
【あ】合鍵を渡せなかった人
スワイプした先で出会うなんて令和のいまでは当たり前で、AIの導きによって結婚したカップルだって知り合いに何組もいる。
かくいう私も、恋人がいない時期はときどき思い出したようにフランクにファッショナブルに猛スワイプして、何人かとご飯に行って、「ああそうだ、マッチングアプリって難しいんだった」と、このなかなか乗り越えられないものを言語化しにかかるのだ。
マッチングアプリならではの難しさや嫌悪感というのは、絶妙に粘度があって、なんだか言葉にしにくい。
誰かを否定したいわけじゃない、「自然に出会うのが良い」とか言いたいわけじゃない、向いている人がいることも分かる。(友達のハイスペでアンニュイな美人は1000人スワイプして20人に会って今の恋人と付き合った。)
ただ、自分がマッチングアプリを通して「付き合う」をするには、たくさんの条件が重なる必要がありそうだ、と言いたい。
𖤣𖥧𖥣𖡡𖥧𖤣
マッチングアプリの最も難しい点は、共通のコミュニティがないこと、共通の友達がいないことだと思う。
たとえば職場やサークルが一緒だったら「友達といるときの彼」が見えるし「仕事をしているときの彼」が見えるし、色んな側面から彼を知ることができる。
複数人でBBQもできるわけだし、友達から「井上と最近どうなの〜?」とか聞かれたりするわけだし、関係性が自然と立体的で強固なものになる。共通のコミュニティがある以上、社会的なリスクが高いので井上とは簡単に別れるという選択肢が出てこない。(フィクションです)
逆に、人間関係や時間の積み重ねがないと、どうしても信頼しきれないところがある。
一度だけ、AIに導かれて交際したことがある。彼はプロフィールでいったら自分のタイプに90%くらい合致していて、みんなから「うわ〜まきが好きそうな男〜」と言われた。早慶理系院卒のユニクロ犬系年下男子である。
彼のことが大切だったし、大手企業法務系法律事務所1年目の激務でもうすぐ死にそうな私をずいぶん労ってくれていたし、ご飯もつくってくれたし、長く付き合っていきたいと思っていたのだけれども、頭では分かっているんだけど、感情で乗り越えられないものがあった。
会う日を決めても、仕事が長引いて家に帰るのが遅くなることが何度かあり、さすがに申し訳なかったので「来週も遅くなりそうだから先に入ってて」と、家の合鍵を渡しておくことがあった。
これまで付き合った人に同じ対応をしたこともあったのに、彼が家の鍵を持っている日はソワソワして落ち着かなかった。頭のどこかで、私の知らない間に彼が部屋に入っているところが映像として流れる、ちょっとだけ吐きそうになる。彼に合鍵を渡しておくことがどうしても許せなかった。
とても素敵な人だったけれど、彼とは数ヶ月でお別れすることになった。理屈は色々こねたけど、結局のところ「合鍵を渡しておけなかった」に集約されると思っている。つまり、信頼関係を築くために普段よりも工夫が必要だったらしい。
𖤣𖥧𖥣𖡡𖥧𖤣
マッチングアプリを通して私たちは「恋愛」というパッケージの中で出会い、「付き合うか、付き合わないか」の二択を突きつけあう。カードを並べて「誰がベターか」を考えて「恋愛対象としてありか?」と評価し合う。
少し前の時代だったら出会えなかった人とこんなに簡単に出会えて、文明の発展には感謝しかないのだけれど、もっと繊細なグラデーションの中で、平面ではなく立体の空間で、たった1人のあなたと出会いたい、と思う。
じゃ、そこの犬体育会系のきみ、合コンのセッティングよろです!!(犬体育会系??)
「あいうえおエッセイ」
✴︎【あ】から【ん】まで、50音それぞれからはじまるエッセイを書きます。
✴︎MY RULE
- 真の「自己紹介」になるような文章を
- 自分を率直に赤裸々に表現する
- 「感謝」をもって書く
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