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富士之人穴見物②~江戸っ子や女郎の粋をマンガで見せる物語

     富士の人穴探検に一人向かった仁田四郎にたんのしろうはどうなるか。
     黄表紙きびょうし「富士之の人穴ひとあな見物」は、山東京伝さんとうきょうでん(1761~1816)作画、天明八年1788年、榎本屋えのもとや吉兵衛きちべえ出版の三巻三冊。
     この現代語訳(かなり意訳)を三回に分けて紹介する二回目。

     


    中巻
    六

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     仁田四郎にたんのしろうは、富士の人穴を二三十町ちょう(2~3㎞)も行ったように思えども、どこがゴールというあてもなく、いっこうに真っ暗なままでわからず、松明たいまつで照てらし照らし行けば、はるか向こうに黒い着物を着て色の白い人があらわれたので、こいつは化ばけ物ものだろうと思う。
     
    仁田「魔性ましょうのものか化粧けしょうのものか、正体をあらわせ」
    白い男「ここは、おめえのような野暮やぼの来るところじゃあねえ、帰んなせえ帰んなせえ。それにしても変な姿だ。おかしなものをはいている」
    月の夜も 人穴ばかり闇路やみじかな
    と言いてえところなり。

     


    七

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     この男の言いけるは、
    「いかに仁田四郎にたんのしろう殿どの、貴殿きでんは主人の命令で、この人穴を見届けに来たろうが、その野暮やぼでは、いくら松明たいまつをともしても、お先真っ暗で何もわかるまい。われに従したがえば、案内して見せてやろう」
    と言えば、仁田にたんは、忠臣ちゅうしん無二むにの武士もののうゆえ、いかにもして見届けて、主人の命令を守ろうと、この男に従い、まず、「江戸っ子の尻の穴」から見始める。
    男「これは人穴の裏、江戸っ子の尻の穴ともうすのじゃ。なんと広いものじゃろう。これも夜になれば、つらりっと火がともります。松明たいまつは、わしが持ってやろう。火葬の火を持つようだのお」
    仁田「さても広い穴じゃ」

     


    八

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     江戸っ子の尻の穴をのぞいて見れば、上等の着物を質に入れて、一本で二分ぶ(一両に相当そうとう)の初鰹はつがつおを買っている。また千両の屋敷を売り払って、女郎を身請みうけする様子、ありありと見える。仁田にたん、これを見て、まことに江戸っ子の尻の穴の広いことを感じ、今まで己おのれが、いかにけちけちしていたことかと反省すると、今までのお先真っ暗だったのが、よほど明るくなった。
     
    初鰹を買う人「これさ、これさ、そんならもう二朱(一両の1/8)やろう。初鰹はつがつおで七十五日寿命が延びれば、二分ぶでも安いものさ」
    魚屋「鎌倉でとれた魚でござります。見なせえ、魚が違います」

     


    九

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    身請けする男「残りは五百両でさっぱりかな。合計千五百両受け取らっしゃれ。それでは、明日、引き取ります」
    女郎屋「お金を受け取ったからには、女郎は生き物でござりますれば、早くお渡しもうしたい。女郎の契約書の残りも、よろしくいたしました。おまえ様のところへ行ければ、女郎は玉の輿たまのこしでござります」

     


    十

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     それより、仁田四郎にたんのしろうは、この男と一緒に、「地獄の穴」を見る。ここで松明たいまつ五本のうち一本消したが、ずいぶん明るく見える。
    女「わたくしは、ただ今まで、丸の内のお屋敷に奉公しておりましたが、仕えていた姫様がお亡くなりになり、家に帰ったところ、叔父おじさんが着物をみんな売ってしまい、どうにも仕方がなく、このような恥ずかしい女郎をいたしております」
    客の男「それは、はあ、気の毒なことだねえ。功徳くどくのために、ちょっと料金をはずんでやろう」
     
    男「見なせえ。あの女は、向千住むこうせんじゅに女郎奉公していたが、買い食いやなにかばかりして、そのうえにつきあいが悪いから、伏見ふしみ町へ店替がえして、ちょっと顔がいいからまた店替えして、地獄の女郎がもうかるだろうと、昨日からここへ出るようになったが、あのしゃべりで、髪型はさっぱりだねえ」
    仁田「わしはまた、あの女の話を聞いて、今まで涙が出ていた」

     


    十一

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     それよりまた、よほど行けば、「客の穴」という場所ありて、いやらしきこと多し。これよりしだいに明るくなり、ここでまた松明たいまつを一本消す。

    男「ごらんなさい。あの侍さむらいは、女郎を倒して遊ぶ気さ。今流行はやりの仲間さ」
    仁田「なるほど。なんともいえぬ形だ。女郎も不承知ふしょうちのように見える」
     
    客の男「なんと今夜は、二朱で遊ぶ気は中山富三郎」
    女郎「おめえも毎晩店へ来なくてもいいのに。店の者がやかましい。それに今はちょっと都合が悪い。立替たてかえももうできねえ」
    客の男「なに、都合が悪い。さあ、それでははじまらねえ。そんならこうもあろうか」
    かすかとて ひきに来たのの ふととぎす
     ほととぎすならぬ、ふとどきな男だ。

     


    十二

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     さて、次の穴には、「女郎の穴」というものあり。手強いことの多い穴なり。ここで仁田四郎にたんのしろう、ぐっと明るくなり、残り三本の松明たいまつを消しけれども、少しも暗くはなく、まことに明るき通つうとなる。
     
    女郎「もし、どうしいしょうね。便所の中にきんかんほおずきを落としいした」
    女郎「これこれが、こんなうぬぼれを言ってよこしいした」
    女郎「おはぐろをつけてしまったら、なんぞいじわるな下卑蔵げびぞうをしいしょうね」

     


    遊郭ゆうかくの様子を描えがきながら次回につづく、

     


     勇壮ゆうそうな鎌倉時代の豪傑ごうけつが主人公のはずが、いつの間にか江戸の女郎の話になっている。これが江戸の戯作げさく、江戸の黄表紙きびょうしである。ところが、時代とともに、そんなおちゃらけが許されなくなって、京伝もストーリー中心の物語を作っている。それでも「べらぼうめ」とタイトルだけはおちゃらけた作品がこちら、

     

     
     
    神戸からの風。 歓怒の文字は「歓喜」「怒り」「喜怒哀楽」を示し、「かんど」は漢字では「神戸」とも書ける。「感動」とも書ける。 毎週、日曜日、木曜日更新。

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