
短編小説 : 「秋の空」へ行こう | シロクマ文芸部
「『秋の空』へ行こう」
「うん……」
私は抗議の意味を込めて組んだ腕を重くした。
でも、私たち二人はそこへ向かって歩き出してしまう。
私は彼に溶けている。繰り返されるコピーを愛してしまった。
彼とのランチは三回目。
同じデートを、同じ順番で、同じように繰り返している。
いつもの老夫婦は白目をむきながら「秋の空を目指しなさい」とつぶやいた。スーツを着たサラリーマンは疲れ切った顔で座りこんでいる。OL風の二人は「秋の空はそこにある」と話を弾ませるが、唇が腐っていて息が抜けていた。すれ違う街の人たちが、みんな「秋の空」の話をしている。
既視感が私の胃を縮こませる。
もしも、また同じなのだとしたら。
反復は悪ではない。季節は再帰し生活は繰り返す。私だって誰かと同じ形の模造品。でも、抵抗するように、私は誰かの言葉を思い出した。
「『お祭り』は一回きりの出来事だ。それを『二回目、三回目』と数えてはいけない。」
このデートを劣化コピーにしたくなくて、私は言葉を思い出す。
「それは『一のn乗回目』と数えるべきものだ。」
puissance、英語の power。コピーのデートに欠けているそれを見つけなければいけないのかも。私は、私自身の保身をちょっとだけ揺らがせた。
「楽しみだね。きっと、noteのお題企画か何かかな?」
彼は反復を続けている。前回と同じ言が貼り付けられたんだ。
反復に一回きりの puissance を取り戻したい。
つまり、この関係を壊したい。
コピーに留まって彼の愛の永遠に閉じていたい。
つまり、この関係を保ちたい。
そう、これは繰り返す私の夢。
二つの願望がせめぎあう夢なんだ。
あの扉がまた近づいてくる。
開けたら、また、女性スタッフの笑顔が出迎えてくれる。そして私たちは同じ席に座る。椅子のほうが私たちを覚えているから。そして、私は聞いてはいけない。聞いてはいけないんだ。
奥さんといつ別れるの?
「タベルナ『秋の空』へようこそ! 本日のランチは、特製プッタネスカです」
「それ、二つください」
彼はパスタを美味しそうに頬張って、店を出てから私の全ても頬張ってくれた。同じホテルのコピーのようなベッドで、泣きたくなるような快楽が私の身体に再帰する。それを壊す勇気は、まだ、なかった。
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