
【展覧会レポート】 第77回 正倉院展 /奈良国立博物館:3
(承前)
もたもたしているうちに、本日で閉幕を迎えてしまう「第77回 正倉院展」。
筆者が感じた見どころ5つのうち、まだ2つが残っている。閉幕に間に合わず、情けないかぎりだが……続けていきたい。
↓前回。見どころ①〜③
【見どころ④】 入れ物まで美しい
正倉院宝物は大きな唐櫃(からびつ)に収納され、こんにちまで守り継がれてきた。
蔵、唐櫃、個別の箱の3重構造になることで、初めて一定の温度が保たれた環境となると、現在では結論づけられている。つまり、教科書で習ったように、校倉造の構造自体が調温機能をもっているわけではないのだそうだ。
唐櫃は、古くは奈良時代のものが残っており、そのものがいまや貴重な宝物。
なかでもさらに貴重なのが、例外的に文様が描かれた《密陀絵雲兎形赤漆櫃》である。
前後の面には、前脚を浮かせ2足で立つ横向きのウサギ2羽を、「ハ」の字に配置。よくみると、ただのウサギではない。耳が4つ……ではなく、肩甲骨のあたりから、耳と同じくらいの長さの翼が生えているのだ。レッドブルでも飲んだのだろうか。飛びかかるようなポーズが、カワイイ。
唐櫃のほかにも、さまざまな容器・収納用具が本展には出品されている。
文様つきの唐櫃を含めたこれらに共通するのは、「仕舞う」「中に入れたものを守る」といった本来の機能を満たしつつ、それだけにはとどまらない装飾性や技巧、美しさを兼ね備えていることだ。
双六盤の《木画紫檀双六局》を収納する専用箱《漆縁籧篨双六局龕》には、表面にラタン編みが貼り付けられている。きわめて目の細かい複雑な編組で、外箱としての機能だけを考慮すれば、なんら必要はないはず。でも、あえて、凝ったつくりが選ばれているのだ。
屏風の収納袋《揩布屏風袋》には、版木を押し当てて文様がつけられている。経巻を簀巻きのように包み、まとめて収納した《竹帙(じす)》には、色とりどりの糸を編み込んだ、これまた複雑な文様が表されている。
人目に触れることがけっして多くはないはずの部分にも、美をほどこす。天平人の美意識の高さには、驚かされるばかりだ。
【見どころ⑤】 やっぱり《瑠璃坏》
ポスターや目録の表紙になっている「主役」が、いつ登場するか……この点は、正倉院展の会場を巡る楽しみのひとつといえよう。
今年の主役こと、みんなだいすき《瑠璃坏》は、いちばん最後の部屋に鎮座していた。春先の「超 国宝」展では、中宮寺の菩薩半跏像がいらっしゃった空間だ。あのときは真っ白なホワイトキューブだったが、今回は暖色系でまとめられている。研究員の方によれば、ボルドーの赤をイメージした壁紙なのだという。
照明には、ただならぬこだわりがみえる。ご覧のとおり「映(ば)える」光景ともいえ、写真撮影ができないことを惜しむ声が、周囲の若者の口から洩れていたのは無理からぬことだろう。
下のような純粋な「作品写真」と今回の展示環境とを比べると、まるで別物である。
今回の展示方法では、四方に投影された像の美しさはさることながら、ガラスの透光性・透明感が強調されている点が見逃せない。これにより、環状の装飾とガラスに入った気泡とが呼応しあっているようにすら感じられたのであった。
本作の正式な登録名称は《瑠璃坏 附(つけたり) 受座(うけざ)》。
受座とは、ガラスの部分と金属製の台座部分とをつなぐジョイントのこと。受座は長らく行方不明になっており、ガラスと台座は分けて保管されてきたが、明治37年(1904)に現状の蓮弁形をした受座が新調され、めでたく接合。しかし……奇しくもその翌年になって、オリジナルの受座が発見されたのだった。そういうわけで、オリジナルが「附」の扱いとなっている。
展示室では、《瑠璃坏》と同じ展示ケースの隅っこに、オリジナルの受座が、ちょこんと置かれていた。
現状の受座は漆で接着されており、現代の技術では適切に外すことができないという。いずれ科学が進歩し、オリジナルの姿を取り戻すその日まで、オリジナルは「附」に甘んじて、ひとり眠りつづけるのだ。
次に拝見するのは、接合後のお披露目のときだろうか?——そんなことを考えながら、会場をあとにした。
11月10日、すなわち本日をもって閉幕した本展。
正倉院展とちょうど入れ違うように、紅葉のさかりがやってくる。秋の奈良に、楽しみは尽きない。
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ならまちの奈良市史料保存館では《正倉院御開封之図》(江戸時代・天保4年〈1833〉 個人蔵)を拝見。正倉院展の時期に合わせた関連展示である。

《正倉院御開封之図》は、正倉院正倉の扉を開け、宝物を取り出して点検をするにあたっての人員配置、点検場所までのルートなどを詳細に記録した絵図。上のポスターは正倉の部分をアップにしたもので、じっさいはもっと広範に描かれ、サイズもかなり大きい。
絵図に描かれた範囲は、先日、正倉院正倉特別公開のときにまわらせていただいたエリアにおおむね一致する。建物の位置も同じ。そのため、描かれた情景がありありと想像できたのであった。
宝物を入れた唐櫃は、勅使や奈良奉行の立ち会いのもと正倉から運び出され、南西にある東大寺塔頭・四聖坊の室内で検分を受ける。途中の通路には、菰(こも)が延々と敷かれている。
四聖坊は、現在の西宝庫の位置。その手前・北側に小さなお堂がある点も変わらない。
勅使や奈良奉行の詰所は正倉の正面で、特別公開のとき、われわれが入場したちょうどあのあたりだ……などなど、見どころが尽きないのであった。
(11月9日に閉幕済み)
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正倉院展のにぎわいに合わせて、奈良の街もにぎわいをみせる。
この時期に発売される銘菓「火打焼(ひうちやき)」。2つを店内で、1つをお土産としていただいた。


(よく見ると、ペロッと舌が出ている)