
「現場の気づき」を提案に変える。土屋鞄初の女性工房長が描く、声を上げやすい職場とウェルビーイング
性別に関わらず、誰もが変化を起こせる社会を目指す「WE CHANGE AWARDS」。2025年の初開催で個人部門を受賞したのが、土屋鞄製造所(以下、土屋鞄)の下田です。
そして先日NewsPicksの丸の内オフィスで、次回の「WE CHANGE AWARDS 2027」に向けたプレイベントが開かれました。登壇したのは、第1回の2025年度に個人部門を受賞した6名。下田もその一人として、受賞から1年の変化や、いま向き合っている課題を語りました。
現場の一人ひとりが、仕事を「自分ごと」として捉えて動くには、どうすればいいのか。工房長になった下田が、ずっと考え続けてきた問いです。イベントで語った内容をたどりながら、1人で始めた「現場の気づきプロジェクト」がどう工房に広がったのか、その先に描くものづくりについて、あらためて聞きました。
100人以上の職人を束ねる、土屋鞄初の女性工房長
下田は2019年に新卒で土屋鞄に入社し、ランドセル製造のパーツ班に配属されました。入社半年でパーツ班の班長を任され、組立リーダーを経て、2026年にランドセル工房の工房長に就任しました。
いまは100人以上の職人が働くランドセル工房を束ねています。土屋鞄で女性が工房長になるのは、下田が初めてです。
自信が持てなかった若手時代から工房長になるまでのストーリーは、こちらの記事をご覧ください。
下田(しもだ) / 土屋鞄製造所 SCM本部 ランドセル製造部 ランドセル工房東京 工房長
2019年4月、新卒で入社。西新井工房でランドセルを製造する職人としてキャリアを積む。
自分ごととして働いてもらうには、どうすればいいか

当日は、NewsPicks for WEの川口編集長がモデレーターを務め、登壇者にインタビューを重ねました。ほかの登壇者からは「最終目標は経営トップ」「新たな社会課題に直面している」といった言葉も出るなか、下田は、自社史上初の女性工房長としての奮闘を語りました。

川口編集長: 受賞時と比べて、ご自身や周囲に変化はありましたか。
下田:受賞当時は3チームをまとめるリーダーでしたが、いまはランドセル製造部全体を見る工房長になりました。周りの応援と、受賞そのものが大きな後押しになりました。

川口編集長: いま取り組んでいるチャレンジと、その中での悩みを教えてください。
下田:工房長になってから、現場のスタッフに、製造における課題を「自分ごと」として捉えて動いてもらうにはどうすればいいか、ということをずっと考えています。
「自ら考えて変える」という成功体験を現場のスタッフに増やしていくために、「現場の気づきプロジェクト」のもとで、現場の課題改善を仕組みにすることに挑戦しています。
きっかけは、NewsPicks for WEでの勉強会でした。「チームの課題を自分ごとと思ってくれる難しさ」が話題になったことがあり、そこでの学びから、改善提案を毎月全員に出してもらうようにしたんです。

「現場の気づきプロジェクト」とは。小さな違和感を「ポジティブな提案」へ
イベントで話題となった「現場の気づきプロジェクト」。その内容をあらためて下田に聞きました。
━━ どんな仕組みですか。
下田:課題の大小は問わず、「現場で感じた小さな違和感」をスタッフ全員に毎月1つ、提案を出してもらいます。
匿名ではなく、提案者の名前を出して提出してもらっています。改善してほしいことには、具体的な代替案をセットで添えてもらうのがルールです。
小さなことでもいいので、出してもらうことで、現場にある改善の種が見えるようになります。
目的は、改善の種を洗い出すというより、提案を行う文化を根付かせることです。現場の小さな気づきが前向きな形でアウトプットできることを、ランドセル製造部内の文化にしたいと考えました。

━━ 運用するうえで、意識したことは何ですか。
ただの目安箱にならないよう、意識しました。そのために、意見だけではなく、提案という形でポジティブな言葉に変換しやすい投稿フォーマットにしました。たとえば「ここが使いにくい」という声なら、「こうなれば作業しやすくなる」という提案の形に直して提出してもらいます。
実際に、現場の運用に取り入れられた提案もあります。製造の無駄をなくして生産性を上げる提案が、少しずつ増えてきました。

━━ 提案を出したあとは、どうしているのですか。
出てきた提案には、オフィス内に掲示し、各担当リーダーが個々にコメントを返します。それと同時に、出た意見をみんなに共有して、「誰が何をやるか」を具体的に話し合い、実際に取り組める環境づくりを進めています。
チームへの貢献を評価し、「声を上げれば評価される」職場へ

━━ 評価制度とも結びついているそうですね。
従来の「生産数の達成」などの数字の目標だけでなく、「チームのために、提案を出し続けること」も今期から個人の評価軸に組み込みました。
提案を評価に反映して、フィードバックする循環をつくっています。誰もやったことのない取り組みなので、まさに挑戦の真っ只中です。
━━ 提案を評価に入れたのは、なぜですか。
これまでは個人の目標設定をもとに評価していましたが、製造現場はその年の製造状況によって担務の領域も変わりやすく、本人がコントロールできないこともあります。効率目標だけでは、個人の努力が正当に評価されにくくなってしまう面もあるのではないか、と考えました。
また、効率化を追い求めるほど、指示されたことだけをこなす働き方になってしまわないか、という懸念もあったんです。
自分の気付き次第で評価される仕組みを取り入れることで、より「製造における課題を自分ごと化」し、みんなで実感し合いたいと考えました。
━━ 職場は、どう変わりましたか。
声を上げれば職場がよくなり、その行動自体が評価される。安心して意見を言えるこの循環を実感できることが、ウェルビーイングな働き方の土台になると信じています。
元々は、私1人で始めたプロジェクトでした。評価に影響する仕組みを、自分で始めてしまったので不安もありましたが、他の班のリーダーも一緒に運用してくれるようになり、仲間が増えてきました。みんなと一緒に考え、より良い形へと運用をブラッシュアップ中です。

1人で始めた提案が、リーダーとメンバーの対話を生んだ
━━ 始めてみて、スタッフの反応はいかがでしたか。
それぞれのスタッフから、ポジティブな意見が聞こえてきました。「今までちょっと思ったことを、どこに言ったらいいかわからなかった」という声もあって。
提案を出す場ができたことで、スタッフがどんなことに興味を持っていて、何を気にしているのかも見えてくるようになりました。部課長からも好評で、取り組みはいまも続いています。
━━ リーダーとメンバーの関係にも変化が生まれていそうですね。
そうですね。リーダーとメンバーのコミュニケーションツールにもなりつつあります。提案が、対話のきっかけになることもあるんです。
自分の考えをまとめて提案しても、誰も読んでくれていないと仕組み自体は形骸化します。でも、提案は必ずリーダー陣だけでなく掲示されたものを通して、他のチームの人にまで読んでもらえる。それがほどよいハードルになって、仕事や効率化へのモチベーションが高まっているように思います。
ものづくりに100点はない。気づきを、現場全体の文化に

━━ この取り組みの先に、どんなことを目指していますか。
職人は、いいものをつくるだけではなく、「もっとよくつくれるのではないか」という問いやブラッシュアップを続けていってほしいと思っています。
ものづくりに100点はありません。
より良いものづくりを、という1つの目標に向かって、変化を恐れずにトライ&エラーを重ねていきたいです。そのマインドを、リーダー陣だけでなく、現場のメンバーにも根付かせていきたいと思っています。
次の世代を迎える環境づくりを
━━ 今後、挑戦したいことを教えてください。
30歳で工房長になれた自分の経験や失敗を、次の世代に役立てていきたいです。
新卒研修の受け入れを担当した縁もあって、新卒のメンバーから、仕事の悩みや今後どうしていけばいいかを、個別に相談されることも増えました。いつでも気軽に声をかけてもらえたらうれしいです。
今期から、初めて新卒採用の面接にも関わりはじめました。未来に希望や目標を持つ学生たちは、まぶしいくらいキラキラしてるんですよね。そんな彼らを迎えるために、環境をもっと整備しなければ、という使命感みたいなものがわいてきています。
小さな提案から、働く人が安心して意見を言える工房へ。下田と仲間たちの挑戦は、まだ始まったばかりです。
自分の経験を、長く愛されるものづくりの現場で活かしたい方。
ものづくりに心から共感できる場所で働きたい方。
現在、株式会社土屋鞄製造所では、仲間を募集しています。特に東京工房では土屋鞄のものづくりをともに支えてくれるスタッフを積極採用中です。
▼あわせて読みたい
▼募集職種一覧はこちら
文・主な写真:小笹玲子
コーポレートブランド推進室所属。2021年、土屋鞄製造所 入社。
土屋鞄製造所の社内報『革ノオト』およびハリズリー公式note編集長。これまで社内報で手がけた記事は500記事以上。(掲載情報は取材当時のものです)