亮平は?]
その返信を見た瞬間、
胸の奥に溜まっていた何かが、少しだけほどけた気がした。
遠距離でもない。
近距離でもない。
曖昧なこの関係の中で、やっと気づき始めていた。
——誰と繋がるかじゃない。
——誰に、ちゃんと向き合うかだ。
その夜、SNSの通知はオフにした。
画面を閉じる。
理恵から届いた「元気だよ」の四文字だけが、いつまでも胸に残っていた。
あの頃の俺は、まだ間に合うと信じていた。
第5話に続く
※次回以降、毎週水曜日、土曜日の週2回、連載を投稿予定しています。
引き続きご期待ください。
【マガジンを作りました、過去の話はこちらから】
「遠距離恋愛、10年軌跡、夏の章」
「四季を越えて愛、総集編」
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