
【企画SS#風まかせ文芸部】再会
(800字)
再会の合言葉を決めよう、と彼は言った。僕が君を、君が僕を、迎えにきたことがわかるように。
迎えにくる?再会?あまりにも遠い、夢のような話だ。とても信じられない。
そう言って嗤うと、彼は静かに微笑んだ。手のひらが頬を包み、親指が唇をそっと撫でた。
信じなくていい。これは僕の願いだから。耳朶を吐息とともにそんな言葉がくすぐり、思わず目を閉じる。それを拒絶と受け取ったのか、彼の手は頬を離れた。
手のひらのぬくもりが去った頬に、風はさっきよりよほど冷たい。そのことが、不意にどうしようもなく癪にさわった。
なぜ信じてと言わない。なぜ願いを自分のものと言う。尊重?意志?そんなもの、あなたのための口実でしかない。
残酷な言葉を正面から受け止めて、それでも彼は微笑んでいた。静かに、耐えるように、祈るように。
合言葉を決めよう。再会を願って。…願う僕に免じて。
その言葉は風に吹き散らされていく。頬に微かに残っていた手のひらの感触とともに。耳朶に僅かに残っていた吐息の湿りとともに。
応えのない願いを抱いて、彼は静かに目を閉じる。唇に微笑を浮かべたまま。そこに宿る熱に、ふれることを許さないまま。
風が強まる。もう目を開けていられない。もうその声を拾えない。
…合言葉のないふたりは、もうお互いを見つけることはできない。
なぜ受け入れなかったのかと、あなたは問うだろうか。彼が憐れだと、何もかもをひとりで背負い、たった一言、しるしとしての言葉だけを求めた彼に、なぜそれさえも許さなかったのかと。あなたは問うだろうか?
再会を望まなかったから。
再会を信じなかったから。
再会を願うことを、許せなかったから。
なんと答えれば満足だろう。なぜと問うあなたは、問うことでこの選択を責める。再会が果たされないのは、そのたった一言を彼に許さなかったからだと。
だから。
…この言葉もまた、ただ風に吹き散らされていく。
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