
【シロクマ文芸部】 『その商品は、もう持っています』|月を見る|
午前3時。
町のはずれに、
見たことのない小さな店があった。
明かりがついている。
こんな時間なのに。
最初に入ってきたのは、
小さな白いくまだった。
そのあとを、
ねこが一匹。
うさぎも一匹。
みんな、眠そうな顔をしている。
店員は何も言わず、
「いらっしゃい」と笑った。
棚には、
「言えなかったこと」
「あと一度だけ」
「大丈夫」
「ひとりでいたい」
そんなものが並んでいた。
白いくまは、
しばらく棚の前で立ち止まった。
そして、
「あと一度だけ」

と書かれた商品を手に取った。
「これ、ください」
店員は、
その商品を見てから、
「それ、もう持っているでしょう?」
と言った。
白いくまは、
自分の両手を見た。
何も持っていない。
「……どこに?」
店員は答えなかった。
ただ、小さな紙袋を一つ渡した。

「今日は、それだけでいいよ」
白いくまは、
よく分からないまま店を出た。
何も持っていないはずなのに、
なぜか、空を見上げたくなった。
外は、まだ真っ暗だった。
雲の切れ間から、月が見えた。
ねこも、うさぎも、
それぞれ何かを買って帰っていく。
誰も、
何を買ったのか話さなかった。
朝になって、
白いくまが目を覚ますと、
枕元に、
昨日の紙袋が置いてあった。

あの店は、
もうどこにもなかった。
ただ、
白いくまの胸の中には、
「あと一度だけ」
が、
ちゃんと残っていた。
✳︎最後までお読みいただきありがとうございました。
【シロクマ文芸部】
クマが主人公の話しです。
茶クマが登場します。笑
✳︎普段は、大人の「離れられない関係」を描いた
恋愛の物語も書いています。
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