
学習障害(LD)とは?種類・特徴・支援までわかりやすく解説
はじめに ── なぜ、僕がこれを書くのか
はじめまして。「発達支援の翻訳者 ヒデアキ」です。
大阪市で、妻と一緒に療育の施設を3つ運営しています。
保育士、児童発達支援管理責任者、
それに鍼灸師と介護福祉士…と、
資格だけ並べると「いったい何屋さんなの?」
という感じですよね(笑)。
でも全部、目の前の子どもと家族をちゃんと理解したくて、
少しずつ取ってきたものなんです。
そして昨年の11月からthreads(スレッズ)というSNSで
発達支援の情報をわかりやすく発信し
いまでは1万人以上の方が
僕の情報を受け取ってくれています

さて、いきなりですが。
この記事を開いてくれたあなたは、たぶん、
こんな気持ちを抱えているんじゃないかなと思います。
「頭は悪くないはずなのに、
どうして勉強だけこんなに苦手なんだろう」
「何回教えても漢字が覚えられない。
僕の…いや、私の教え方が悪いのかな」
「音読の宿題になると、
急に子どもの機嫌が悪くなる」
そして、そのうしろに、
たぶんこんな声がくっついている。
「私の育て方、どこか間違えたんだろうか」
…先に、いちばん大事なことを言わせてください。
あなたのせいでは、ありません。
これは慰めで言っているんじゃないんです。
学習障害という状態について正しく知ってもらえたら、
「ああ、本当にそうなんだ」と、心から腑に落ちてもらえるはず。
それを願って、僕はこの教科書を書きました。
この記事でわかること
* 学習障害(LD)とは何か
* 読み・書き・計算の困難の違い
* 保護者・学校・支援者が知っておきたいポイント
* WISCなどの検査が支援にどう役立つのか
「困っていることから読みたい方は、目次から気になる章へ進んでください。」

現場でいちばん多い、3つの誤解
僕が療育の現場で、保護者さんや学校の先生から
本当によく耳にするのが、この3つの言葉です。
ひとつめ、「怠けているだけ」
ふたつめ、「努力が足りない」
みっつめ、「親のしつけの問題」
この3つ、全部ちがいます。
というより、
この3つで片づけてしまうことが、
実はいちばん子どもを苦しめてしまうんです。

学習障害って、目に見えないんですよね。
骨折していたら、誰でも「あ、痛そう」とわかる。
でも「文字が読みにくい脳の状態」は、
外からはまったく見えない。
だから「見た目は元気なのに、
どうしてできないの?」という
誤解が生まれてしまう。
でも、見えないだけで、
その子の中では確かに何かが起きている。
僕はそう考えています。
僕は「翻訳者」でいたい
専門書を開くと、
「限局性学習症」だとか
「音韻処理の障害」だとか、
難しい言葉がずらりと並んでいます。
あれ、正直しんどいですよね。
僕自身、勉強しはじめた頃は
「お願いだから日本語で書いてくれ…」と
何度も思いました(笑)。
だから僕は、
専門用語を「日常の言葉」に
翻訳する係でいたいんです。
それが、この「発達支援の翻訳者」
という名前に込めた気持ちでもあります。
だからこそ、このnoteは無料なのに
【24000字以上】ありますが
理解しやすいように
【図解】を50枚以上追加しています
例えばこんな形で👇

「文字だと読むのがつかれる…」
「文字だとイメージできない…」
すごくわかります。
もし疲れたら「画像」をタップして
流し読みでもいいんです
気になるところだけ
読んでください
この教科書は、
保護者さん・支援者さん・学校の先生、
この3者みんなが「同じ言葉」で
子どものことを話せるようになることを目指しています。
関わる大人たちの言葉がそろった瞬間に、
子どもを取り囲む世界は、ぐっとやさしくなる。
僕は現場で、それを何度も見てきました。
さあ、肩の力を抜いて。
お茶でも飲みながら、ゆっくり読んでいってくださいね。
第1章 学習障害の「本質」をつかむ
学習障害とは、ひとことで言うと
まず、いちばんシンプルに言いますね。
学習障害とは、
「頭は悪くないのに、
読み・書き・計算などの一部だけが、
とても苦手」という状態のこと。
これだけです。
まずはこの一文だけ、
持って帰ってもらえたら大成功。

「一部だけ」というのが、
実はいちばんのポイントなんです。
全部が苦手なわけじゃない。
むしろ、おしゃべりが上手だったり、
発想が豊かだったり、
体を動かすのが得意だったり、
その子なりの光るところがちゃんとある。
なのに、なぜか特定のことだけがうまくいかない。
ここが学習障害の、いちばんの特徴なんですね。
いちばん大切な原則「知的発達に遅れはない」
学習障害を理解するうえで、
これだけは絶対に外してほしくない
大原則があります。
それが、
「全般的な知的発達に遅れはない」
ということ。
これは文部科学省の定義にも、
お医者さんが使う医学の診断基準にも、
共通してはっきり書かれていることです。
つまり、頭の働き全体としては
ちゃんと年齢相応。
決して「知的な遅れ」ではないんですね。
これ、本当に大事なポイントなんです。
というのも、多くの保護者さんが
「勉強ができない=頭が悪い」
と思い込んで、必要以上に落ち込んでしまうから。
でも、そうじゃない。
全体の力はちゃんと保たれている。
ただ、一部の入り口が狭いだけなんです。
僕はこの話をするとき、
よく「才能の問題じゃなくて、通り道の問題ですよ」
とお伝えしています。
「特異性」という核心 ── 一部だけが際立って苦手
じゃあ、その子の中で、
実際になにが起きているのか。
イメージしてほしいのは、
能力の「凸凹(でこぼこ)」です。
多くの力は平均くらいにあるのに、
ある特定の力だけが、
ストンと深く落ち込んでいる。
この「一部だけが際立って苦手」という不揃いさ。
専門的には「特異性」なんて難しい言葉で呼びますが、
要するに「まんべんなく苦手」なのではなく
「ピンポイントで苦手」ということです。

たとえるなら、
運動会の10種目のうち、
9種目は普通にこなせるのに、
なぜか「玉入れだけ」がどうしても苦手…みたいな感じ。
玉入れが苦手だからといって
「この子は運動音痴だ」なんて言いませんよね。
それと同じことが、勉強のなかで起きているんです。
脳の「情報処理の仕方」の特性である
「じゃあ、どうして一部だけ苦手なの?」って、
当然思いますよね。
これは、脳が情報を処理する「やり方」に、
その子ならではのクセがあるからだ
と考えられています。
目や耳から入ってきた情報を、
脳の中で整理して、意味に変えていく。
その一連の流れの、
どこか特定の場所が通りにくい。
そんなイメージです。
大事なのは、
これは「サボり方」でも
「気合いの問題」でもないということ。
生まれ持った、脳の配線の特性なんです。
だから、根性論で殴りかかっても解決しない。
でも逆に言えば、その子に合ったやり方さえ見つかれば、
ちゃんと道は開けていきます。

上の図が、
僕が現場でよく使う「氷山モデル」です。
水の上に出ている「字が読めない」という困りごとは、
氷山のほんの一角。
その下には、目に見えない
脳の処理のクセが、
ずっしりと隠れている。
だから、水面の上だけを見て
「どうして読めないの!」と叱っても、
水面下は何ひとつ変わらないんですね。
むしろ、子どもが傷つくだけになってしまう。
「見えない障害」だからこその難しさ
ここが、本当に、いちばんつらいところなんです。

たとえば車椅子に乗っている方がいたら、
周りは自然と「段差、大丈夫かな」と気づけますよね。
でも学習障害は、見た目にはまったくわからない。
だから「やればできるはず」
「ちょっと甘えてるだけ」と誤解されやすいんです。
そして、いちばん苦しんでいるのは、
実は子ども本人だったりします。
「みんなは普通にできているのに、どうして自分だけ?」って。
この「自分だけできない」という感覚を、
教室で毎日毎日味わい続ける。
想像すると、胸がきゅっとなりますよね。
二次的な問題を防ぐという視点
そして、僕がいちばん気をつけてほしい
と思っているのが、これです。
苦手なことを繰り返し叱られる
→ 「自分はダメな子だ」と思い込む
→ やる気をなくす
→ もっとできなくなる
→ さらに叱られる…
この悪循環、現場で本当によく見かけます。

もともとの「読みにくさ」そのものは、
実は人生を左右するほどの大問題ではないこともあります。
それより本当に怖いのは、
そこにあとからくっついてくる
「自分なんて」という気持ち
これを二次的な問題と呼びます
「~なんて…」のほうなんです。
ここがこじれると、不登校や、
心の元気そのものを失うことに
つながってしまうこともある。
だからこそ、早めに
「あなたのせいじゃないよ」
「やり方を変えればいいだけだよ」
と伝えて、この悪循環に入る前に
そっと手を差し伸べる。
それが、僕たち大人にできる、
いちばん大事なことだと思っています。
この章の、3者それぞれへの一言

この章のまとめとして、
関わる3者それぞれに、
僕から一言ずつ贈らせてください。
保護者さんへ
「できない」の裏には、必ず理由があります。
何度も言いますが、あなたの育て方のせいではありません。
ここまで一生懸命向き合ってきた、その事実だけで十分すごいことです。
支援者さんへ
目に見える行動ではなく、
水面下にある処理のクセを見立てること。
それが僕たちの専門性であり、
腕の見せどころですよね。
学校の先生へ
「なまけている」を「そういう特性なんだ」に切り替える。
たったこれだけで、その子の教室での毎日は、
まるで違うものになります。
第2章 教育と医学、2つの地図
なぜ、定義が2つあるのか
ここでちょっとだけ、混乱しやすいお話をします。
でも大丈夫、ゆっくりいきますね。
実は「学習障害」という言葉、
使う場所によって、
意味する範囲が少し違うんです。
学校など教育の世界で使う定義と、
病院など医学の世界で使う定義
この2つが、微妙にズレている。
これ、知らないと本当に困るんです。
「学校では"LD"って言われたのに、
病院では違う名前を言われた…
どっちが正しいの?」って、
不安になっちゃいますよね。
僕も保護者さんから、
この手のご相談を何度も受けてきました。
だから、ここで地図を2枚、広げておきましょう。
両方の地図を持っておけば、もう迷子になりません。

教育の地図:文部科学省の「6領域」
まず、学校でよく使われるのが、
文部科学省の定義(1999年の報告)です。
ここでは、学習障害をこう説明しています。
「聞く・話す・読む・書く・計算する・推論する」
この6つの力のうち、
特定のものの習得と使用に、
著しい困難を示す状態。

ここでのポイントは、
「読み書き計算」だけじゃなく、
「聞く」「話す」「推論する(見通しを立てる・原因を考える)」
まで含んでいること。
教育の地図は、けっこう広めなんです。
これはたぶん、
「困っている子を、なるべく取りこぼさないようにしよう」という、
教育らしいやさしさが出ている定義なんだろうなと、僕は思っています。
医学の地図:DSM-5-TRの「限局性学習症」(3領域)
いっぽう、病院のお医者さんが診断に使うのが、
アメリカ精神医学会がつくった「DSM-5-TR」という基準です。
ここでは学習障害を「限局性学習症(SLD)」と呼びます。
「限局性」=「限られた範囲の」という意味名前からして「ピンポイントの苦手さ」を表しているんですね。
そして医学の地図は、
対象を「読み」「書き」「算数」の3つにしぼっています。

さっきの教育の地図にあった「聞く・話す」は、
医学のほうでは別のグループ(ことばの発達に関する領域)
として扱われることが多いんです。
だから、ざっくり言うと――
教育の地図は広くて、医学の地図は少し絞られている。
この違いさえ知っておけば、
「どっちが正しいの?」で悩まなくてすみます。
どちらも、同じ子どもを見ているんですから。
ICD-11「発達性学習症」も、少しだけ
もうひとつだけ、名前を紹介させてください
世界保健機関(WHO)がつくっている
「ICD-11」という国際的な基準では、
学習障害を「発達性学習症」という名前で呼んでいます。
「また新しい名前が出てきた…!」と
身構えなくて大丈夫。
中身はDSM-5-TRとほとんど同じと思ってもらってOKです。
呼び名が国や機関によって少しずつ違うだけ。
人によって「お父さん」「パパ」「おとん」と呼び方が違うのと、
まあ似たようなものです(笑)。
用語整理:LD・SLD・ディスレクシアの関係
ここまでで、いろんな横文字が出てきましたよね。
頭の中がこんがらがってきた頃だと思うので、
いったん家系図みたいに整理しておきましょう。

ざっくり言うとこういう関係です。
いちばん広くて日常的な呼び名が「LD(学習障害)」
その医学バージョンが「SLD(限局性学習症)」
そして、その中の
「読みの苦手さ」をディスレクシア、
「書きの苦手さ」をディスグラフィア、
「算数の苦手さ」をディスカリキュリアと呼ぶ。
横文字が並ぶと身構えてしまいますが、
正体はこれだけ。
「読み・書き・計算、それぞれに
専用のあだ名がついているんだな」くらいの理解で、
まったく問題ありません。
この3つのあだ名は、
次の章からひとつずつ、
じっくり見ていきますね。
かつての「IQと学力の差」モデルは、もう使わない
これは、少し前に発達のことを勉強された方ほど、
知っておいてほしいアップデートです。
昔は、学習障害かどうかを判断するとき、
「知能検査の点数(IQ)」と「実際の学力」に
大きな差があるかどうか、
をとても重視していました。
この考え方を「乖離(かいり)モデル」と言います。
「頭はいいはずなのに、成績はこんなに低い。
この"差"が学習障害の証拠だ」という発想ですね。
でも今は、この「差があること」を
必須の条件にはしなくなりました。
DSM-5以降、この基準は正式に外されています。

なにが変わったかというと――
以前はこの「差」がはっきり出るまで診断がつきにくくて、
その分、支援のスタートが遅れがちだったんです。
「もう少し様子を見ましょう」と言われているうちに、
子どもはどんどんしんどくなっていく。
でも今は、その子の困りごとを、
いろんな角度から総合的に見て判断するようになりました。
これは、必要な支援をより早く届けるための、
とてもいい方向への変化だと僕は感じています。
この章の、3者それぞれへの一言

この章のまとめとして、
また3者それぞれに一言ずつ。
保護者さんへ
学校と病院で呼び名が違っても、
どうか慌てないでください。
地図が2枚あるだけで、
そこに描かれている子どもは、
たったひとりの同じ子です。
支援者さんへ
教育の定義と医学の定義、
その「範囲の違い」を押さえておくと、
学校や医療機関との連携がぐっとスムーズになります。
翻訳者として、両方の言葉を話せると強いですよ。
学校の先生へ
「聞く・話す・推論する」も、
教育の定義では立派に学習障害の範囲に入ります。
読み書き計算のつまずきだけに目を奪われず、
「あれ、この子、聞き取りが苦手かも?」という視点も、
そっと持っていてもらえたら嬉しいです。
第3章 読みの困難 ── ディスレクシア
ディスレクシアとは ── いちばん多いタイプ
さあ、ここからは具体的に、
ひとつずつ見ていきましょう。
まずは「読み」の苦手さ、ディスレクシアです。
ディスレクシアは、
学習障害の中でもいちばん多いタイプとされています。
「文字を読むこと」に、うまくいかなさが出る状態ですね。
ここで、多くの保護者さんが誤解しがちなことを、
先に打ち消しておきます。
ディスレクシアは、「目が悪い」わけでも
「文字を知らない」わけでもありません。
視力はしっかりある。ひらがなの表も覚えている。
なのに、
いざ文章になると、
読むのにものすごく時間がかかったり、
たどたどしくなったり、
行を飛ばしてしまったりする。
「知ってるのに、読めない」
この不思議さこそが、ディスレクシアの入り口です。
なぜ読めないのか ── 「音韻処理」という鍵
じゃあ、いったい何が起きているのか。
ここで鍵になるのが「音韻処理」という力です。
…はい、いきなり難しい言葉が出てきましたね(笑)。翻訳します。
音韻処理というのは、ざっくり言うと
「言葉を"音のかたまり"として、頭の中で扱う力」
のことです。
たとえば「さくら」という言葉。
僕たちは無意識に、
これを「さ」「く」「ら」という3つの音に分けたり、
逆にくっつけたりできますよね。
この、頭の中で音をバラしたり組み立てたりする作業。
これが音韻処理です。

文字を読むという行為は、
この「音のブロック遊び」が土台になっています。
「さ」という文字を見て、
それが「さ」という音だと結びつけて、
次の「く」とつなげて…という作業を、
猛スピードで繰り返しているわけです。
ディスレクシアのある子は、
この音のブロック遊びが、
生まれつき少し苦手なことが多いとされています。
だから、いくら文字を覚えても、
それをスムーズに音に変える作業でつまずいてしまう。
「知ってるのに読めない」の正体は、ここにあるんですね。
脳の中の「2本の読みの道」
もう少しだけ、仕組みに踏み込みますね。
ここが理解できると、次の話がぐっとわかりやすくなります。
研究では、僕たちが文字を読むとき、
脳の中に2本の"読みの道"があると考えられています。
専門的には「二重経路モデル」なんて呼ばれますが、
要は道が2本ある、というだけの話です。
1本目は、「音でたどる道」
文字をひとつずつ音に変えて、順番に読んでいく道です。
「さ・く・ら」と、律儀に音をたどっていくルート。
初めて見る言葉は、みんなこの道を通ります。
2本目は、「見た目でパッとわかる道」
よく知っている言葉を、いちいち音にせず、
形ごとまるっと「あ、さくらだ」と認識する道です。
大人が新聞をスラスラ読めるのは、
この道をよく使っているから。

この2本の道を、
僕たちは無意識に使い分けているんです。
そして、ディスレクシアでは、
このどちらかの道(あるいは両方)が通りにくくなっている。
だから、道ごとに「つまずき方」も変わってきます。
次から、1本ずつ見ていきましょう。
「音でたどる道」が詰まると ── 音韻性ディスレクシア
まず、1本目の「音でたどる道」が通りにくいタイプ。
これを音韻性ディスレクシアと呼びます。
英語圏の研究では、
ディスレクシアの大多数がこのタイプだとされています。
このタイプの子は、
文字を音に変える作業そのものが苦手。
だから、初めて見る言葉や、
意味のない文字の並びを読むのに、特に苦労します。

たとえば、テストで「知らない熟語」が出てくると、
とたんに止まってしまう。
あるいは、しりとりや「さかさま言葉」
("くるま"を"まるく"と言う遊び)が
極端に苦手だったりします。
これは、頭の中で音を操作する作業に
つまずいているサインなんですね。
「見た目でわかる道」が詰まると ── 表層性ディスレクシア
次に、2本目の「見た目でパッとわかる道」
が通りにくいタイプ。
これを表層性ディスレクシアと呼びます。
このタイプの子は、
律儀に音でたどる道は使えるのですが、
言葉を「形ごとまるっと覚える」のが苦手。
だから、ルール通りに読めない言葉や、
長い言葉でつまずきやすくなります。

日本語だと、
たとえば「今日」を「きょう」と読む、
「一日」を「ついたち」と読む、
みたいに、字の通りに読めない言葉がありますよね。
表層性のタイプは、
こういう「まるごと覚えるしかない言葉」でつまずきやすい。
また、文字数の多い言葉ほど時間がかかる、
という特徴も見られます。
両方の道が詰まると ── 二重障害
そして、この2本の道が
両方とも通りにくいタイプもあります。
これは重なって困難が出るぶん、
いちばんサポートが必要になりやすいとされています。
ここまでの3タイプを、いったん表にまとめておきますね。

ここで大事なのは、
「タイプがあるから分類しよう」ではなく、
「タイプによって、効くサポートが変わってくる」ということ。
音でたどる道が苦手なら、音の練習を。
見た目の道が苦手なら、見て覚える工夫を。
つまずいている場所を見極めることが、
支援の第一歩になるんです。
なお、この「タイプ分け」は、
あくまで傾向をつかむための地図です。
実際には、きれいに1タイプに収まらず、
複数の特徴を併せ持つ子も多い。
だから「うちの子はどのタイプ?」
と厳密に決めつけすぎず、
「どの場面でつまずいているかな?」という
やわらかい目で見てあげてくださいね。
日本語ならでは ── 仮名は「音」、漢字は「見た目」
ここからが、日本で暮らす僕たちにとって、
いちばん大事な話かもしれません。
英語の研究がそのまま日本語に当てはまるかというと、
実はそうでもないんです。
なぜなら、日本語は
「ひらがな・カタカナ」と「漢字」という、
性質のまったく違う文字を使い分けているから。
研究では、
ひらがなの読みの苦手さは「音の処理」と関係が深く、
漢字の読みの苦手さは「見た目(視覚)の処理」と関係が深い、
とされています。
つまり、仮名と漢字では、
つまずく脳の場所がそもそも違うことがあるんですね。

これは支援の現場でも、すごく実感します。
ひらがなはわりとスラスラ読めるのに、
漢字になったとたんフリーズしてしまう子。
逆に、漢字は形で覚えられるのに、
ひらがなの音読がたどたどしい子。
どちらもいます。
だから「読みが苦手」とひとくくりにせず、
「仮名で困ってる? 漢字で困ってる?」と分けて見てあげることが、
とても大切なんです。
なぜ、小3〜4年で急に目立つのか
「うちの子、低学年のときは普通だったのに、
3年生くらいから急に勉強でつまずきだした」
―このご相談、本当に多いんです。
これには、ちゃんと理由があります。
日本語のひらがなは、
文字と音がほぼ1対1で対応している、
比較的やさしい文字です。
だから、読みが少し苦手な子でも、
低学年のうちは「なんとか読めてしまう」
まわりも気づきにくい。
ところが、小学3〜4年生になると、
状況が一変します。
漢字がどっと増えるんです。
しかも、字の通りに読めない漢字も出てくる。
ここで、それまで隠れていた読みの苦手さが、
一気に表に出てくる。

だから、「3年生から急にできなくなった」のは、
その子がサボりだしたわけでも、
急に能力が落ちたわけでもありません。
ただ、それまでなんとか乗り越えられていた壁が、
漢字の増加でぐっと高くなっただけ。
この背景を知っているだけで、
「なんで急に!」という焦りが、
「ああ、壁が来たんだな」
という理解に変わりますよね。
見逃されやすいサイン(チェックリスト)
では、家庭や教室で「もしかして?」と気づくには、
どこを見ればいいのか。
よく見られるサインを挙げておきます。

念のため、大事なことを添えておきます。
このリストにいくつか当てはまったからといって、
「=ディスレクシアだ」と決まるわけではありません。
あくまで「専門家に相談してみようかな」の
きっかけとして使ってほしいものです。
診断はあくまで専門機関の役割
ここでは「気づきのメモ」くらいの気持ちで
受け取ってくださいね。
特に僕が注目してほしいのは、
「音読は苦手なのに、耳で聞いた話はちゃんと理解できる」
というサイン。
これはまさに
「頭は働いているのに、"読む"という入り口だけが狭い」
という、学習障害の本質を映し出しているんです。
💡 WISCで言えば…
読みのつまずきの背景には、WISC-Vでいう「言葉を扱う力(言語理解)」や、頭の中で情報を一時的に保っておく「脳のメモ帳(ワーキングメモリ)」が関わっていることがあります。音を聞き取って、覚えて、文字と結びつける ── この一連の作業に、これらの力が使われているからですね。
ただし、ここが大事なのですが、これらの数字が低いから読めない、と単純に決まるわけではありません。あくまで「なぜ苦手なのか」を探るための、手がかりのひとつです。くわしくは、第8章でお話しします。
この章の、3者それぞれへの一言

この章の締めに、3者へひとことずつ。
保護者さんへ
音読の宿題を嫌がるのは、
わがままではなく「しんどい」というサインかもしれません。
無理に読ませ続けるより、
読み聞かせや音声で「お話を楽しむ力」のほうを
守ってあげてください。
読むのが苦手でも、物語を愛する心は、ちゃんと育ちます。
支援者さんへ
仮名なのか漢字なのか、音の道なのか見た目の道なのか。
「どこでつまずいているか」を丁寧に見立てること。
それが、効くサポートへの最短ルートです。
学校の先生へ
みんなの前で順番に音読させる場面は、
その子にとって、ときに大きな苦痛になります。
当てる場面や順番に、少しだけ配慮をいただけると、
その子は教室で安心して過ごせるようになります。
第4章 書きの困難 ── ディスグラフィア
前の章では「読む」ことのつまずきについてお話ししました。
この章では、その「読む」とセットで語られることの多い、
「書く」ことのつまずき ── ディスグラフィアについて、
一緒に見ていきましょう。
「うちの子、読むのはなんとかなるのに、
書くとなると急にダメで……」
「漢字を何回書いても覚えられなくて、
消しゴムで何度も消して、最後は泣いちゃうんです」
こういう声、僕は本当によく聞きます。
書くことって、実はとても複雑な作業なんです。
この章を読み終わるころには、
「あぁ、だからうちの子は書くのがこんなに大変だったのか」と、
少し腑に落ちる感覚を持ってもらえたらいいなと思っています。
ディスグラフィアってなんだろう
まずは言葉の翻訳からいきましょう。
「ディスグラフィア」というのは、
医学的には「書字表出障害」と呼ばれるものです。
すごく硬い言葉ですよね。
僕なりに翻訳すると、こういうことです。
頭で考えていることは分かっているのに、
それを「書く」という形で表すのが、とても苦手な状態。
ここでも第1章でお話しした
「一部だけ」という考え方が大事になってきます。
全体的に能力が低いわけではなく、
「書く」という特定の部分だけが、
他と比べてとても苦手なんです。

大事なのは、
「書けない=分かっていない」ではない、
ということ。
頭の中にはちゃんと言葉やアイデアがあるのに、
それを紙の上に出すところで詰まってしまう。
ここを誤解されると、
子どもは「分かっているのに、分かっていないと思われる」という、
とてもつらい状況に置かれてしまいます。
「書く」は3つの作業が重なっている
ここが、この章でいちばんお伝えしたいポイントです。
僕たちは何気なく「書く」と言いますが、
実はこの作業、大きく3つの違う力が同時に働いています。
ディスグラフィアと言っても、
この3つのどこでつまずいているかで、
見え方がまったく変わってくるんです。

ひとつずつ、翻訳していきますね。
①文字を思い出す力(綴字:ていじ)
「この音は、どの文字だったかな?」
「この漢字、どんな形だったかな?」と、
正しい文字を頭から引っ張り出す力です。
ここが苦手だと、ひらがなを書き間違えたり、
漢字がどうしても覚えられなかったりします。
②手を動かす力(書字運動)
鉛筆をにぎって、思った通りに手を動かす力です。
ここが苦手だと、文字の形がゆがんだり、
マスからはみ出したり、
書くのにものすごく時間がかかったりします。
③文章を組み立てる力(作文)
頭の中の考えを、順序立てて文章にする力です。
ここが苦手だと、一文字ずつは書けても、
まとまった文章になると途端に書けなくなります。
このうち、
どこに困りごとがあるのかを見きわめると、
「じゃあ、この子にはこういう手助けがいいね」
というのが見えてきます。

読みと書きは、いっしょに出てくることが多い
前の章のディスレクシア(読みの困難)を覚えていますか。
実は、書きの困難は、読みの困難と
セットで現れることがとても多いんです。
考えてみると、これは自然なことです。
文字を「読む」ときに使う、
音と文字を結びつける力。
これは、文字を「書く」ときにも使うからです。
読むときに音と文字の結びつきがあいまいだと、
書くときにも「この音、どの文字だったかな」と迷ってしまう。

医学的にも、
読みと書きの両方に困りごとがある場合は
「発達性読み書き障害」というように、
まとめて捉えることがあります。
だから、もしお子さんに書きの困りごとがあるなら、
「読みのほうは大丈夫かな?」と、
そっと目を向けてみてほしいんです。
逆もまた同じで、読みが苦手な子は、
書きも一緒にサポートしてあげると、
負担がぐっと軽くなることがあります。
「読めるのに書けない」── 漢字のつまずき
日本語ならではの、大事なお話をします。
さっき「読みと書きはセットになりやすい」
とお伝えしました。
でも、日本語には「読めるのに、どうしても書けない」
というパターンもあるんです。
特に、漢字でよく見られます。
なぜかというと、
漢字を「読む」ときは、
見た形を音に変換できればなんとかなります。
でも「書く」ときは、
その複雑な形を頭の中から正確に思い出して、
手で再現しなければいけません。
この「形を思い出して再現する」というところが、
ぐっと難しいんです。

だから、
「音読はできているのに、漢字テストは真っ白」
というお子さんがいても、
それは決してサボっているわけではありません。
読む道のりと、書く道のりは、
まったく違う長さなんだと知っておいてほしいんです。
こういうお子さんには、
「何度も書いて覚えなさい」という方法が、
実はいちばん効果が出にくいこともあります。
この点は、第7章の支援のところで、
もう少しくわしくお話ししますね。
発達性協調運動症(DCD)との関係
もうひとつ、書きの困りごとを考えるときに、
知っておいてほしいことがあります。
それは「不器用さ」との関係です。
さきほどの「3つの力」のうち、
②の「手を動かす力」
ここがうまくいかない背景に、
そもそも体の動きをコントロールするのが苦手、
という特性が隠れていることがあります。
これを「発達性協調運動症(DCD)」といいます。
これも翻訳すると、
手足や体を、思った通りに動かすのが苦手な状態
ということです。
ボタンをとめる、はさみを使う、なわとびをする
── そういった動きが苦手な子が、
書くことでも苦労している、というケースですね。

ここで大事なのは、
「文字を覚えられないから書けない」のか、
「手を動かすのが苦手だから書けない」のかで、
必要な手助けがまったく違うということです。
前者なら覚え方の工夫を、
後者なら書く道具や量の工夫を
── というように、
原因に合わせて手助けを選べると、
子どもの負担がずっと軽くなります。
もちろん、
これは僕たちがその場で決めつけるものではありません。
「もしかしたら、こういう背景があるのかな」と気づいて、
専門家につなぐきっかけにしてもらえたら十分です。
💡 WISCで言えば…
書きのつまずきは、中身によって関わる力が変わってきます。文字の形をうまく思い出せない・書けないタイプなら、目で見た形を捉える「見て捉える力(視空間)」が。書くのがとても遅い・時間がかかるタイプなら、決まった作業を進める「作業の速さ(処理速度)」が、背景に関わっていることがあります。
もちろん、これも「この力が弱いから書けない」と決めつけるものではありません。第4章でお話しした「3つの力(綴字・書字運動・作文)」のどこでつまずいているかと合わせて見ると、より立体的に見えてきます。くわしくは第8章で。
3者への一言
この章の最後に、いつものカードを置いておきますね。

第5章 算数の困難 ── ディスカリキュリア
読み、書きと見てきて、いよいよ3つ目 ── 「算数」のつまずきです。
「算数だけが、どうしても苦手で……」
「他の教科はできるのに、
計算になると急にフリーズしちゃうんです」
「そもそも、数っていうものが、
あの子の中でピンときていない気がして」
こういう声も、僕はよく聞きます。
読み書きのつまずきに比べると、
算数のつまずきは、
少し気づかれにくいところがあります。
「算数が苦手な子なんて、たくさんいるよね」
で片づけられてしまいやすいんです。
でも、その中には、
ちゃんとした背景を持ったつまずきが
隠れていることがあります。
この章では、
「数の世界」でいったい何が起きているのかを、
一緒にほどいていきましょう。
ディスカリキュリアってなんだろう
まずは翻訳から。
「ディスカリキュリア」は、
医学的には「算数障害」と呼ばれます。
僕なりに翻訳すると、こういうことです。
頭は悪くないのに、
数を扱うこと・計算すること・数で考えることが、
とても苦手な状態。
ここでも「一部だけ」という考え方は同じです。
国語や他の教科はできるのに、
数に関する部分だけが、他と比べてぐっと苦手。
そういうアンバランスさが特徴です。

ここでひとつ、大事な誤解をほどいておきます。
「算数が苦手=努力不足」ではありません。
むしろ、人一倍がんばっているのに、
どうしても数がしっくりこない
── そういう子が、この中にはいるんです。
算数のつまずきを支える「4つの土台」
ここが、この章のいちばんの軸になります。
「算数が苦手」と言っても、
その中身はさまざまです。
筑波大学の熊谷恵子先生は、
算数のつまずきを見きわめるときに、
大きく4つの土台に分けて考えると整理しやすい、
と示されています。
僕も現場で、この考え方にとても助けられてきました。

ひとつずつ、翻訳していきますね。
①数処理
「3」という数字と、
「さん」という読み方と、
りんご3個という実物。
この3つを結びつける力です。
いちばん土台になる部分ですね。
②数概念
「5は4より大きい」「3の次は4」といった、
数の意味や順番を理解する力です。
数がただの記号ではなく、
量を表しているんだと分かる力とも言えます。
③計算
足し算・引き算など、実際に計算する力です。
くり上がり・くり下がりや、筆算の手順もここに入ります。
④数的推論
文章題を読んで「これは足し算かな、引き算かな」と
考えたり式を立てたりする力です。
いちばん上の、応用的な力ですね。
この4つのどこがぐらついているのか。
それが分かると、支援の入り口が見えてきます。
「数がピンとこない」子のサイン
4つの土台のうち、
いちばん下の「数処理」や「数概念」が弱いと、
こんなサインが見られることがあります。
たとえば、「10 + 20 = 300」のような、
大人からすると「えっ?」と思う答えを、
平気で書いてしまう。
これは、
答えの大きさが「なんか変だぞ」という感覚 ──
いわゆる「数の量感(りょうかん)」が
育ちにくいことから起きます。

他にも、
「数を順番に唱えられるのに、
りんごを数えると個数がずれる」
「時計が読めない」
「お金の計算になると混乱する」
といったサインもあります。
こういうサインは、
「不注意なミス」と見られがちですが、
背景に数概念のつまずきが隠れていることがあるんです。
「計算」でのつまずき ── 手順と量感、2つのパターン
上の土台、「計算」のところでのつまずきには、
大きく2つのパターンがあります。

❶手順でつまずくタイプ
数の意味は分かっているのに、
くり上がりやくり下がり、
筆算の順番といった
「手続き」がこんがらがってしまう。
ここが苦手な子には、
手順を目で見えるようにしてあげる工夫が助けになります。
❷量感でつまずくタイプ
さっきお話しした、
答えの大きさに違和感を持てないタイプです。
手順は追えるのに、明らかに変な答えでも気づけない。
この2つは、必要な手助けが違います。
だからこそ、
「どこでつまずいているのか」を
見きわめることが、
遠回りのようでいちばんの近道なんです。
その子の「得意」から入る
熊谷先生の考え方でもうひとつ、
僕がとても大切にしていることがあります。
それは、
「その子の得意なところ(長所)を使って教える」
という視点です。
子どもによって、
情報の受け取り方には得意・不得意があります。
目で見て理解するのが得意な子、
耳で聞くのが得意な子、
実際にさわって動かすのが得意な子
── いろいろです。

苦手なところを無理やり正面から鍛えるのではなく、
得意な入り口から数の世界に入ってもらう。
この発想の転換だけで、
子どもの「できた!」がぐっと増えることがあります。
たとえば、
さわって動かすのが得意な子には、
ブロックやおはじきといった具体物を使って、
数を「手で感じる」経験から始める。
目で見るのが得意な子には、
数直線や図を使って、
量を「目で見る」経験から始める。
そういう工夫ですね。
「数的推論」── 文章題の壁
いちばん上の土台、
「数的推論」でのつまずきについても、
少し触れておきます。
計算はできるのに、
文章題になると急に手が止まる。
これは、文章から「何を問われているのか」を読み取って、
「じゃあ、どの計算を使えばいいのか」を組み立てる力に、
つまずきがある状態です。

ここには、
読みの力(第3章)や言葉の理解も関わってきます。
だから、文章題でつまずいている子を見たときは、
「計算ができないのか」
「文章の意味が取れていないのか」
「式に翻訳するところで詰まっているのか」
を、そっと切り分けてみてほしいんです。
💡 WISCで言えば…
算数のつまずきも、背景はさまざまです。「計算はできるのに、文章題や応用になると急に苦手」というタイプなら、初めてのことを筋道立てて考える「考えをつなぐ力(流動性推理)」が。「くり上がりの手順が飛んでしまう」「暗算が苦手」といったタイプなら、頭の中に数を保っておく「脳のメモ帳(ワーキングメモリ)」が、関わっていることがあります。
ここでも忘れないでほしいのは、数字はあくまで手がかりだということ。第5章の「4つの土台」のどこがぐらついているかと重ねて見ることで、その子だけの背景が見えてきます。くわしくは第8章で。
3者への一言
この章の締めくくりに、
いつものカードを置いておきますね

第6章 読み書き計算以外の学習障害 ── 聞く・話す・推論する
ここまで、読み・書き・算数という
「3つのつまずき」を見てきました。
実はこの3つ、医学の地図(DSM-5-TR)では、
これがほぼすべてなんです。
でも、第2章を思い出してください。
教育の地図(文部科学省)では、
学習障害を「聞く・話す・読む・書く・計算・推論」の
6つで捉えていましたよね。

この章では、
その見落とされやすい「聞く・話す・推論する」の困りごとと、
もうひとつ「非言語性学習障害(NLD)」という考え方について、
一緒に見ていきましょう。
ここは、僕がとくに「知ってほしい」と思っている章です。
なぜなら、この3つのつまずきは、
本人も周りも気づきにくく、
ただ「ぼーっとしている子」「話が下手な子」で
終わってしまいやすいからです。
「聞く」のつまずき ── 音は聞こえているのに
まずは「聞く」から。
ここで大事な翻訳をします。
「聞くのが苦手」といっても、耳がよく聞こえない、
という話ではありません。
音はちゃんと聞こえているのに、
それを頭の中で処理して意味に変えるところが、
うまくいかない状態です。

たとえば、こんなサインです。
口で言われた指示を覚えていられない、
聞き返しが多い、長い話になるとついていけない、
にぎやかな教室だと特に聞き取れなくなる。
こういう子は、
「話を聞いていない」
「ぼーっとしている」と誤解されがちです。
でも本当は、必死に聞こうとしているのに、
情報が頭の中で追いつかなくなっているだけ、
ということが多いんです。
こういう子には、
指示を短く区切る、
口で言うだけでなく紙に書いて見せる、
といった手助けが効きます。
「話す」のつまずき ── 言葉は分かるのに、出てこない
次は「話す」です。
これも翻訳が必要です。
「話すのが苦手」といっても、
発音がうまくできない(構音障害)という話とは別です。
頭の中に言いたいことはあるのに、
それを言葉として組み立てて、
順序立てて話すところが、うまくいかない状態です。

たとえば、
「えーと、あの、それで……」と言葉に詰まる、
話が前後してうまく伝わらない、
質問に答えるまでに時間がかかる。
こういうサインです。
ここで気をつけたいのは、
「話すのが苦手」だから「分かっていない」
と決めつけないこと。
頭の中にはちゃんと考えがあるんです。
だから、急かさずに待つ、
選択肢を示して選んでもらう、
といった手助けが、
その子の「伝えたい」を助けてくれます。
「推論する」のつまずき ── 行間を読む難しさ
3つ目、「推論する」です。
ここは少し抽象的なので、ていねいに翻訳しますね。
「推論する」というのは、
目に見える事実から、
その先を予測したり、
原因と結果を結びつけたり、
話の「行間」を読み取ったりする力のことです。

このつまずきは、
いろんな場面で出てきます。
算数の文章題で「これはどういうこと?」が読み取れない、
物語を読んでも登場人物の気持ちが推測できない、
「そろそろ片づけようか」の「そろそろ」という含みが伝わらない。
こういう子は、
「空気が読めない」「理解が浅い」
と見られてしまうことがあります。
でも、それは意地悪でも不真面目でもなく、
事実と事実をつなぐところに、
生まれつきの苦手さがあるだけなんです。
だから、「なんで分からないの」ではなく、
「こことここが、こうつながるんだよ」と、
間を言葉にして見せてあげることが助けになります。
非言語性学習障害(NLD)という考え方
ここで、もうひとつの視点を紹介させてください。
「非言語性学習障害(NLD)」という考え方です。
これまでのつまずきは、
どちらかというと「言葉」に関わるものが多かったですよね。
NLDは、その逆です。
言葉は得意なのに、
言葉以外の情報 ──
目で見た形や、空間、位置関係を捉えるのが苦手、
という特性を指します。

たとえば、おしゃべりは上手で語彙も豊かなのに、
地図が読めない、図形が苦手、
板書を写すのが極端に遅い、
人との距離感がつかめない。
そういうアンバランスさで気づかれることがあります。
ただ、ここでひとつ、
正直にお伝えしておきたいことがあります。
このNLDは、医学の正式な診断名としては、
まだ確立されていません。
DSM-5-TRやICD-11には、
独立した診断としては載っていないんです。
じゃあなぜ紹介するのかというと、
「言葉は得意なのに、なぜか一部だけとても苦手」
という子を理解するための、
便利な「見取り図」として役に立つからです。
診断名として振りかざすのではなく、
「こういう捉え方もあるんだな」という
引き出しとして持っておいてもらえたらと思います。
併存 ── いくつも重なることは、めずらしくない
この章の最後に、大事なことをひとつ。
ここまで、
読む・書く・計算・聞く・話す・推論、
そしてNLDと、いろいろな困りごとを見てきました。
でも、実際の子どもは、
教科書のように「これだけ」と
きれいに分かれているわけではありません。

学習障害は、
ADHD(注意や落ち着きに関わる特性)、
ASD(こだわりや対人関係に関わる特性)、
DCD(不器用さ)などと、
一緒に現れることがとても多いんです。
だから、
「うちの子、あれもこれも当てはまる気がする」
と感じても、
それは決して珍しいことではありません。
大切なのは、
ラベルを一つに絞ることではなく、
「この子は今、どこで困っているのか」を、
その都度ていねいに見ていくことです。
💡 WISCで言えば…
見落とされやすい「聞く・話す」のつまずきには、言葉を理解し組み立てる「言葉を扱う力(言語理解)」や、聞いた情報を保っておく「脳のメモ帳(ワーキングメモリ)」が関わることがあります。一方、この章で紹介した非言語性学習障害(NLD)は、言葉は得意なのに「見て捉える力(視空間)」が苦手、というアンバランスさで気づかれることがあります。
ただ、特にNLDは正式な診断名ではなく、あくまで理解のための見取り図でしたね。WISCの結果も同じで、決めつけの道具ではなく、その子を理解する手がかりとして使うものです。くわしくは第8章で。
3者への一言
締めくくりのカードです

第7章 気づき・評価・支援の実際 ── ここからどうすればいい?
長い旅も、いよいよ最終章です
ここまで、学習障害の本質から、
読み・書き・算数、
そして見落とされやすいつまずきまで、
一緒に見てきました。
でも、たぶん今、多くの方の頭にあるのは、
こういう気持ちだと思うんです。
「なんとなく分かった。
でも、うちの子の場合、
いったいどこから手をつければいいの?」
この章は、その「これからどうすればいい?」に、
僕なりに正直にお答えする章です。
気づきのサインから、相談先、評価の流れ、
そして「効果のある手助け」と
「実は根拠の乏しい手助け」まで
できるだけ具体的にお話ししますね。
まずは「気づく」ところから
支援のスタートは、いつも「気づき」です。
でも、これがなかなか難しい。
学習障害は目に見えないので、
「ちょっと苦手なだけかな」で
見過ごされてしまいやすいんです。

ここで大事なことを言っておきます。
このチェックリストは、
診断するためのものではありません。
「これに当てはまるから学習障害だ」
と決めつけるものではなく、
「あれ、ちょっと気になるな」と気づいて、
次の一歩(相談)につなげるためのものです。
そして、気になるサインがあったとき、
いちばんやってはいけないのは、
「もっとがんばりなさい」と量を増やすこと。
第4章でお話しした「読めるのに書けない子」に、
書く宿題を増やすようなものです。
まずは、気づいて、立ち止まる。それだけで十分です。
どこに相談すればいいの?
「相談していいサイン」と言われても、
じゃあどこに? というのが、
いちばんの悩みどころですよね。
ここは、保護者さんからいちばんよく聞かれる質問です。

順番に決まりはありません。
学校が話しやすければ担任の先生から。
医療的にしっかり調べたいなら、
小児科から専門の外来を紹介してもらう。
「どこが正解か」で悩むより、
「話しやすいところ」から一歩踏み出すのがいちばんです。
一つだけ覚えておいてほしいのは、
これらの相談先は、
あなたを責める場所ではないということ。
「育て方の問題ですね」なんて言う専門家がいたら、
それは合っていないだけです。
遠慮なく、別の窓口を探していいんです。
評価では、何を調べるの
いざ専門機関につながると、
「評価(アセスメント)」というものが行われます。
ここも、少し翻訳しておきますね。
評価というと、
なんだか「テストされる」「ジャッジされる」ようで
身構えてしまいますが、そうではありません。
その子の「得意」と「苦手」の地図を、
ていねいに描くための作業です。
犯人捜しではなく、地図づくり。
そう思ってもらえたらと思います。

評価では、まず知能検査で「全体の力」を確認します。
第1章でお話しした
「全体の力は遅れていない」という大前提を、
ここでていねいに確かめるわけですね。
そのうえで、読み書きや算数の力を、
専用の検査でくわしく見ていきます。
ADHDやASDなど、
他の特性が重なっていないかも、
あわせて確認します。
結果は、「できる・できない」の点数ではなく、
「この子はここが得意で、ここに手助けがいる」
という地図として受け取ってください。
それが、次の支援につながる、
いちばん大切な財産になります。
支援の「2本柱」
さて、いよいよ支援の話です。
学習障害の支援は、
大きく2本の柱で考えると、
すっきり整理できます。

1本目は「苦手を育てる」指導
その子のつまずきに合った、
効果のある方法で、
少しずつ力を育てていく柱です。
2本目は「やり方を変える」配慮
これは「合理的配慮」と呼ばれるもので、
翻訳すると、苦手なやり方を無理強いせず、
その子ができるやり方に変えてあげることです。
たとえば、
書くのが苦手なら板書を写真で撮っていい、
読むのが苦手なら文章を読み上げてもらう、
時間がかかるなら試験時間を延ばす。
こういう工夫ですね。
ここでよく出るのが、
「それって甘やかしじゃないですか?」という声。
でも、めがねをかけている子に
「甘えずに裸眼で見なさい」とは言いませんよね。
合理的配慮は、それと同じ。
その子が公平に学びのスタートラインに立つための、
当たり前の入り口なんです。
7-5 効果のある手助け、根拠の乏しい手助け
ここは、僕がとくに正直にお伝えしたいところです。
世の中には、
学習障害に「効く」とうたう方法が、
たくさんあります。
でも、その中には、
しっかりした研究で効果が確かめられているものと、
残念ながらそうでないものが、
混ざっているんです。

たとえば、読みの支援では、
「音」を意識した練習(音と文字を結びつける練習)が、
複数の研究で効果ありとされています。
そして、
支援は早ければ早いほど(低学年のうちほど)効果が出やすい、
というのも分かっています。
一方で、
眼球の動きを鍛えるトレーニングや、
文字に色つきのシートを重ねる方法、
特定のサプリメントなどは、
「読み書きそのものが改善する」という確かな根拠は、
今のところ乏しいとされています。
こう言うと、少しがっかりさせてしまうかもしれません。
でも僕は、わが子を思うからこそ、
時間もお金も、確かな方法に使ってほしいと思っているんです。
「効くかもしれない」に振り回されて、
親子で疲れてしまうのは、いちばん避けたいことですから。
3者への一言
最終章のカードです。

おわりに ── いちばん伝えたかったこと
ここまで、本当に長い道のりを
一緒に歩いてくださって、
ありがとうございました。
7つの章を通して、
学習障害という「見えにくいつまずき」を、
いろんな角度から見てきました。
読み・書き・算数のこと、
聞く・話す・推論することのこと、
相談や評価や支援のこと。
専門用語もたくさん出てきましたね。
「翻訳者」を名乗っておきながら、
ちょっと難しかったところもあったかもしれません。
でも、もしこの教科書から
一つだけ持ち帰ってもらえるとしたら、
僕はこれを選びます。
「できないこと」の数だけ、
その子には「困っていること」がある。
それは、その子が悪いからでも、あなたのせいでもない。

この教科書を書きながら、僕はずっと、
療育の現場で出会ってきた
子どもたちの顔を思い浮かべていました。
漢字が一つも書けなくて、
テスト用紙を裏返してうつむいていた子。
音読の順番が回ってくると、
お腹が痛くなると言っていた子。
「どうせ僕はバカだから」と、
8歳で口にした子。
あの子たちに共通していたのは、
「できない」ことそのものよりも、
「できないことで、自分はダメな子なんだと思い込んでいた」
ことでした。
これを、僕は「二次的な傷つき」と呼んでいます。
学習障害そのものは、
その子の一部の特性にすぎません。
でも、
それが理解されないまま
「怠けている」「努力不足」と言われ続けると、
子どもは自分の存在まるごとを
否定されたように感じてしまう。
そして、いちばん失ってはいけない
「学びたい」という気持ちと、
「自分は大丈夫」という自己肯定感を、
少しずつすり減らしていってしまうんです。
僕が本当に守りたいのは、
実はここなんです。
読み書き計算ができるようになること以上に、
「できなくても、自分は自分でいていい」と思える心。
それさえ守れていれば、
子どもは自分のペースで、
必ず前に進んでいきます。
だから最後に、
この教科書を読んでくださったあなたに、
伝えたいことがあります。
保護者のあなたへ
ここまで読んでくださった、
そのこと自体が、もう十分な愛情です。
「何かしてあげたい」と思って調べているあなたは、
決して間違った親ではありません。
どうか、ご自分も責めないであげてください。
支援者のあなたへ
あなたが専門用語の向こうにいる
「その子」を見ようとしてくれること。
それが、家族にとってどれだけ心強いか。
あなたは、翻訳者であり、伴走者です。
学校の先生へ
日々のクラス運営の中で、
一人ひとりの「見えにくいつまずき」に目を向けるのは、
本当に大変なことです。
それでも、先生の小さな「気づき」と「配慮」が、
その子の一年を、いや、その先の人生を変えることがあります。
みんな、立場は違っても、
向いている方向は同じです。
真ん中にいる、一人の子どもの幸せ。
そのために、バトンをつないでいけたらいいなと、
僕は心から思っています。
長い長いお話に、
最後までおつきあいくださって、
本当にありがとうございました。
このnoteが、あなたの肩の力を少しだけ抜いて、
明日から「その子」を見る目を、
ほんの少しあたたかくできたなら ──
書いた甲斐があったというものです。
第8章 学習障害の背景を理解する ── 「できない理由」を見つけるために
ここまで読んでくださって、
本当にありがとうございます。
前の「おわりに」で、
いったんこの教科書は締めくくりました。
でも、最後にもう少しだけ、
おつきあいいただけたら嬉しいです。
というのも、
ここまで読んでくださったあなたの心の中に、
たぶん、新しい「?」が
生まれているんじゃないかと思うからです。
「学習障害には、
いろんなタイプがあるのは分かった。
……でも、じゃあ、うちの子は、
いったいなぜこうなっているんだろう?」
この章は、その「なぜ?」の入り口について、
そっとお話しする章です。
同じ学習障害でも、困り方は一人ひとり違う
この教科書を通して、僕は何度も
「その子の得意な入り口から」
「どこでつまずいているかを見きわめて」
とお伝えしてきました。
実はこれ、とても大切な前提の上に立った言葉なんです。
その前提とは、
同じ「学習障害」というくくりの中でも、
困り方は一人ひとり、まったく違うということ。
たとえば、「読むのが苦手」という
同じ困りごとを持った二人の子がいたとします。
でも、一人は「音と文字を結びつけるところ」でつまずいていて、
もう一人は「見た形を覚えておくところ」でつまずいている。
第3章でお話しした、
あの「読みの2本の道」を思い出してください。
同じ「読めない」でも、中身がまるで違うんです。

そして、ここがとても大事なところなんですが ──
支援がうまくいかないときの多くは、
この「原因の違い」が見えていないからなんです。
「音の道」でつまずいている子に、
「見た目の道」向けの練習をいくらさせても、
なかなかかみ合いません。
よかれと思った手助けが、
空回りしてしまう。
これは、本当によく起きることです。
学習障害は「結果」、背景には認知特性がある
ここで、少し視点を上げてみます。
僕たちがふだん目にしている
「読めない」「書けない」「計算できない」
という困りごと。
これは実は、「結果」として
表に出てきているものなんです。
氷山モデル(第1章)を思い出してください。
海の上に出ている部分ですね。
では、その水面の下 ──
つまり「背景」には、何があるのか。
そこにあるのが、
その子の「認知特性」です。

「認知特性」というと難しく聞こえますが、
僕なりに翻訳すると、
その子の脳が、情報をどう受け取って、
どう処理するかの「クセ」や「得意・不得意」のことです。
たとえば、
耳から入る情報を覚えておくのが得意な子もいれば、
目で見た情報のほうが頭に入りやすい子もいる。
パッと素早く処理するのが得意な子もいれば、
じっくり時間をかけるタイプの子もいる。
この「クセ」は、みんな一人ひとり違います。
そして、この背景にある認知特性を知ることこそが、
「なぜ、この子は困っているのか」という問いへの、
いちばんの手がかりになるんです。
「読めない」を、ただ「読めない」で終わらせず、
「なぜ読めないのか」まで一歩踏み込む。
この視点が、支援を大きく変えます。
WISC-Vで見えてくる、5つの認知特性
では、その「背景にある認知特性」を、
どうやって知ればいいのか。
その代表的な方法のひとつが、
第7章の評価のところでも少し登場した「知能検査」
なかでも、いま広く使われている
「WISC-V(ウィスク・ファイブ)」という検査です。
WISC-Vと聞くと、
「IQを測るテスト」「賢さを点数化するもの」
というイメージを持つ方が多いかもしれません。
でも、それは半分だけ正解で、
半分はもったいない誤解です。

WISC-Vは、大きく5つの認知特性を、
それぞれ別々に見ることができます。
翻訳すると、こんな5つです。
①言語理解 ── 言葉を使って考えたり、理解したりする力
②視空間 ── 目で見た形や、位置関係を捉える力
③流動性推理 ── 初めて出会うことでも、筋道を立てて考える力
④ワーキングメモリ ── 情報を一時的に頭に置いて、操作する力。いわば「脳のメモ帳」ですね
⑤処理速度 ── 決まった作業を、正確に素早く進める力
大事なのは、
これらを「数字を見る」ためではなく、
「支援のヒントを探す」ために使う、
ということ。
「IQいくつ」という一つの数字ではなく、
「この子は、ここが得意で、ここに手助けがいる」という、
5つの角度からの地図として読むんです。
たとえば、こんな困りごとが見えてくる
もう少し具体的にお話ししましょう。
この「5つの力」の地図が分かると、
これまで「なぜ?」だった困りごとの背景が、
少しずつ見えてくることがあります。

たとえば ──
「文章題が苦手」な子がいたとします。
第5章でお話ししたように、
これは「文章の意味が取れない」のか、
「式に翻訳できない」のか、
いくつかの背景が考えられました。
WISC-Vの地図があると、
「言葉で理解する力が弱めなのか」
「初めての問題を筋道立てて考える力が弱めなのか」
といった、より一歩踏み込んだ背景が見えてきます。
「漢字だけがどうしても苦手」な子なら、
「見て捉える力」や「覚えておく力」に、
その理由が隠れているかもしれません。
「計算はできるのに、
応用問題になると急にダメ」な子なら、
「考えをつなぐ力(流動性推理)」に
手がかりがあるかもしれない。
もちろん、
これらは「この点数だからこう」と
機械的に決まるものではありません。
でも、
「なぜ、この子はここでつまずくんだろう」
という長年の「?」に、
一つの見取り図を与えてくれる。
それが、この検査の本当の価値なんです。
検査結果は「子どもの取扱説明書」
僕は、WISC-Vの結果のことを、
保護者さんによくこうお伝えしています。
「これは、その子の『取扱説明書』ですよ」、と。

新しい家電を買ったとき、
取扱説明書を読むと、
「あぁ、このボタンはこう使うのか」
「ここは無理に押しちゃいけないのか」
が分かりますよね。
WISC-Vの結果も、それと同じ。
「この子は、こういう入り口だと届きやすい」
「ここは、無理に正面から鍛えないほうがいい」
ということが、少しずつ見えてくるんです。
そしてこの取扱説明書のいちばんいいところは、
家庭と、学校と、療育を「同じ言葉」でつなげることです。
お母さんが感じている困りごと、
先生が見ている姿、
療育スタッフが把握している特性
バラバラだった情報が、
一枚の地図の上で重なり合う。
第6章のカードでお伝えした
「3人でバトンをつなぐ」ということが、
この一冊で、ぐっとやりやすくなるんです。
だから、どうか忘れないでください。
この結果は、子どもを点数で評価したり、
優劣をつけたりするものでは、決してありません。
その子を、もっと深く理解して、
もっとやさしく関わるための道具なんです。
もっと深く理解したい方へ
さて、この無料の教科書では、
「学習障害とは何か」
「どんな困りごとがあるのか」
を中心にお伝えしてきました。
ここまでで、
学習障害の全体像は、
かなりつかんでいただけたんじゃないかと思います。
でも、もしあなたが、
✔ なぜ、この子は「読むこと」が苦手なんだろう
✔ なぜ、「書くこと」だけが、こんなに難しいんだろう
✔ 学校には、この子の特性を、どう伝えればいいんだろう
✔ 家庭では、どんな工夫ができるんだろう
こういった「その子ならではの背景」まで、
もう一歩踏み込んで知りたいと感じているなら
── そのための一冊を、別に用意しています。
この本では、今回お話しした5つの認知特性を、
もっとたくさんの図解を交えながら、
一つひとつていねいに翻訳しています。
「この結果のとき、家庭では・学校では、どう関わればいいのか」
という具体的な部分まで、踏み込んで整理しました。
そして、この本は、書いて終わりの教材ではありません。
読んでくださった方の声をもとに、
僕がいまも少しずつ内容を更新し続けている、
いわば「育つ教材」です。
もちろん、今回の無料noteだけでも、
学習障害の理解は十分に深まったはずです。
「もっと、その子の背景まで知りたくなった」
そう思ったときに、そっと手に取ってもらえたら嬉しいです。
ちなみに…この無料noteを最後まで読んでくださった方への
先行情報となりますが
7月31日にWISC有料noteは大型アップデートにより
・40000字以上の追記
・55枚以上の図解追加
・学習障害とWISCの数値の読み解き解説
・家庭・療育施設・学校現場での取り組み内容
などが追加されます。
それに伴い、現在500円で購入できるnoteが
500円→980円となるので、
アップデート前に購入することをお勧めします。
※購入後は追記分も追加料金なしで読むことができます。
もっと深く学習障害を読み解きたい方へ
僕がthreadsを始めてから知ったのは
学習障害の専門家は言語聴覚士さんだということでした
そのなかで小児専門でクリニックに勤務し
学習障害にかかわっておられる
言語聴覚士の先生の『かじぃ先生』の発信から
勉強させていただいていて
具体的な先生の内容としては
・保護者さん向けに専門知識を無料noteで発信
・支援者さんや学校の先生向けに効果的な教材開発や自動化ツールを
有料コンテンツとして作成されています
ぜひ先生の発信内容なども見ていただけると
かなり理解が進むと思っています
読んでもらいたい僕おススメの
先生の一冊はコレです♪
僕一人で解決できることって多くはない…
だからこそ、「良いもの」「良い人」の情報を
しっかり必要な方に届けたい!そう思っています
最後に、この教科書全体を通して、
僕がいちばん伝えたかったことを、もう一度だけ。
学習障害を知ることが、ゴールではありません。
その子が「なぜ困っているのか」を理解できたとき、
僕たちの関わり方は、
少しずつ、でも確実に変わっていきます。
「どうしてできないの」が、
「あぁ、だからか。じゃあ、こうしてみよう」に変わる。
その小さな変化が、子どもの毎日を、
少しずつあたたかいものにしていくんです。
僕は、その「なぜ」を
保護者さん、学校の先生、支援者さんが、
みんな同じ言葉で話せるように、
これからも翻訳し続けていきたいと思っています。
ここまで、本当にありがとうございました。またどこかで。
2026年7月24日
発達支援の翻訳者 ヒデア